第107話 あいつは確か…
敵を無力化したはずが、まだサラちゃんの支配状態が解けない。
倒した相手達の中には支配スキル持ちは居なかった。
そこに現れた銀髪の男。
「あいつは確か……」
どこかで見た覚えがあると思ったら、その男は王都の広場で客に催眠術をかけていた大道芸人だった。
そう、いつだったかソフィア達と王都巡りをした時に広場に居た大道芸人の一人だ。
催眠術のようなもので客を操り、犬や猫の物真似をさせて「ワンワン、にゃあにゃあ」と鳴かしていたっけ。
もしかして、あの催眠術のようなものが《支配》スキルそのものだったのか!?
だとすると、王都でテロを起こした犯人達を操った主犯はこの銀髪の男で間違いない。
さっきまではここに居なかったから今この牧場跡に帰ってきたのかな。
「おうおう、お前さんいきなり現れたと思ったら俺達を虫けらだの消してしまおうだのなんて随分威勢が良いじゃねえか?」
さすがのバリーさんもいきなり現れた男に虫けら扱いされてちょっとキレ気味だ。
こめかみがピクピクしてますよ。
「フン、言葉の通りだ。貴様達など私に比べれば下等な虫けら共で間違いない。ここが見つかるのはまだ先だと思っていたが、少しは優秀な虫けらが居たようだな」
これだけ大勢の人達と対峙しながら銀髪の男は余裕の表情で30メートル程の間を空けてバリーさんと向き合う。この絶対的な自信はどこから来るのだろうか?
「お前さんがこの牧場跡の持ち主でこの倒れてる連中の親分で間違いねえな」
「そうだと言ったらどうするのだ? 貴様達こそ虫けらの分際で私をどうにかしようとでも? フン、笑わせる」
如何に支配スキル持ちだとしても、普通ならこの状況であんなに強気には出れないはずだ。
その余裕の源は何なのか、男がバリーさんとの問答を続けてるうちにあの銀髪の男を鑑定してみよう。
鑑定眼で探っていくと、この銀髪の男はステータスに偽装を施していた。
そこで更に絶対看破を発動してこの男の本当のステータスを暴いていく。
名前:ドルフ イスマン
種族:魔族
年齢:236
職業:大道芸人
状態:普通
レベル Lv.97
HP:2863
MP:7619
筋力:2920
魔力:6373
精神:2198
敏捷:1637
運 :87
《スキル》
言語理解(ドルナ大陸共通語)
偽装
支配
四肢再生
詠唱無効
MP自動回復
統率 Lv.8
剣術 Lv.6
格闘術 Lv.6
隠密 Lv.6
《耐性》
全状態異常耐性
《魔法》
生活魔法
火魔法 Lv.8
氷魔法 Lv.5
風魔法 Lv.6
黒魔法 Lv.8
《加護》
《ユニークスキル》
【クローズエリア】
【戦闘系スキル一定時間封印】
【ユニークスキル一定時間封印】
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
何なんだコイツは!?
俺が今まで見た中でも圧倒的なレベルと凄い力を持ってるぞ。
それに、魔族って何なんだよ?
鑑定した俺自身もこの男の圧倒的なステータスに驚く。
後ろを向き、小声で俺の鑑定結果をクロードさんに伝えるのがやっとだ。
「クロードさん。あの銀髪の男を鑑定したんですけどあいつが支配スキル持ちで間違いないです。それと種族が魔族でレベルが97。ステータスも凄いです」
魔族という言葉を聞き、驚愕するクロードさん。
「魔族ですと! 本当ですかフミト殿?」
「はい、俺の鑑定は全ての偽装を看破するので間違いありません」
「フミト殿、魔族は好戦的で魔力が並外れて多い種族ですぞ。それに97という高レベル。この人数でも危ういかも…」
「クロードさん、もうこの状況では腹を括るしかないですよ」
「確かに……仕方ないですな。戦うしかないでしょう」
ソフィアもエミリアさんも、俺とクロードさんの会話を聞いて覚悟を決めたようだ。
「あたしはフミトが戦うのなら当然一緒に戦うわよ。だってフミトはあたしの大事なパートナーなんだから!」
「私もフミトさんが戦うのなら一緒に戦います!」
ソフィアもエミリアさんも頼もしいぞ。
さて、今回の作戦はバリーさんが集めてきた討伐隊が攻撃面のメインだ。
だが、俺達のパーティーもいつでも動けるように態勢を整える。
俺の位置から少し離れている銀髪の魔族に聞こえるように、討伐隊の後方から大声で問いかける。
「ステータスを偽装して誤魔化しているが、おまえが持っているその支配スキルで人を操り王都でテロを起こした首謀者だな!」
「ほう…私の偽装を掻い潜り、隠していた本当のステータスを読める奴がおったか。フハハ、貴様が少しは優秀な虫けらってところか。この前の王都での遊びは面白かっただろ?」
とりあえず、この男の情報をバリーさんやバートさん達に伝えないといけない。
「バリーさん、この男を鑑定したけど危険です。支配スキルを持っているのも確認しました。種族は魔族でレベルは97。ステータスも軒並み高いです」
「フミトの兄ちゃん、この男が魔族だとっ! それは本当かっ!」
「はい、間違いありません」
「クソッ! よりによって魔族とはな。魔族は遥か東の海の向こうの島からこちらの大陸には滅多に出て来られないはず。すると、この男はあの海域を超えて来るほどの強さって訳かよ……」
他の討伐メンバー達も魔族と聞いて緊張が張り詰める。
「魔族だと…」
「魔族なんてただの噂だけじゃなかったのかよ」
「昔、一人の魔族のせいで大きな街が壊滅したって聞いたことがあるぞ」
「何で魔族がよりによってこの王都にいるんだよ」
魔族と聞いて少し弱気になった人達に向かってバリーさんが鼓舞する。
「おい、お前ら! 相手が魔族だろうとこれだけの人数が居るんだ。どんなに相手が強かろうが、ここで俺達がコイツを倒さねえと王都がこの先どうなるかわからねぇ。お前たちの大事な家族や友人がどうなってもいいのか! 野郎ども気合を入れろ!」
バリーさんに発破をかけられた討伐隊の面々は見る見るうちに士気が上がっていく。
「そうだ!」
「その通りだ!」
「今こそ俺達の力を見せてやろう!」
「俺達で王都を守るんだ!」
さすがバリーさん。一瞬で皆の士気を大きく上げたぞ。
「フハハハハ! 虫けら共が随分とやる気になったようだが、それも暫くしたら絶望に変わるだろう。魔族の力を思い知るがよい!」
そう言うと、魔族の男は手を高く掲げて呪文を唱えた。
「『クローズエリア!』」
すると、上空にドーム状に灰色の壁が出現して、この牧場跡全体をすっぽりと覆ってしまった。
銀髪魔族の呪文の詠唱に何が起こるのかと身構えていた討伐隊の面々は上空を覆い尽くす巨大なドーム状の壁を見上げてその規模の大きさに目を瞠る。
続けて銀髪魔族は魔法の呪文を唱える。
今度は火系上位攻撃魔法だ!
『フレアトルネード!』
炎を纏った灼熱の超巨大竜巻が討伐隊に向かって空気を震わせ轟々と唸りを上げながら進んで来る。
だが、討伐隊もただ黙って見ていた訳ではないのだ。
「させないよ! 全てのものを凍らせよ『ワイドフリージング!』」
バートさんのパーティーメンバー、女性冒険者のフリートさんが、上位氷魔法の『ワイドフリージング』を発動してその氷の大きな集合体が巨大竜巻の前に立ち塞がり拡散して周りを包み込む。
双方の魔法が衝突して少しの間膠着していたが、氷魔法の威力で何とか灼熱の竜巻を凍らせた。
細かい氷の粒になった竜巻がキラキラと光を反射しながら舞い落ちる様は、この場が戦いの場だということを一瞬忘れそうになる美しさだ。
フリートさんが銀髪魔族の火系上位攻撃魔法を氷系上位魔法で相打ちにした。
「ねえ、フミト。あの女の人だけど人族なのに魔力が凄いね。魔族の魔法の威力に負けてないわ」
俺の横に居るソフィアが今の一連の流れを見て俺に囁く。
確かに魔族の攻撃魔法は威力も規模も大きく危険だ。あれが直撃したらただでは済まない。それでも今のところは俺の予想しうる範囲内に何とか収まっている。
だが、魔族もあの絶大な自信があるからにはまだまだ実力を全部見せてはいないはずだ。俺は絶対に警戒を緩めてはならないと自らを戒める。
そんな時に一人の冒険者がこんなことを言い出した。
「魔族と言うから戦々恐々としていたが俺達でも何とか倒せそうだな!」
あー、駄目だよ! その慢心はお約束フラグになってしまうぞ!
「フハハハハ! 一回私の魔法攻撃を防いだくらいでお前達が私に勝てると思っているのではなかろうな? では、そろそろ虫けら共に私との格の違いを教えてやる為に本気を出していくぞ!」
それを聞き、ギルマスのバリーさんが討伐隊の魔法職に指令を出す。
「おい、お前達! この魔族に一斉に魔法を放つんだ!」
魔族の男は相変わらずその不敵な態度を崩さずに、前方の討伐隊やその後方に位置する俺達を睥睨しながら間髪入れずに自分のスキルを発動した。
「『詠唱無効!』『戦闘系スキル一定時間封印!』『ユニークスキル一定時間封印!』」
こちらの魔法職も一瞬遅れて練り上げた魔力を攻撃魔法に変換して放つ。
だが、各々が魔法名を詠唱して魔法を放とうとしたが、なぜなのか魔法は誰一人として発動しなかった。
「俺の魔法が発動しないぞ!」
「何で魔法を撃てないのよ?」
「どういうことだ!?」
魔法が発動しないとはどういう訳なのだろうか?
まさか? そういえば、さっきあの魔族の男がスキルを発動した時に、聞き慣れないスキル名を唱えてたよな。そう、確か『詠唱無効!』と言っていたはずだ。
もしかして詠唱が無効になって魔法の発動が出来なくなるのか!?
それが事実なら魔法職にとって攻撃手段や防衛手段が奪われる訳でまさに致命的とも言えるじゃないか。
魔族の男が発動した残りの二つのスキル名が『戦闘系スキル一定時間封印!』と『ユニークスキル一定時間封印!』だったよな。
それを思い出して俺は最悪の事態を想像した。
もしや、俺達は魔法とスキルが使えなくなってしまったのではないかと。
相手のスキルを封じるなんてそんな馬鹿げたチートスキルがあるのかと。
そして俺はある事に気がつき愕然とする。
ついさっきまで普通に機能していたはずの俺の隠密スキルがその機能を停止していたのだった。
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