第105話 応援部隊到着

「ほう、ギルドマスターのバリー自らここに来るなんてどういう風の吹き回しだ?」


「いや、俺が来るのは当然ですぜクロードの旦那。こっちの嬢ちゃんに聞いた話じゃ《支配》されている奴を見つけたらしいじゃないですか。この前の王都の無差別テロ事件では冒険者ギルドに所属してる連中にも大勢の犠牲者が出てるんだ。だから知らせを受けて居ても立っても居られなくて俺自らが出張って来たって訳さ」


「バリーさん、ところで後ろの人達は?」


 エミリアさんの後ろには馬に騎乗して剣や鎧など装備を身に着けた人がバリーさんを含めて12人程居る。


「おう、この連中は丁度ギルドに居た奴らの中で腕の立つ奴に声を掛けて連れてきたんだ。それにあいつらはこの前の王都テロで友人達を失ってるからと、自分達からも志願してきたんだ。相手がどれほどの奴らか知らないが、お前さん達と連れてきた連中に俺がいて総勢16人。王都の衛兵にも冒険者ギルドから伝令を出しておいたからそのうち来るだろう」


「衛兵も一緒に来たんじゃなかったんですか?」


「こう言っちゃなんだが、あいつらの組織は一々書類だの会議だのと面倒な手続きが多くて動き出すまで腰が重いんだよ。まだ疑いの段階では現場が独断で出動するのにも何かと理由が必要だしな。それに比べて冒険者ギルドは機動力が持ち味だからな。あいつらを待ってるうちに対象に逃げられたら元も子もない」


 なるほど、こっちの世界でもお役所仕事の弊害があるって訳か…


「まあ、衛兵なんて居なくても俺達だけで大丈夫だろう。今度はこっちが攻める立場だしな」


「確かに、皆さん腕の立つ人達のようだし俺の出る幕がないかもしれませんね」


「何を言ってやがるんだフミトの兄ちゃんよ。俺の見込みじゃお前さんが一番強いと思うぜ」


「いや、バリーさん。それは買い被りすぎですって!」


「まあ、いいや。先にお互いの紹介とこれからの手はずを打ち合わせておこうぜ」


 バリーさんの掛け声で馬に騎乗してきた人達も馬上から降りて並びだした。エミリアさんは猫のようなしなやかさで俺達の脇まで戻ってきて横に並ぶ。


「分かりました。それじゃ俺達から自己紹介しますね。俺はフミト、隣にいるのがソフィア。こちらはクロードさん、そして王都まで行ってあなた達を連れてきた彼女がエミリアさん。この4人でパーティーを組んでいます。皆さんよろしくです」


 俺の挨拶と自己紹介を受けて、王都から応援に来た人の中から一人の男が一歩前へ進んで声を上げた。


「俺は冒険者のバートだ。そして俺の左隣の男がカーク。右隣の彼女がフリート。後ろの彼女がルシア。この四人でパーティーを組んでいる」


「バートさん達、よろしくです」


「おう、こちらこそよろしくな。この前の王都騒動の時には俺の知り合いが犠牲になったし、バリーさんから声をかけられて俺達も役に立ちたいと思ったんだよ」


「フミトの兄ちゃん。バート達のパーティーは全員A級の冒険者で王都の冒険者ギルドの中でも優秀な冒険者達だ。俺からもよろしく頼むぜ」


 残りの人達からもそれぞれ自己紹介を受ける。他の人はバリーさんから声を掛けられて参加した冒険者と腕利きのギルド職員だそうだ。バリーさんが選んだのだから皆それぞれ信頼が置けて頼りになる人達なのだろう。


 それはそうと、エミリアさんにもあの指輪を渡しておかないとね。

 エミリアさんに手招きしてこっちに来てもらう。


「エミリアさんご苦労さん」


「いえ、これしきのこと大したことではありませんよ」


 謙遜するエミリアさん素敵だね。


「ところで、この指輪を指に嵌めておいてくれないか。既にクロードさんとソフィアには先に渡して嵌めてもらっているんだ」


 俺がそう言うと、エミリアさんも一瞬ギョッとした顔になる。


「よろしいのですかフミトさん。私なんかが指輪を貰ってしまっても…」


「いや、君やソフィア達を守る為だし。もしかして嫌なのかな?」


「いえ、そんな事ないです! 一生大事にしますねっ!」


 さっきのソフィアに今度のエミリアさんといい、二人とも大げさなんだよな…

 何か俺の知らない深い意味でもあるのだろうか?


 よし、パーティーメンバーには念の為にあの指輪を渡したし、とりあえず準備はオーケーだ。


「おーい、フミトの兄ちゃん。この道の先に牧場跡があるんだよな?」


「そうですバリーさん。この道を少し進むと牧場跡の入り口に小屋があって見張りの男が常駐しています。奥の方には人が住むような建物と牧舎だったと思われる建物がありますね」


「承知した。冒険者ギルドのギルマスの俺が先頭で行こう。何か怪しいところがないか冒険者ギルドから調査に来たと言うつもりだ。俺達の出動形式は一応だが調査隊名目だからな。本音を言えば正面からではなく不意打ちで制圧したいところだが、ギルドもギルド法によって私有地に対する調査は何でも出来る訳ではないから仕方ない。だが、もし相手が聞き入れずに不測の事態になったとしたらフミトの兄ちゃん達や俺と一緒に来たバート達は戦闘も辞さない覚悟でいてくれ」


「「「「おうっ!」」」」


 その後、細かい打ち合わせをした俺達は冒険者ギルドのギルマスのバリーさんを先頭に街道から牧場跡への道に入り進んでいく。さっきの小屋が近づいてくるにつれて皆の緊張感も高まってきたように思える。


 前方に牧場跡入り口の小屋が見えてきて先頭を歩くバリーさんが近づいていく。


「おう、誰かいるかい? 俺は王都の冒険者ギルドのギルドマスターのバリーだ。確かめたい事があってここに来た」


 バリーさんが小屋に向かって声をかけると、暫くしてさっき俺達が会った男が剣を片手に小屋の扉を開けて再び姿を現した。バリーさんの後ろにいる俺達に一瞥を向けた男はバリーさんを睨みつけながら口を開く。


「ここは私有地だ、用のない者は去れ」


 先程と同じでまさに取り付く島もない口ぶりだ。


「そうはいかねぇんだよ。どうしてもここを調べたいんでね。大人しく俺達を中に入れてくれ。拒否するなら冒険者ギルドの調査権限を行使してまかり通ることになる」


 バリーさんの凄みのある問いかけに小屋にいた男は怯むかと思ったが、相変わらず無表情な顔をこちらに向けて俺達を追い払うかのように手をひらひらさせている。


 このままでは埒が明かないと、業を煮やしたバリーさんは「なら、仕方ねえな。ギルドの調査権限により立ち入る」と言い放ってずんずんと男に向かっていった。すると男は突然持っていた剣を振りかぶりバリーさんを目掛けて振り下ろす!


 だが、そうなるのを事前に予期していたバリーさんは、その剣筋を身を捻って素早く躱す。


「チッ! いきなりかよ。お互い冷静に話をしたかったのにな。とりあえず、これで俺達の力の行使が認められる」


 前にクロードさんに聞いていたけど、バリーさんの実力は申し分のないものらしい。年齢はかなり上だけど、冒険者時代に培った技術や実力は目を見張るものがあるんだって。まあ、王都の冒険者ギルドのギルドマスターを務めてるくらいだから実力がないと冒険者達を束ねられないよな。


 バリーさんに一撃を躱された門番の男は後ろに飛び退る。

 男は剣を構え直してバリーさんに向き直る。男が剣を振り降ろした瞬間を狙ってバリーさんは巧みに横に身体を躱し、地を這うような低姿勢から突っ込んで男の足に足払いをかけた。


 凄い! タイミングもバッチリだし動きに無駄がない。


 足払いを受けてその場にドサッと倒れる男に、バリーさんは追撃とばかりに強烈な蹴りを打ち込み容赦なく痛めつける。情けをかける気はないようだ。呻く男に懐から出した布で猿ぐつわを噛ませ俺達の方へ振り向く。


「バート、こいつを縛っておいてくれねえか」


 名指しされたバートさんは既に魔力で強化された特殊なロープを取り出していて倒れた男に駆け寄り慣れた手際であっという間に男を縛って拘束していく。実は俺も魔力で強化された特殊なロープは冒険者ギルドで購入していっぱい持っている。


 「これからが本番だ」


 バリーさんの言う通り、これからが本番だ。サラちゃんを探して連れ戻すという目的と、この前の王都でのテロ事件の真相に迫れる可能性が高いからね。


 今のでバリーさんの実力の一端も垣間見れたし、応援に駆けつけてくれた人達の存在もあるし、この時点で俺は結構楽観的な気持ちでいた。確かに《支配》スキルは高レベルの冒険者や騎士、そして傭兵や魔法師を支配して思うがままに操る厄介なスキルだ。だが、その大元の支配スキル使いをどうにかすれば片がつくと考えていたからね。俺はイメージ的に奴隷商人のような非戦闘系の奴が《支配》スキルの持ち主だと予想していたんだ。


 だけどその後、俺のその予想は最悪の形で外れることになるのだった。

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