第62話 敵襲!敵襲だ!
トルニアまでの旅1日目
俺達一行は最初の宿泊地の大きな集落に到着した。
この集落は宿場町のような役割を果たしているらしく、民宿のような宿泊施設も結構あるようだ
先触れが出ていたので、集落の代表が俺達一行を出迎えてくれる。
1日目の旅はそれほど疲れる事なく、危険な事も一切なく順調な1日だった。
「ずっと座ってたから身体を少し動かさないとな」
俺がそう言ってラジオ体操のような真似事を始めると、皆が興味を持ったのか俺の動作を真似しながら動き出す。
「あっ、これいいわね。身体が楽になる」
「そうですな、伸びや屈伸をすると身体がほぐれるような気がします」
「フミトさんの真似をして身体を動かしたら凄く楽になりました」
おっ、トランさんとポーラさんも俺の真似を始めたぞ。
「フミト君、これいいね」
「おほほ、これで私も少し痩せるかしら」
宿泊場所の割り振りは、レノマさん夫妻が代表者の家の母屋。元の世界で例えると本陣みたいなものか。
ゼルトさん達パーティーは離れの家。俺達のパーティーは隣の家に決まった。
夕食を食べて暫く歓談した後、今日の見張りの予定を決める。
俺はクロードさんとの組み合わせを主張したが、誰かに却下されてソフィアと組む事になった。
深夜になり、俺の見張りの番が回ってくる。朝までが俺達の担当時間だ。
眠そうなソフィアを連れて集落の代表の母屋の前に行き、樽を椅子の代わりにして座り見張りを始める。
ソフィアは俺に寄りかかってくるし、こいつ見張りをする気があるのか?
空は満天の星空、たまに流れ星がスーッと流れていく。
ほぼ眠っているソフィアに俺のマントを被せて肩を抱き、周囲の気配に気を配りながら俺は綺麗な星空を見上げていた。
◇◇◇
朝だ、今日も天気は良さそうだ。
俺の片手に抱かれて眠ってるソフィアをゆっくり揺り動かして起こす。
「ん…うーん。おはよう」
目を瞬きながら起きるソフィア
「ソフィアの言葉を借りるならさ。いいのか? レディーがそんな顔を俺に見せても」
「フミトにならいいよ」
「はいはい。じゃあ、俺達の見張りはこれで終了だ。たぶん、母屋の中に居るアーノルドさんかシルベスタさんのどちらかが起きてるだろうから報告して隣の家に戻ろう」
アーノルドさんが起きてたので終了報告をして俺達が割り当てられた隣の家に戻る。
クロードさんとエミリアさんは既に起きていて準備も済ませている。流石だな。
朝食はそれぞれの宿泊場所に持ってきてくれるのでわざわざ移動しないのは楽だ。
それぞれのメンバーの朝の準備も終わって2日目の旅の始まりだ。
今日は街道を南に行った後に東へ向かう道に曲がりトルニアを目指す。
レノマさん夫妻も準備が出来たようでそろそろ出発だ。
「今日も皆よろしく頼むよ。それでは出発しよう!」
レノマさんの号令で馬車が動き出す。
今日は俺達のパーティーの幌馬車が先頭だ。
昨日、馬車の椅子に敷いた毛皮の話をゼルトさんにしたら、もし良ければ俺達にも貸してくれないかと言われたので皆の分を用意して貸してある。
馬車の旅って地面の衝撃がダイレクトに木の椅子を伝わってお尻に来るから結構痛いんだよね。
レノマさん夫妻の乗る馬車は椅子にクッションのような物が備え付けだそうだ。
一応、護衛という仕事なので周囲の警戒は怠らない。
「そういえば確認したいんだけど、エミリアさんの戦い方ってどんな感じなの?」
「はい、私はソフィア…さんを側で守る場合に必要なのでエルフの森に居る時に主に短剣術を覚えました。あと、弓術も覚えています。格闘術も魔法も使えますよ」
「それは心強いな」
清楚な印象と穏やかそうな見た目の割には結構やるようだね。
まあ、ここには俺やソフィアだけでなく、クロードさんもいる。
エミリアさんも加わればまず負けることはない。
外の景色を眺めながら馬車は街道を進んでいく。
林や草原が続いているが、少しずつ岩場が増えてきているようだ。
朝の説明だと、昼に野営地で休憩。その後、ちょっとした峠を越えて今日の宿泊地に向かう予定だそうだ。
御者の人が歌のような詩のようなものを口ずさみながら馬を誘導していく。
何事もなく休憩予定の野営地に到着した。
先客の馬車が2台ほど停まっていて、既に休憩している人達もいる。
「さあ、昼食休憩にしよう」
レノマさんの号令で御者が食事の準備を始める。
「座ってるだけっていうのも疲れるわね。そう思わないフミト?」
「ああ、確かにずっと同じ姿勢だと精神的にも疲れるな」
食事の準備が完了して皆昼食を食べ始める。
馬車に座っていてあまり動いていないけど、お腹は減るのだから不思議なものだ。
「おーい、フミト! 退屈で暇を持て余してるんじゃねーか?」
そう俺に話しかけるのはゼルトさんだ。
「あたしの膝枕で寝るかいフミト? 耳掃除もしてやるぞ」
「いや…そこまではいいです」
リーザさん、とても魅力的な提案ですがやっぱりやめときます。
その後、皆で談笑しながら昼食を食べ終え野営地を出発だ。
昼食も食べて気分転換も出来たし、午後の任務も頑張るとしますか。
野営地を出発して暫く進むと東方向へと行く道との分岐点に着いた。
トルニアの街へはここを曲がって東に1日ほど行けば着く。
先頭を走る俺達の馬車はそちらの道へと曲がっていき、後続の馬車もそれに続く。
御者が振り返って俺達に言う。
「ここまで来ればトルニアに着いたも同然でさ。いつもおいら達はこの曲がり角に来ると、もうすぐトルニアの街だって気持ちになるんですよ」
なるほど、そういう感覚って確かにあるよな。俺も元の世界では故郷へ帰省するのに新幹線を利用していたが、途中のとある駅に到着するともうすぐで故郷の駅に着くなって感覚になった覚えがあるもんな。御者さんにもたぶんそういう感覚があるのだろう。
街道の分岐点を曲がって東方向へ進路を取ると、少し登りの道になったようだ。
馬車の速度も下がってゆっくりと登り坂を登っていく。
遥か前方を見ると登り坂が途絶えてるからもうすぐ峠の頂上付近かな。
ん? 俺の第六感が何となく違和感を覚える。
マルチマップを確認すると、前方の道の両脇に大勢の人間がいるようだ。
後方にも人を示す点が近づいてくる。
俺はクロードさんやソフィア達にその事を伝える。
「クロードさん。前方の街道脇に大勢の人間が潜んでる。それに後方からも人が迫ってきてる。最大限の警戒を頼む!」
「承知した、フミト殿!」
「万が一の場合に備えてソフィアもエミリアさんも準備を!」
「わかったわ」
「わかりました」
皆に注意を喚起したタイミングで御者の人が馬車を停め、後ろを振り向き俺達にこう言った。
「道を塞ぐように木が倒れているぞい。こりゃ、困ったもんだ」
その時だった!
前方から矢が飛んできて、御者さんの腕に刺さる。
「うわぁあああああ!」
御者さんは悲鳴をあげて蹲る。
それを見た俺は前に出て御者さんを庇いながら大声で叫んだ。
「敵襲! 敵襲だ!」
名もなき峠での俺達の戦いがこれから始まろうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます