第63話 この男はどこかで見た覚えがある

 レノマさん夫妻を護衛しながらトルニアへ行くという依頼は、これまで何の危険もなく順調に進んでいた。

 だが、名もなき峠に差し掛かった俺達一行は正体不明の連中の襲撃を受けてしまう。


「敵襲! 敵襲だ!」


 俺の叫ぶ声に答えるように、後方から声が聞こえてくる。


「おう!」

「敵襲、了解した!」


 マルチマップを見ると、前方の敵は13人。

 後方から迫ってくる敵は7人のようだ。


 すぐに俺はクロードさんに確認する。


「クロードさん、前方の敵は13人。俺が突っ込んで行きますから、その前に支援としてクロードさんとソフィアとエミリアさんで魔法を打ち込んでもらえますか。エミリアさんはその後はソフィアの援護をしてくれ。魔法を撃った後はクロードさんが前線に出てきて下さい。ソフィアとエミリアさんは敵がこの後ろに回り込まないように頼む」


「承知!」

「わかったよ!」

「承知致しました!」


 俺達パーティーの動きは決まった。

 そして俺は後方に向けて叫ぶ。


「後ろ! 聞こえるかぁ!!」


「「「おう!!!」」」


「後方から来る敵は7人だ! 前方の敵は俺達に任せてくれ! だから前方を気にする事なく後方の戦いに専念してくれ。すぐに救援に向かうから心配しないでいいから。よし、いくぞ!!!」


「「「「「おう!!!」」」」」


 襲ってきたのが誰だか知らないが、俺達に戦いを挑んだ事を後悔させてやるぞ!


 敵が姿を現した。

 頭に黒い布を巻き、鼻から下も黒い布でマスクのようにして顔の下半分を隠してる。

 この姿、どう考えてもまともな旅人じゃない。


「クロードさん、ソフィア、エミリアさん頼む!」


『『『火よ!』』』


 三人同時に詠唱すると、大きな火の塊が前方の敵目掛けて飛んでいく。


『ドガァアアッ!』


 大きな音を立ててクロードさん達の魔法が炸裂する。

 それと同時に俺は前方の敵目掛けて突っ込んでいく。

 この魔法攻撃で敵は4人倒れたようだ。(残り9人か)


 俺は敵に一気に肉薄してまず一人目を倒す。

 そして、弓を持っている敵を2人見つけ超高速のファイアランスをお見舞いする。

 俺の魔法攻撃を避ける間もなく弓を持った2人がその場に崩れ落ちる。


 弓持ちの敵を倒したタイミングで後ろからクロードさんが矢のような速さで駆けつけ俺の隣に並ぶ。


「クロードさん、1人か2人は捕虜にしますので生かして残しておいて下さい」


「うむ、承知した」


 敵が俺達の死角や脇に回らないように、ソフィアとエミリアさんが矢を放ち牽制する。

 敵の技量は結構高かったが、Aランクのクロードさんと、それを上回る俺とのコンビにはさすがにまるで歯が立たない。

 一番後方にいて戦闘に参加してなかった敵1人が途中から逃げ出したが、俺の瞬間移動で追いつき拳で殴って気絶させた。何かこいつがリーダーっぽかったからね。

 そしてもう1人を加えて2人だけ生かして、あとは俺とクロードさんで敵を倒した。


 前方から来た敵は撃滅したので急いで後方に支援に駆けつける。

 男爵の馬車の脇にレノマさんが立っており、周囲を警戒している。

 アーノルドさんとシルベスタさんがレノマさんを警護中だ。

 その脇を通り過ぎながらレノマさんに声をかける。


「前方の敵は片付けました。これから後方支援に行きます!」


「フミト君、頼む!」


「アーノルドさん、シルベスタさん。レノマさんの警護を頼みます!」


「任せておきたまえフミト君。この筋肉がノーと言ってもここは私達が守る!」

「フミト君、ここの警護は私達に任せてくれ」


 後方に到着すると、敵が4人倒れていてゼルトさん達のパーティーは全員無事のようだ。俺は胸を撫で下ろす。

 よく見ると、リーザさんが暴れまくってるぞ。


「うりゃぁああああああああ!」


 ゼルトさんは盾を使い相手を弾き飛ばし、トランさんは魔法を的確に当てている。

 ポーラさんは支援魔法で常にパーティーの人達をサポートだ。

 俺も手伝い残り3人の敵も倒して、これで後方の戦いも片付いた。


 周りを見渡し俺のサムズアップを確認したゼルトさんが叫ぶ。


「俺達の勝利だ!」


「「「「うぉおおおお!」」」」


 もう一度、全員を確認する。

 俺達を襲って来た敵は2人を残してあとは倒した。完全勝利だな。


 男爵のレノマさんも加わり、倒した敵のマスクを取り顔を確かめていく。

 この状況から推察すると、敵の目的はレノマさんで間違いないだろう。

 敵が何か身分を証明するものを持ってないかと持ち物を確認してみるが、正体がわかりそうな物は見つからない。

 顔もレノマさんは一度も見た事がないらしい。


 後方から前方の敵の確認に移る。こっちは2人捕虜にしてある。

 まず、倒した敵のマスクを剥ぎ持ち物や顔を確認していく。

 こちらも今までレノマさんは見た事がない人間だそうだ。


 最後に、捕虜にした2人の確認だ。

 1人目の男のマスクを取る。だがこれも見た事がない男らしい。

 そして2人目の捕虜の番だ。こいつは逃げ出そうとした奴だな。

 マスクを剥がして顔を確認すると、レノマさんが反応を示した。


「むむ、この男はどこかで見た覚えがあるぞ…」


 おっ、最後の最後で手掛かりが掴めそうだ。


「うーん、どこだったかな………ま、まさか!」


 レノマさんは何かを思い出したらしい。


「これは…この男は…間違いない…叔父上の使用人だ!」


 なんと! レノマさんを襲ってきた中にレノマさんの叔父の使用人がいるなんて!

 気が動転してるのか、レノマさんはそれ以上言葉も出ないようだ。


 俺はアーノルドさんとシルベスタさんに相談する。


「とりあえず、この場をどうにかしましょう」


 俺の提案に頷いたアーノルドさんとシルベスタさんが行動を開始する。

 シルベスタさんが今日の宿泊予定の集落まで馬で行き、人を呼んでくる事になった。馬だけなら馬車と違って相当な速さで駆けていける。


 残った男共はこの場の片付けと警備。まだ警戒を解く訳にはいかないからな。

 前方を塞いでいる倒木もどけなければいけないし、ここを通りかかった人の対応もしなくちゃいけない。


 捕虜の2人を魔力ロープで縛り、布で猿ぐつわをかます。

 貴重な捕虜であり証人だからね。


 さて、シルベスタさんが戻るまで待つとしましょうか。

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