仕事の終わり。



 あれから更に一ヶ月くらいか。もう正確な日数は覚えてないけど、アイズギアでカレンダー見るとそんな感じだった。


 今日、私達はやっと銀級のヒートゲージをゼロにする事が叶った。これで最低でも一年は大丈夫だ。


「じゃぁ、お世話になりました。これで一度、故郷に帰ります」


「ああ、元気でねぇ」


「また来るんだよ。白いお嬢ちゃんは筋が良いからねぇ」


「精進を怠るのではないぞ」


 町の門で、ずっとお世話になってた宿屋の女将さんと、魔女のおばちゃんと、師範の三人が居た。私達のお見送りをしてくれてる。


 サナ族の人達は階層の話題を出さなければバグらないし、それ以外なら基本的に優しく理性的な方々が多かった。勿論例外は居たけど。


 宿の食堂で酔っ払ってお母さんに絡んだ奴は未だに許してないからな。多分私より強かったけど、それでも刺し違えてやるって気合い入れてたら女将さんが止めてくれた。あと相手をボッコボコにしてくれたのでスッキリした。


 女将さんも「子持ちの旅人に唾付けるほど元気ならアタシが相手シてやるよォ!」って助けてくれたのは嬉しかったな。


 基本的に、サナ族は強い。NPCがどうとかって舐めた態度は取らない方が良いだろう。


「また来ます」


「またねぇ〜! おじちゃんもおばちゃんもバイバーイ!」


「娘共々、お世話になりました」


 本当にまた来るし、湿っぽくする必要も無いからさっさと帰る。と言っても帰還を使うだけなんだけど、目の前でやると皆さんがバグる可能性もあるので、離れてからやる事にした。


 手を振って町から出て、いつも通りの道を歩いて四層へ向かう階段を目指す。


 その途中で森に入り、町からの視界が途切れたところで、私達は全員帰還システムを起動した。


 ◇


 凱旋。そう、凱旋と言って差し支えないだろうと思う、私達の帰還だ。


 一瞬で終わる転送の先に、見慣れたアスファルトと人集りが見えて息を吐いた。ああ、外だ。


「優子ちゃぁぁあん!」


「あさだぁぁあ!」


「あさださーん!」


「まおちゃぁぁぁああ!」


 水元公園ダンジョン管理区に帰還した私達を迎えた第一声は、友人達の歓声だった。


「ありゃ、羽ちゃんと湯島くん?」


「浜ちゃん! ゆーきくん!」


 私達の配信を見て帰還のタイミングを知っただろう友人達が、管理区まで来てくれたらしい。凄く嬉しいサプライズだ。


 ただ、とても残念なことに今この時点で私の実名が世界的にバレた。だって友達の後ろにはビックリするほど人集りが出来てて、その中にはマスコミもウヨウヨ居た。


 しかも「oh! Amazingアメージング!」とか叫んでる海外勢のマスコミも居て、マシで世界規模にバレてしまった。


 バッチリ「あさだ」と「優子ちゃん」と「まおちゃ」が発言されてるからね。でも迎えに来てくれたお友達を攻める気なんて少しも無い。悪いのは何時だって空気を読まないマスコミだ。


 あまりにも人が多いし、外国人もかなり居る。ヒートゲージを下げたから、安全性も上がって観光地としての価値も一緒に上がったのかな?


 まぁ良いか。もうそろ、私のパーソナルデータとか隠せる領域の問題じゃ無くなってきたしな。政府にもガッポリ恩を売ったし、精々守ってもらおうか。


「なぁあさだ! これ見ろ! 急げ!」


「優子ちゃんのお父さんが……」


 なぬ? 待て、なんで今ここでお父さんの話題が出る? 湯島くんが差し出すスマホはなんだ。


「…………………………えっ」


 その画面には、何故か少し若返って紅い犬耳を生やした、お父さんが映ってた。


 見覚えのある、銅の大扉を前にして。




「後 は 頼 ん だ ッ !」




 私は速攻でナイトに跨って走り出した。自分のライセンスをお母さんに投げて、ナイトに魔力を渡しながら蒼炎でジェット噴射の如く空に駆ける。


 融通した魔力でナイトが衝撃の武技を足に纏って空気を蹴り飛ばし、蒼炎の噴射と組み合わせる事で空を走り抜けるだけの力を生み出せた。


 ナイトは幽霊であり、重さがほぼ無い。そこに乗ってる私と鞍装備ドッグライドを浮かせるだけの力を生み出せるなら、空を走ることが可能となる。


「待っててお父さんッッ……!」


 アイズギアを操作して、地上に戻った弊害に一気に届くメールやメッセージなどを全て放り投げでお父さんのチャンネルを探した。


 DMの毎時間再生数ランキングのトップにあるその動画を再生しながら、東京の街並みを眼下に駆け続ける。


「私が行くまで、無事で居て…………」


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