観光の街トルニア編
第57話 何か勘違いしてないか?
ダリム迷宮30階層の攻略が終わり、迷宮の宝箱で見つけたアイテムをトランさんにプレゼントをしに行ったら、ゼルトさんから一緒に観光の街トルニアへ男爵の護衛依頼を兼ねて行かないかと誘われた。
その目的地である観光の街トルニアはオルノバの街の南東にある。
領地としては小さめだがレノマ コスタ男爵の持つ領地の領都でもあり、湖と温泉が売りで風光明媚な土地柄を活かした観光業が主な収入源の街らしい。
オルノバの街からは馬車で片道二日と半分くらいの距離だそうだ。
とりあえず、ソフィアにこの話を持ち込んでみないとな。
ソフィア達に用事があれば、その時は俺一人だけでもいいかと楽観的に考える事にした。
宿で一晩ぐっすりと寝て、目覚めた後は軽い朝食を5分で食べ終わる。
そして銅の帽子亭を出てソフィアの屋敷に向かって歩いていく。
そういえば、こちらの世界って体操とかジョギングみたいな習慣はあるのだろうかと、どうでもいい事を考えながら歩いていたらいつの間にかソフィアの屋敷に着いていた。
まだ、ちょっと早い時間だったせいかエミリアさんもまだ庭には出ていないようだ。
仕方がないので、この区画の周りをぶらぶらと歩きながら時間を潰す。
3周目でようやくソフィアの屋敷の庭にエミリアさんの姿を見つけてソフィアに取り次いでもらう。
「おはようございますエミリアさん」
「あら、おはようございますフミト様」
「朝早くいきなりで申し訳ないんだけど、ソフィアに取り次いでもらえないかな」
「かしこまりました。少々お待ち下さいね」
「別に俺相手でそこまでかしこまらなくていいよ」
「うふふ、フミト様ありがとうございます。でも、侍女としてはどうしてもこんな口調になってしまうんですよ」
エミリアさんの少し砕けた話し方はエルフ的年相応の女の子そのものだな。
屋敷の応接間に案内されて椅子に座る。
エミリアさんは二階のソフィアの居室に俺の来訪を伝えた後、トレイに俺とソフィアの分のお茶を乗せて持ってきた。
「ソフィア様はもうすぐ降りていらっしゃると思いますので…もう暫くお待ち下さい」
「あっ、ところでエミリアさんって旅行とか観光に興味がありますか?」
「そうですね、たまには旅行などで羽根を伸ばしてみたいと思う時はあります」
「じゃあ、暇さえ出来れば大丈夫ですよね」
「えっ? どういう事でしょう?」
俺とエミリアさんが話していたら、二階からトタトタと足音を立てながらソフィアが階段を降りてきた。
だが、俺とエミリアさんが二人で話してる姿を見てハッとしたように階段の途中で立ち止まったのが見えた。
俺は何でそんな所に立ち止まってるんだと思いソフィアに声をかける。
「おはようソフィア」
「お…おはよう…フミト」
何か消え入りそうなトーンの返事だな。
もしかして朝だから低血圧なのかな?
「どうしたんだ? 早く降りてこいよソフィア」
「わかったわ」
どういう訳か俺とエミリアさんの顔を交互に見ながら恐る恐る近づいてくる。
「それでは、私は元の仕事に戻らせていただきます」
エミリアさんは扉を開けて庭に出て行った。
「何してんだソフィア。俺はソフィアに話があって来たんだぞ」
「あたしに? あたしに話があってフミトはこんな朝早くに来たの?」
さっきまでの訝しげな表情から、パーッと花が咲いたように笑顔になるソフィア。
「早速なんだけど、本題を話していいか?」
「いいわよ、何?」
「急で申し訳ないんだが、俺と一緒に観光の街トルニアに行かないか?」
「えっ、なになに? もしかしてフミトとあたしがあのトルニアにお泊り旅行!?」
ソフィアが小さくガッツポーズしてるけど何か勘違いしてないか?
「あのさ、何か勘違いしてるようだけどトルニアには仕事で行くんだよ」
「…………………」
がっくりと肩を落としてるけど、何を期待してたんだろうか。
「ソフィア、ゼルトさんを知ってるだろ? この前、口髭亭で会ったよな。あの人が観光の街トルニアまでの護衛依頼を引き受けたんだけど、まだ護衛枠に空きがあるからって俺に声をかけてくれたんだ」
「なんだ…そうなの。トルニアは愛を育む夫婦やカップルに人気がある街だから…てっきり」
「それでさ、トルニアまで領主の男爵を護衛するらしいんだ」
「なんで男爵の護衛にあたし達が?」
「その男爵は男爵家を継ぐ前は冒険者をやっていてゼルトさん達とパーティーを組んでたんだってさ。だから、その縁もあって今でも友達付き合いしてるらしいよ」
「ふーん、そういう事なら納得ね」
「それで、あと4人くらいは大丈夫って言うから、俺とソフィアとクロードさんとエミリアさんの4人でこの依頼を受けてみないか? クロードさんの実力は折り紙付きだし、エミリアさんだって見かけによらずかなり強いんだろ?」
「まあね、クロードは当然だけどエミリアも強いわよ。でも、予定が空いてるかどうかはクロードに聞いてみないとわからないわね」
「じゃあ、早速聞いてきてくれないか。今日の午前中に返事を返さなきゃいけないんだ」
「ちょっと待って」
ソフィアが応接間を出てクロードさんの居る執務室に向かって行く。
少しすると、ソフィアがクロードさんを連れて応接間にやってきた。
「やあ、お久しぶりですなフミト殿。迷宮の30階層まで早々と攻略したとソフィア様から伺っておりますぞ。ソフィア様はフミト殿の話を始めると延々と話し続けて止まらないのです。私とエミリアはずっとその話の相手をさせられてるんですよ。ワハハハハ!」
「わー! わー! ちょっとクロード何言ってんのよ!」
「それで、先程チラッとソフィア様から聞きましたが、観光の街トルニアまで私めも一緒に行かないかとのお誘いでしたな」
「そうです、クロードさんとエミリアさんも一緒にどうかなって思って」
「宜しいでしょう。私もトルニアまでお供致しましょう。エミリアにも話しておきます。たまには休息するのも良いものですからな」
「ありがとうございますクロードさん。出発は二日後を予定しておりますのでよろしくお願いします」
「確かに承りましたぞフミト殿。二日後が今から楽しみですな」
クロードさんの了承を得た俺は、ソフィア、クロードさん、エミリアさんと一緒に護衛依頼を受ける事にしたのだった。
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