斧ちゃん。



「そんな感じで、テレビでもSNSでも、何でも良いから情報を吐き出しちゃえば、取り敢えずはマスコミの暴走は抑えられるかなって」


「なるほどー」


「……俺の娘がバチくそ頭良くなってる」


「いやそれは最初から言ってるじゃん。レベルアップのせいだって」


 自惚れじゃなければ、私は間違いなく時の人。私からテレビ局にでもコンタクトを取れれば二つ返事で何かしらの番組に出られるだろう。


 なにせ私はただの八歳児じゃなく、世界で唯一の銅級ダンジョン攻略者なんだ。絶対に数字が取れる。テレビに出さない理由がない。


 なんなら、私の望む条件で出演させてくれるなら、私を相手が望む番組に無条件で何回か出演させる権利でも渡せば良い。


 私は今すんごい危険人物だけど、私の優先順位に関わらない『ムカつき』なら普通に我慢出来る。番組でムカつく扱いされたってソレは問題じゃないんだ。


 私の引き金が軽くなるのは、家族が大きな理不尽に見舞われる場合と、私が家族と引き離される場合だけだと思う。


 それが出来るのは、大きな力を持った団体だけ。今回はマスゴミって言う『情報を司る団体』だから危ないわけで、民意を操作出来そうな団体を排除出来るならテレビでピエロになるくらいは我慢出来る。


 注意するべきは警察や国の上層と、マスゴミと、後暗い事が出来てしまう組織。


 私の居場所を壊せる相手をこの一手で封殺する。


「バラエティ番組とか、私がダンジョンで使ってた斧とか担いで現れたら盛り上がりそうじゃ--」


 …………あれ、そういえば私、あの斧どこやった?


「……ねぇナーくん、私の斧は?」


「……………………………………(逸らされる視線)」


「………………もしかして、銅竜のところ?」


「…………わふ」


 マジか。え、マジか。あれ無くしちゃったのか。


「……えっ、うわ、悲しい。思ったより悲しい。泣きそう」


 ナイトと一緒に旅した地獄ダンジョン。だけど私にはナイトが見えてなくて、だから私にとってあの斧は、壊れそうな私が見付けた唯一の道連れあいぼうだったんだ。


「うわっ、辛い。あの斧無くなっちゃったんだ……」


 ダンジョンで無くしたものは、二度と見つからない。ネットで見かけたダンジョンの常識。


 ダンジョン目線で所有が放棄されたアイテムが一定時間放置されると、霧のように消えてしまう。


 だから私が今から急いでもう一度ダンジョンに行って十層まで駆け抜けても、あの場所にはが居るだけで、あの斧はもう二度と帰ってこない。


「えっ、うそっ、泣きそう……、ごめん……!」


 お、斧ちゃん……! 私の斧ちゃん…………!


 出会ったのは八層だけど、それでも私を支えてくれた斧ちゃんがっ……!


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