伸びてたお約束。



 銀級が落ち着いてから、私達はとても落ち着いた日々を過ごしてる。


 ダンジョンの『ダ』の字も出て来ない日々だ。嘘ごめん『ダ』の字どころか『ダンジョ』くらいまでなら出て来るわ。世界で一番当事者だもんね。


 世間からは色々言われてる。良い事も悪い事も。


 何やら私に力が有るから世界のブレイクしそうなダンジョンを鎮めて回るべきだとか何とか言ってる団体に「自分達で勝手にやれ。力ならダンジョンで手に入る」とペイッターで発信したり。


 何やら私に力が有るから日本のアタッカーを牽引して育てるべきだとか言うコメンテーターに「自分でやれ。力ならダンジョンで手に入る」とペイッターで呟いて。


 何やら私達には力が有るから家族全員でボランティアして国に奉仕するべきとか言う自称有識者に「自分の家族にやらせろ。力ならダンジョンで手に入る」とペイッターにアップして。


 何やら私にはお金が有るから世界の恵まれない子供達に寄付するべきだと言う道徳家に「自分でやれ。金ならダンジョンで稼げる」と----


 いやもう面倒。近頃はペイッターのアプリを起動することすらしなくなったよね。


「世間が煩くて、また学校に行けないのですが」


「むぅ、学校いきたい……」


 休学が明けずにまだ家に居る私と真緒。本当なら銀級の問題も解決したから学校にも行けるはずなのに、世間が煩くて上手く行かない。


 マスゴミみたいに燃やす対象がハッキリしてるなら良かったけど、『世間』だと無差別に殺す訳にもいかなくてどうしようも無いんだよね。


 何が煩いって、まずテレビだよね。ほんと無責任に喋るだけのコメンテーターって職業はよォ……。


「て言うかなんで沖縄がブレイクしたの? 私の責任じゃ無くない?」


「まぁ微塵も関係ないわな」


 家でテレビを見てると、最近のニュースと私を結び付けて好き勝手喋るクソコメンテーターが居る。


 なんか、私達がダンジョンに潜ってる間に沖縄に有るダンジョンがブレイクしたらしいんだよね。


 テレビが言うには私のせいらしい。時間のかかる銀級を攻略する前に沖縄の銅級を抑えてから行けば良かったとかなんとか。


 そも私は沖縄のダンジョンがブレイク寸前だったとか知らないし。いや知ってても多分無視したけど。沖縄でブレイクしても私達に被害無いし。それは沖縄のアタッカーが頑張る事だ。


 しかも、なに? テレビが信用ならないから自分で調べて見たけど、沖縄の活動家達が何かやったんでしょ? ダンジョンを占拠してヒートゲージ隠したりとか。


 それでもブレイクした理由がちょっと良く分からないんだけどさ。同じ色のダンジョンはヒートゲージが僅かながらに連動してる。Aのダンジョンでヒートゲージを減らすと、その1%前後だけBやCのダンジョンもヒートゲージが落ちる。……みたいな仕組みがある。


 これはダンジョン同士の距離に応じて連動率も変わると最近分かったらしいんだけど、それでも国内なら連動もそこそこ強かったはず。


 銀級に行く前にしっかりと東京の銅級を制覇したし、その後はお父さんが攻略を進めてたはず。


 なのに沖縄がブレイクしたの? 活動家が占拠して隠しただけで? 


「沖縄のダンジョン、なんかおかしいよね」


 どうやってもヒートゲージの計算が合わない。なんかそれすら私のせいにされそうな感じだけど、まぁほっとけば良い。国がそのうち潰すでしょ。私達の機嫌を損ねる訳にはいかないはずだし。


 ちなみに、ブレイク自体はかなりの死者を出しつつも既に鎮圧済みだ。ろくに抵抗出来なかったあの日とは違い、今は通用する武器も人材も居るんだから当たり前だ。


 なのに何故駆け付け無かったのかとか、色々言われ放題だ。なんかどっかの国から私下げしろってお金もらったのかなコイツ?


「て言うか、意外と諸外国はダンジョンブレイク起きてんだね」


「優子に協力を要請する声もあるぞ」


 まぁ、そうだろうね。


 私達に要請を出すだけ出しとけば、諸外国は『蒼乃フラムが助けてくれなかった』とある程度の責任を有耶無耶に出来る。絶対に「なんで助けてくれなかったの!」って層は一定数居るからねぇ。


 せっかく平和になったのになぁ。外野が煩いんだよなぁ。みんな滅べば良いのに。


「真面目にダンジョン亡命する? サナの町なら生きて行けるよ」


「24時間プライベートを配信に垂れ流すのは勘弁して欲しいなぁ」


「それに、学校にも行けなくなっちゃうよ? おねーちゃんは学校行けなくていいの?」


 良くは無いけど、背に腹はかえられぬって感じかなぁ。


「まぁ、そう言うのも含めて俺の仕事って事だな」


 お父さんは本格的に、私たちのマネージャーみたいな事を始めるらしい。冒険者ギルドの手続きやらも並行して。


「そもそも、こんな馬鹿げたこじつけをマトモに聞いてる奴の方が少ないから気にする事ないぞ。世間は得てして馬鹿の方がデカい声してんだよ」


 ノイジーマイノリティって奴だねぇ。少数派のくせに声だけデカくて大多数に見えたり装ったりする人達のことだ。


 自分の意見のくせに「我々は」とかすぐ言っちゃう類の奴らだ。


「それより、優子は準備しなくて良いのか? そろそろ約束の時間じゃ無いのか?」


「え? …………あ、忘れてた」


 お父さんに言われて思い出す。


 今日はお偉いさんとのお食事があるんだった。


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