第106話 見つけたものの
門番の男を厳重にロープで縛り、猿ぐつわを噛ませ脇の草むらに転がしておく。
その男を見下ろしながらバリーさんが俺達に向かって指示を出した。
「よし、これからが本番だ。とりあえず門番のコイツはそこの草むらに転がしておこう。手足の骨はへし折ったし拘束用のロープで縛ったから暴れようとしても本来の力を出せない。猿ぐつわもかましたから魔法の詠唱も出来ないな」
バリーさんの後にバートさんが発言する。
「ところでバリーさん、作戦の段取りはどうするんだい?」
丁度良いタイミングだ。俺達の第一目標はサラちゃんを探し出すのと無事に保護することだ。テロ事件の解決も重要だが、俺達パーティーとしてはまずサラちゃんの保護を優先させたい。
「すみません、ちょっといいですか?」
バートさんの後に俺もすぐにバリーさんに向けて声をかける。
俺の声に反応してバリーさんとバートさんが俺に顔を向ける。
「何だいフミトの兄ちゃん」
「俺は大事な友人を探す目的でここを突き止めました。たぶん、ここに居る可能性が高いと思っています。なので俺達はあの建物の後ろに回り込んでその友人の保護救出を最優先したい。相手が抵抗してきた場合のメイン戦闘はバリーさんやバートさん達にお願い出来ればと考えています」
俺はマルチマップという特殊なスキルを持っているおかげで、前衛も後衛も関係ない臨機応変な対応が出来る。俺達にとってはサラちゃんの救出が優先なのでね。
「確かに…ここを突き止めたのはフミトの兄ちゃんだ。大事な友人を探していて無事に保護したいという気持ちは当然だしな」
良かった。冒険者ギルドのギルマスという指揮権を振りかざして強引に主導権を握ってくる可能性を少し懸念してたけど、バリーさんは聞く耳を持つ人でありがたい。
「ありがとうございます。そこで俺達は牧場跡の周辺の木々の間を移動してあの宿舎のような建物の裏に回ります。俺達のパーティーは全員隠密スキル持ちなので見つかる心配はほぼありません。現場に着いて準備が出来たら合図を出しますのでバリーさん達の主力部隊は正面から建物に向かって欲しいのです。たぶん建物の中からは戦闘担当の連中が出てきてバリーさん達に向かって来ると思いますので、その隙に俺達が友人を救出したい」
暫く顎に手をかけて俺の提案内容に考え込んでいたバリーさんだったが、顔を上げると「承知した。それでいこう」と言って俺達の提案を受け入れてくれた。
「俺の提案を受け入れてくれてありがとうバリーさん」
「なーに、フミトの兄ちゃんの提案は冒険者ギルドにとっても損はない。むしろ、戦いのメインを俺達に任せてくれると言ってるようなものだしな。この仕事を請け負ってくれたバート達にも活躍の場や功績を与えられるから願ってもない案だ」
「俺達もその案に乗ろう。君達が建物の裏手に回って合図を出したら俺達が正面から向かえばいいんだな。戦闘は任してくれ。これでも俺達は王都では名の知れた冒険者だからな」
バートさんも俺の提案を承諾してくれて作戦の骨格は決まった。あとはあの建物に居ると思われるサラちゃんを無事に保護して、敵になるであろう連中を無力化するだけだ。
「それでフミトの兄ちゃん、あの建物の裏手に回ったらどんな合図を出すんだい?」
「準備が出来たら相手には死角になる建物の真上に光の玉を出現させます。10秒間だけ出現させますのでよく見ておいて下さい」
「それも承知した」
各々が今一度装備の確認をして作戦決行だ。
エミリアさんにも再度補助魔法をかけて貰ってブースト完了。
裏手に回る俺達はバリーさんに軽く手を上げてこの場から離れる。
この牧場跡の柵で囲まれた敷地の外は木が生い茂っていて隠れながら移動するのには最適な条件だ。しかも、俺達のパーティーは全員隠密スキル持ちなので敵に悟られる心配はほぼないだろう。
ソフィア達に目配せをしてすぐに動き出す。
移動途中に一旦止まって再確認だ。
「それじゃ俺達はバリーさん達に合図した後、建物の中に侵入してサラちゃんを探し出す。それでいいね」
「ねえ、フミトはスキルで中の人の位置が確認出来るんだよね」
「何度聞いても素晴らしいスキルですな」
「さすがフミトさんです」
「たぶん、サラちゃんは戦闘タイプではないから、もし操られていても表には出ていかないだろうと思う。ただ万が一の可能性もあるのでそこは臨機応変にいきたい。俺のマルチマップスキルで確認しながら皆に指示を出すってことでいいかな?」
「「「了解」」」
ここから先は無言で移動する
そして黙々と木々の間を駆け抜けて俺達は宿舎であろう建物の裏手に辿り着いた。
幸いな事に建物の裏手にはドアが設けてあってそこから中に突入出来そうだね。
窓から部屋の中を伺うと何かの作業をしてるのか数人の男女の姿が見える。
今のところ建物の中からはそれ以外の人の気配もするが俺達に気づいた素振りはなさそう。
隠密スキルがしっかりと仕事をしているようだな。
俺は手で建物の上を指差して合図の光の玉を打ち出すジェスチャーをする。
張り詰めた空気の中でソフィア達は無言で頷く。
生活魔法のライトの応用で建物の上に魔力を上げた大きめの光の玉を出し、バリーさん達に合図を送る。数えて10秒ほど経ったので光の玉を消す。
すると、俺のマルチマップスキル上でバリーさん達が動き出すのを確認。
大勢の人達が建物に向かって歩いてくるのを察知したのか建物の中で人の動きが出た。複数の人の点がドアに向かって歩き出す。
後はタイミングを見計らって俺達が裏から突入してサラちゃんの身柄を確保するだけだ。向かって来る人がいたら無力化。そうでない人も一応魔力ロープで拘束するつもりだ。
建物の表側からバリーさんの声が聞こえる。
どうやら抵抗せずに大人しく出てくれば悪いようにはしないと言っているようだ。
そして建物のドアが開く音がして、バリーさん達に向けて男が返答した。
「問答無用。この敷地に許可もなく立ち入った者や敵意のある者は排除しろとの命令を受けている」
建物の裏手に居る俺にも男の殺気が膨れ上がるのが確認出来た。
みるみるうちに、男から魔力が溢れてバリーさん達に向けて攻撃魔法を放つ。
「ファイアストーム!」
ついに戦いの火蓋が切って落とされた!
男が放ったのは火属性の範囲魔法だ。
その男の攻撃を機に建物の中から続々と人が飛び出していく。
建物の表側では本格的な戦闘が始まったようだ。
俺達は飛び出していく人の中にサラちゃんの姿があるかを確認していたが、どうやら表に飛び出した人達の中にはその姿がなく、お互いに顔を見合わせて安堵のため息をつく。
マルチマップスキルで建物をサーチすると、一つの部屋にまだ数人残っているのが確認出来る。もしかしたら、そこにサラちゃんが居るかもしれない。
「建物に数人残ってる、そこにサラちゃんが居るかもしれないから突入するよ」
「「了解」」
隠密スキルを発動したまま裏口のドアを開けて建物内部に侵入する。部屋には人影がなく戦闘の為に表に出ていったようだ。
マルチマップスキルが指し示す部屋はこの部屋の奥にあるちょっと大きめの部屋だ。立体投影で見てみると体つきや髪型の様子から女性が三人ってところか。
念の為、攻撃されるのを想定して臨戦態勢。
ドアの両側に俺とクロードさんが位置取り、後方にはソフィアとエミリアさんが弓を番えていつでも矢を放てる体制だ。
俺が片手を出してカウントを数え、ゼロになった瞬間にクロードさんがドアを開けて中に飛び込む。続けて俺も間髪入れずに部屋の中に飛び込んでいく。どうやらこの部屋はキッチンのようだ。
マルチマップで部屋の中に居る人の位置取りは把握していたので、素早く目視で状況確認をすると……
居たぞっ! 右側の壁際で立ったまま固まっているサラちゃんの姿が見えた。
食事の支度をさせられていたのか、手にお皿を持っている。
クロードさんに目配せをして俺は慎重にサラちゃんの元へ近づいていき声をかける。
「サラちゃん、フミトだよ。君の兄さんに頼まれて探していたんだ」
だが、サラちゃんは俺の声や姿にも反応せずに無表情で固まったままだ。
もしやと思いサラちゃんを鑑定してみると《支配》状態だった。
──くそっ、予想してたとはいえサラちゃんも支配されていたか…
キッチンには他に二人の女性が居たが、こちらの二人も支配状態だった。
「ねえフミト。もしかしてサラちゃんも支配されてるの?」
後からこのキッチンに入ってきたソフィアが不安そうな顔で俺に問いかけてきた。
エミリアさんはその後ろでソフィアに背を向けて、俺達が今まで居た部屋に注意を向けている。
「どうやらそうみたいだ。たぶんバリーさん達と表で戦っているここの連中の支配スキル持ちを倒さないと解けないと思う」
「フミト殿、サラちゃんとこの女性達をどうするつもりですかな?」
「うーん、支配状態なので念の為に表の戦闘の決着が着くまで拘束するしかないですね」
「やむを得ませんな」
サラちゃんには申し訳ないが、他の二人の女性と共に拘束用の魔力ロープでサラちゃん達を縛り上げる。三人とも抵抗はせずに大人しく縛られてくれた。
その間にも外では魔法の炸裂音や剣がぶつかり合う音が聞こえてくる。
さて、表の戦況はどうなってる?
キッチンからさっきの部屋に移動して開け放たれたドアから表の状況を確認する。
戦況を見ると、冒険者ギルド側が牧場跡の人達を圧倒しているみたいだ。
ギルド側にも何人か怪我人が出ているようだけど大丈夫そうだな。
「ギルド側が制圧するのも時間の問題のようですな」
クロードさんの指摘の通り、そろそろ決着がつきそうだな。
どの人物が支配スキル使いなのかまだ判明していないが、術者を倒せば解除されるはずだ。
バリーさんの技が炸裂して牧場跡の戦闘員で最後に残っていた一人が倒れていく。
よし、これで支配状態はキャンセルされるはずだ。
建物のキッチンに戻り、魔力ロープで縛ってあるサラちゃんの元に駆けつける。
だが、様子が変だ。支配が解けてるはずなのにさっきと状態が変わっていない。
──どういうことだ?
試しに鑑定をしてみるがまだ支配状態が続いているじゃないか。
おかしいぞ、マルチマップスキルでサーチしたが牧場跡側の戦力はここで俺達にロープで縛られた状態の三人を除けば全員無力化されているのに…
まさか、この中に?
いや、それはあり得ない。
なら、なぜ支配が解けないんだ?
そこで一つの仮説に行き着く。
──もしかして、無力化された人の中には支配スキル持ちが居なかったのかもしれないな。
だとすると、そいつは今どこに?
とりあえず外に出てバリーさん達と合流してみよう。
建物の外に出るとやはり戦闘は終わったようであちこちに人が倒れている。
そして、バリーさんの姿を見つけ声をかけて近づいていく。
「バリーさん、お疲れ様でした。相手を無力化したみたいですね」
「おう、そっちこそ探し人は見つかったかい?」
「ええ、おかげさまで無事に見つかりました。ただ、まだ支配状態が解除されていないみたいなのでこちらはどうなってるのか確認に来たんです」
「そうなのか。俺も戦いながらどいつが支配スキル持ちなのかを探っていたが、ここに倒れてる連中には該当する奴が居なかったぞ」
俺の鑑定眼は偽装も隠蔽も全て看破出来るので建物の中に残した三人はサラちゃんも含めて確実に支配スキルを持っていない。
俺とバリーさんが顔を見合わせて思案していたら、牧場跡の入り口の方から声が聞こえてきた。
「フン、何かと思えば虫けら共が侵入していたか。嗅ぎつけられたのなら仕方ない。目障りだからいっそのこと消してしまおうか」
その場に居た全員がその声の主の方へ振り向く。
そこには王都で見た覚えがある男が立っていた。
「あ、あいつは!」
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