武技の種類。



 道場にお邪魔した私達は早速、師範に稽古を付けてもらう。


 師範も結構乗り気らしくて、私達全員分の道着みたいなのを用意してくれたから、更衣室を借りて着替えて来た。


「おすっ!」


「おーふ!」


「ふふ、ニクスちゃんそれちょっと違うわよ。押忍、って言うの」


 登場では他の門下生さん達も型稽古をしてたり、組手をしてたり、私達としては武芸百般流の先輩なので見てるだけでも勉強になる。


 最初は型を教えられてそれをやる。やりながら、武技の術理を師範が説明してくれた。


「そのまま聴くと良い。型は乱さないように」


 どうでも良いけど隣で「えいや! えいや!」って頑張るニクスが可愛くて鼻血出そう。


「基本的に、武技とは魔力に血を通す技術の模倣技である」


 魔力を経由して、魔力を纏わせ染み込ませた物に+アルファ何かを付与するのが武技である。


 例えば拳に魔力を纏わせて、圧縮して、魔力の濃度を上げて『干渉力』を上げただけでも立派な武技であるけど、そこにプラス何かを付与出来たら一人前らしい。


 拳打の基本は『衝撃』を加える事。殴ったらインパクトで相手が吹っ飛ぶような武技になる。


 発展すると手刀に『鋭さ』を加えて切断力を持たせたり、足裏に『衝撃』を入れて踏み込みの速度を増やしたり、最終的には纏う魔力を伸ばせばリーチも伸びる。


「武器で行うならば、この『伸ばし』は必須の技術だろうな」


 正直なところ、武技で行える+アルファはそう多くない。


 衝撃、刃化じんか、不動、隠形おんぎょう。この四つ。


 そう、やっぱ隠形あったね。これを身に付けて全身に施せば六層で探索出来そう。


 多分、物理職が隠形で偵察しながら先に進んで、危ない場面に遭遇したら魔法職がランク4をぶっぱなす。これが正しい六層の攻略なんだろう。


 不動って効果は防御系で、衝撃を吸収して拡散する仕組みを魔力に与えるんだとか。例えば私の腕に不動を使うと、斬られたり殴られたりする衝撃を吸収拡散してダメージを減らせる。


 盾持ってこれを使えばかなり強いタンクになるのでは?


 まとめると、これらのスキルモドキを魔力に付与して戦うのが武技である。って事らしい。


 後はその武技に相応しい武術をセットとして、武芸百般流。徒手空拳は基本として、それぞれが得意な武器に合った武技の使い方と武術を教わる。


 私はそこにもう一つ、武技とか関係無い基本の戦斧術も教わる。お母さんはナギナタの元選手だから基本は出来てるから要らない。


 あ、ニクスは「おねーちゃんやるならニクスもやりたいっ!」と言って同じメニューだ。武器も同じだしね。



 そうして、二日が経過。



「うわ、すごっ…………」


 みっちり教わった私は、見違えるほど使える・・・ようになってた。


 師範や先輩達から見たらまだ拙い技術なんだろうけど、それでも今の私にとっては凄まじい変化を感じざるを得なかった。


 身体の動かし方を知る。これの重要性なんてとっくに知ってるつもりだったけど、つもりはあくまで『つもり』でしか無かったのか。


 師範に教わった斧の使い方、振り方、足運び等々、それだけでも見違えてしまった。二日でこれか、多分知性が上がってるのも理由なんだろうけど。


 何より、武技が凄い。なんだこれ必須技術過ぎるじゃん。


「ただ歩くだけでも使えるとか…………」


 足の裏に展開する拙い『不動』が衝撃を吸って拡散する。これによってまず足音が消える。膝に不動を使えば歩く際に生まれる膝への負担も減らせる。何だこのチート技。


 衝撃も、ちょっとした事にほんのひと摘みだけ混ぜると、身体の駆動効率が上がるように思った。ただ手を伸ばす時にでも肘でちょっとだけ炸裂すれば、楽に手を前へと伸ばせる。


 正直なところ、刃化はまだ戦闘以外に使える自信が無いんだけど、でも多分何かしらには使えるんだろう。これからも精進していこう。


「身体が軽い……」


「なんと言うか、魔力の細かい使い方を身体が知ったから、体内の魔力も整頓された気がするわね? 実質は変わらないのかも知れないけど、心做しかスッキリして身体が軽く感じるのよね」


「ほんそれ。自分の中の倉庫に乱雑にしまってた魔力が整頓された気がする。身体が軽いのはそれでか」


「おねーちゃん見てみて! ぽーん!」


 二日過ぎたので、今日からまた四日間は六層で虐殺のお仕事が待ってる。その六層へ向かう道すがら、考察してる私とお母さんの合間を、ニクスが不自然な感じでぴょんぴょんと飛び跳ねる。


 ニクス、下りの階段でそれやると頭ぶつけ…………、ああ手遅れだった。痛そう。


「ぅぅう、いだぁいっ……」


「ほらほらくーちゃん、抱っこしてあげるからおいで」


「うぅ、おねーちゃぁん……」


 不動と衝撃を組み合わせて軽い力で大ジャンプ、みたいな事をしてたニクスがゴンッと天井に頭をぶつけていじけてしまう。超可愛い。


 グズるニクスを抱っこしながら階段を降りて、もはや職場と言えるかも知れない六層の箱へと辿り着いた。


 ふむ、妹を抱っこするだけでも武技が役に立つな。不動は本当に、極めるとコレだけで無双出来そう。


 ふむ、覚醒者だけの時代は終わりっぽいかな? まぁそれでも覚醒者のアドバンテージは無くならないし、その時代もまだ遠いけど。


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