足踏みの始まり。



 ニクスと屋台食べ歩きなどをした結果、私主観のサナの町レポート。


 まず、思ったより広い。この町広いぞ。


 もしかしたらこの町、防壁の内側は空間が歪んでるとかで見た目より規模が大きい可能性がある。その場合は街や都市と言うべきなのかも知れないけど、住人達が自分で「ようこそサナの町へ」って言うから町で良いや。


 この町での支払いは例外なくDDダンジョンドルで行う。これは払いも受け取りも変わらない。


 話し変わるけど、アイズギアの制作会社であるDDスクリプトさんの『DD』とダンジョンドルのDDは別物だ。今更だけどね。


 DDスクリプトさんの『DD』は『DDダンジョンドロップ』って意味らしい。ダンジョン・ドロップ・スクリプトでDDスクリプトだそうだ。


 はい、話し戻って、支払いが例外無くDDって事は、支払いの下限が日本円換算で1200って事になる。1DDが1200円だからね。


 アメリカみたいにセントとか無い。全部ドルだ。DDの下限は1DDだ。


「宿が5DDで、屋台の串焼きとかは基本的に1DDで複数売りか……」


「んもぅ! またおねーちゃんお金の話してる!」


「あはは、ごめんごめん」


 つまりは纏め売りの文化なのだ。通貨の下限が1200円相当なら、1200円分のセットにして売っちゃえって事なんだろう。と言うか日本みたいに、通貨が細分化してるからって最小単位でバラ売りする文化の方が珍しいんだっけ? 先進国ならこんなもんだっけ?


 やっぱりネットが使えないダンジョンは不便だなぁ。気になった事をその場で調べられない。


「あ、おねーちゃん! あそこにアイテム売ってるみたいだよ!」


「おー、お母さんには頼んであるけど、自分でも見てみようか。知らないアイテムとかは見なきゃ分かんないしね」


 はしゃぐニクスに手を引かれて町を歩いて、やって来たのは市場的な場所。


 道行く獣人さん達が思い思いに過ごす中で、私とニクスは露店を冷やかして行く。


「むしろ知らないアイテムの方が多い件について」


「わあ〜、なにこれ〜!」


 私達幼女でも覗ける露店で、私達幼女の手でも握込める大きさをした漆黒のドクロとか、ウサギの尻尾ストラップみたいなアイテムとか、干した草とか根っことか、知らない物ばっかりだ。ニクスが手に持ってるのは黒いドクロだ。マジで何それ。


「おう! そいつぁ『怨み玉』ってモンでな、効果は--」


 買った。必須アイテムやってん。


 獣人のお兄さんが説明するドクロのアイテムは、見た目や名前と裏腹に普通の便利アイテムだった。


 なんでもコレ、一層にあったモクログサを主材に作られたアイテムで、焚き火に投げ込むと五時間は匂いを持続して獣系モンスターを追い払えるってアイテムだった。しかも人にはキツく無いように厳選したハーブも加えてあり、燃やしても臭くないらしい。神アイテムか?


 ついに、ついに念願のセーフティエリア生成用のアイテムが手に入った。正直辛かったんだ。


「おうおう! いっぱい買ってくれんならオマケしようかねぇ!」


 普通に有用で高級なアイテムなので、値段は一個20DDと結構お高い。けど背に腹はかえられ無いし、ダンジョンで比較的安全な睡眠がたった20DDで買えると思えばむしろ安い。


 ちなみに、魔力がたっぷりだったモクログサから分かる通り、燃やす時に怨み玉へ込めた魔力量で追い払えるモンスターの格が変わるらしい。


 その後も、ニクスと共に回る屋台は面白い物で溢れてたし、必須アイテムも多かった。


 途中で買い出し中のお母さんとも遭遇して情報交換をして、その後にまたニクスとデートをした。


 途中、『魔法入門』なんて本を見付けて購入した。やはりサナの町で魔法を身に付けられるらしい。


「帰ったら一緒に読もうね〜」


「うんっ♪︎」


 ニッコニコのニクスと一緒に遊び回るけど、どれだけ時間を使っても陽が落ちる事が無い。というか青い空に太陽なんて物は無く、無いものは落ちれないと言うべきか。


 ダンジョンの中にあるサナの町は、常に陽が出て夜が来ない町でもある。


「そろそろ帰る?」


「ん〜…………」


 陽が落ちるから子供は一日の終わりを感じて家に帰る。けどここだと陽が登りっぱなしだから、子供だろうとセルフマネジメントしないと永遠に家へ帰れない。家っていうか宿だけど。


 私が帰るか聞くと、ニクスは「まだおねーちゃんに甘えてワガママ聞いて欲しいけど、そろそろダンジョン攻略のテンションに切り替えないと……」みたいな葛藤が透けて見えるお顔で唸ってた。


「今日も寝る時はお姉ちゃんにぎゅってして良いから」


「ん! じゃぁ帰るぅ!」


 私はこの可愛い妹を一生可愛がる刑に処されてるから、うにうにと悩む妹は可愛がってあげないといけないのだ。


「まぁ、お休みは今日までだけど、どうせまだ滞在はするだろうし。またデートする時間くらいはそのうち取れるよ」


「ほんと?」


「たぶんね」


 私達は五層まで来たが、しかしまだ来ただけだ。六層への階段は見つかってないし、そしてどのくらいで見つかるのかも分からない。


 しかも、ヒートゲージの減少を目指してモンスターだって倒さないといけないのに、五層にはモンスターが見当たらない。


 六層への階段を探しながら、四層へ戻ってモンスター討伐まで並行してやる必要がある。どちらか一方に傾注すると片方が立ち行かない。


 階段探しを優先すると五層にモンスターが居ないからあっという間にヒートゲージが溜まるだろう。逆にモンスター討伐を優先した場合はヒートゲージに影響があるけど、もっとヒートゲージを減らせるモンスターを六層で探せない。


 それじゃダメなんだ。今のままだとヒートゲージの減りが怪しすぎで、拮抗出来ても拮抗じゃダメなんだ。だって私達が帰れなくなる。ダンジョンブレイク寸前のヒートゲージを保つ為に、永遠に戦い続けるとか冗談じゃない。


「まったく、困った階層だよ此処ここは」


 私達がこの階層を抜けるのが何時になるのか、私には予想すら出来なかった。


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