美味しいお肉。



 普通、人を食事に誘う時と言えばディナーが一般的だろうか。


 仲の良い友人であれば昼食も有り得るが、殆ど面識が無い相手を食事がメインで誘う場合は、やはり遅い時間がらし・・だろう。


「さぁさぁ、好きなだけ食べておくれ!」


「頂きます!」


「わんっ!」


 ずっと流れてたお食事の約束。


 テレビ局のお偉いさんとのお食事は、しかしそんなセオリーとは無縁のお昼時だった。


 東京某所、日本で一番美味しいお肉を出すと豪語するお店を伝手・・でお昼に開けさせたお偉いさん、豪徳寺実彰ごうとくじ さねあきさんは、良い笑顔で私達にお肉を勧める。


 お店は極小数だけが入れる完全予約制のお店らしく、店のオーナーが直々に、目の前でお肉を鉄板に乗せてジュ〜っと焼いてくれる。


 席順は豪徳寺お偉いさん、私、ナイト、そして琴野ことのちゃん。


 琴野、is誰か? お偉いさんのお孫さんである。


 私と合わせたいって言ってたしね。お偉いさんはナイトのファンで、お孫さんは私のファンだとメールに書いてあったねそう言えば。


「はーい琴ちゃん、あーん」


「あ、あーん……」


 真緒と同い歳か一つ下かなってくらいの女の子で、私の真似をしてツインテールにゴスロリ衣装を着てる琴ちゃんに、マスターが焼いてくれたステーキを切り分けて食べさせてあげる。


 ずっとモジモジしてた琴ちゃんは真っ赤になりながらパクッと食べてくれた。


 その私の隣ではナイトがお偉いさんから山ほどのお肉を食べさせてもらってる。


 琴ちゃんが可愛くて私もニコニコだし、美味しいお肉をバクバク食べれてナイトも幸せ。お偉いさんも大好きなナイトにお肉を好きなだけ食べさせて良いイベントにハッピーだし、私の自惚れでなければ琴ちゃんも幸せだよね?


 なんと言う幸せ空間か。三方良しどころか四方良しだね。


「ふぁぁ、赤身から旨味がぁ……」


 日本一美味いお肉を出すと言うだけあって、ステーキがめちゃくちゃ美味しい。


 噛み締めるお肉は柔らかく、火入れ具合も完璧で噛み応えと柔らかさのバランスが神がかってる。


 柔らかいお肉ほど美味いと思われがちだけど、やはり人は『お肉を噛む』事にさえ美味さを感じる生き物だ。水のように溶ければ良いってもんじゃない。


 お肉がお肉として私の歯で噛み切られる食感と、さらに硬過ぎて意識が味より噛む事に向かない絶妙な肉質と焼き具合。


 ああ、日本一美味いお肉とは、素材のみで語る事じゃ無いんだね。この店は、焼きの技術を含めて日本一を名乗ってるんだ。それだけの自信が有るんだ。


 脂身など無くても肉は肉。噛めば脂が溢れて旨味が口の中を泳ぎ出す。おのれ貴様は牛のくせに魚だったのか。私の口が大海原おおうなばらってか。


「…………うみゃぁ」


 そう。うみゃぁなのだ。色々考えたけど最終的には「美味い」に帰結する。それでいいんだ。美味しいんだから、美味しいって感想だけで充分なんだよ。


「………………ハッ!? そうだ、私からもお土産があったのに忘れてた」


「ふむ? 今日のフラムくんは100%ゲストだから土産など気にしなくて良いんだが……」


「あ、いえ。私もずっと気になってた物なので、一緒に是非」


 あまりの美味さで意識が飛んでて、せっかく用意したサプライズを忘れそうだった。


 私はインベントリからドドんと荷物を取り出し、マス・・ター・・に差・・し出・・。その様子を見てた琴ちゃんが生の蒼炎を見てお目々がキラキラしてる。


「……これは?」


 私が出したのは、白い紙に包まれた、なんか高そうなデカいお肉だ。


「これは銅竜のテール肉です。検閲が終わったので」


「ッッ!?」


「ほっほう!? これがあの、銅竜かね!?」


 マスターとお偉いさんは目を見開いてそれを見た。今日の為にわざわざ高そうな包装もして貰ったからね。


「どうです? 食べません? マスター、これ調理する自信有ります?」


「…………クク、その挑戦受けて立ちましょう」


 ◇


 うみゃぁだった。美味すぎて死ぬかと思った。銅竜乱獲しようかなマジで。


 あまりに強い旨味だから、マスターは最後まで「くっ、活かしきれない……!」と不満気だったけど、めちゃくちゃ美味かった。


 飛んでもなく美味しいから、琴ちゃんなんて食べながら情緒が崩壊して泣き始めちゃったくらいだ。美味すぎて感情がコントロール出来なくなっちゃったんだね。


 テール肉の他にもロースやサーロインなど、出せる部位は全部出して見た。余ったお肉はマスターにプレゼントした。是非極めて下さいと言って。


 するとマスターは代わりに連絡先を交換してくれた。このお店は夜しかやってないけど、一週間くらい前に連絡すればお昼に開いて貸し切るから是非来てくれと。


 今度は家族連れて来ますねって約束した。その時は銅竜以外にもダンジョン産の美味しいお肉も持ってくると。


 今は世間で出回ってるダンジョン産のお肉って、四層の獣が精々だもんね。


「あ、なんなら少しだけ、今コプト肉出します?」


「是非ッ……!」


 コプトはダンジョンに有る町が「食用」と太鼓判を押すお肉だ。沢山狩ったからインベントリにいっぱい入ってるよ。私もそろそろインベントリの中身を整理しなきゃアカンよなぁ。これ無限じゃ無いし。


「さて、美味しいお肉も堪能しましたし? そろそろお仕事のお話しします?」


「おや、今日は本当に食事だけのつもりだったんだが……」


「でも、ダンダンファイヤーでしたっけ? あれ流れちゃってますし」


 腹も膨れたところで、少しだけ真面目なお話。私は約束を守る幼女なので。ちゃんと番組の事を決めないとね?


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