第104話 オーケ牧場跡
行方不明のサラちゃんを探して辿り着いた牧場跡。
入り口の小屋に居た門番の男は《支配》状態だった。
どうする? 限りなく怪しいが、さすがに他人の私有地に証拠もなく強行突破して侵入する訳にもいかないか。しかも、相手は俺達に帰れと言っている。さて、どうしようか…
「仕方ない。ここは一旦引こう」
「ちょっと、フミトどうしたの!? ここにサラちゃんが居るかもしれないのに一旦引こうってどういう事?」
「ソフィア様、フミト殿には何か考えがあるのでしょう。ここは一旦引いてフミト殿の考えを聞こうではありませんか」
「フミトさん………」
事情が分からず渋面のソフィアに目配せをしてとりあえずその場を後にする。そしてさっきとは逆方向に歩いて街道まで戻ってきた。さっきは気がつかなかったが朽ち果てた看板があり、かろうじて『オーケ牧場』という文字が確認出来た。無言で歩く俺の後ろをソフィア達も無言で付いてくる。街道に出てからもさっきの分岐道が見えなくなる場所まで移動してきた。
「ねえ、フミト。そろそろ良いでしょ。急に一旦引こうなんて言い出したからには何かフミトには考えがあるんでしょ?」
「ああ、その通りだソフィア。実はさっき牧場跡の入り口で俺達に帰れと言った男なんだが、何となく態度が不審に思えたからこっそり鑑定してみたんだ」
「ふむ、確かにあの男は少し様子が変でしたな。それでフミト殿、結果はどうでした?」
「それなんだけど、さっきの男は《支配》状態だったんだよ」
「何ですと! 《支配》状態といえば先日起こった王都の無差別テロ事件の犯人と一緒ではないですか」
「クロードさん、だから俺は状況を整理する為に一旦引こうと思ったんだ」
「フミトが鑑定したなら間違いないわね」
「フミトさん、私は胸騒ぎがします」
「ふむ、それでフミト殿にはどのような考えがあるのですかな?」
「もしかしたらこの前の王都で起きたテロ事件とも関わりがある可能性があるからね。そうなるとこの前の事件が絡んだ大きな問題になってくる。それで俺達の所属している冒険者ギルドに急いで連絡すべきだと思ったんだ。ギルドマスターのバリーさんからも何か新情報があったら知らせて欲しいとも言われていたし。だから誰かに今から王都の冒険者ギルドへ行ってもらって応援を要請してもらいたい。俺はその間マルチマップスキルで牧場跡を広範囲に監視捕捉しなければいけないから俺以外の誰かに行って欲しいんだ」
「そういうことなら私が行きます」
真っ先に手を上げてくれたのはエミリアさんだ。
「それじゃこの役は申し訳ないけどエミリアさんに頼んでいいかな」
「はい、私は監視役よりも伝令役の方が適してると思いますからね」
「ありがとう、ギルドにはここの場所と《支配》状態の男がいるのを伝えて欲しい」
「わかりました。それでは早速行ってきますね」
そう言い残すと、エミリアさんは自分自身に補助魔法をかけて韋駄天のごとく王都の街へ向かって駆け出していった。そして駆け出していくエミリアさんの後ろ姿を見送った後、残った俺とソフィアとクロードさんの三人でとりあえず作戦会議だ。
「エミリアさんが王都の冒険者ギルドに到着してここに応援を呼んで来るまで軽く打ち合わせをしておこう」
「それがよろしいと思います。この前王都で大規模テロ事件が起きた時、私とフミト殿は《支配》状態になっていた者達と直接戦っています。この牧場跡にもあのような連中が複数居るとしたらかなり厄介ですぞ」
「ねえ、フミト。もし戦うことになったら今度はあたしも戦った方がいい?」
「そうだね、王都の中と違って今度は周りに何もない牧場跡だ。もし彼らと戦うことになったらその時はソフィアやエミリアさんにもお願いするかも」
「当然よ! あたし達は仲間なんだもの。大切な人や仲間を守る為ならあたしはなんだってするつもりよ」
「私の役目はソフィア様を守ることですからな。勿論、ソフィア様の大切な人には誰よりも頑張ってもらいましょう」
『ソフィア様の大切な人』って言いながらクロードさんは俺の顔をガン見しないでくださいよ…
「まだ全ての状況は掴めていないけど、入り口の小屋に居た一人の他に建物の中には大勢の人の存在が確認出来た。今のところ、サラちゃんの存在までは確認出来ていないけど、最悪の場合はサラちゃんも含めてその人達が全て《支配》スキルの影響下にあるものと考えておいた方がいいと思うんだ。クロードさんとソフィアはどう思う?」
「フミト殿、そう考えるとかなり厄介ですな。仮に全員がスキルで《支配》されていたとしたら戦闘の出来る者、出来ない者に関わらず我々の前に立ちはだかってくるかもしれません。サラ殿も例外ではないですぞ」
「そこが問題よね。サラちゃんを傷つけずに救出したいけど、もし《支配》されていたらあたし達にも向かってくるかもしれないし、どうしたらよいのかしら…」
「もしサラちゃんがそんな状態だったら、俺が出来るだけ傷つけないように何とかするよ。まあ、そうならない事を祈るけどね」
「そうね、サラちゃんの救出はフミトに頼むわね」
こうして話してる間も俺はマルチマップスキルでオーケ牧場跡を監視中。俺達が素直に引き下がったので小屋に居た男も建物に報告に行く素振りはなさそうだ。建物の中もこれといった人の動きは見られないし、警戒されてるような雰囲気はない。
「クロードさん、彼らと戦闘になると思いますか?」
「フミト殿、私の見立てでは戦闘になる確率は高いと思います」
「やはりクロードさんの見立てでもそうなのか。俺も同じですね。どんな相手がいるかわからないので油断せずにいきましょう」
クロードさんとの会話のやり取り中に俺はある事を思い出した。今まですっかり忘れていたのだが、対人戦闘になるかもしれない状況であるアイテムの存在を思い出しだのだ。俺はアイテムボックスから指輪を取り出す。
「ソフィア。この指輪を指に嵌めてくれないかな。あと、クロードさんも」
そう言って二人に指輪を見せると、ソフィアもクロードさんも鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしているぞ。
「フ、フミト! いきなり指輪なんて出してどうしたの?」
「ああ、これをソフィアの指に嵌めてもらいたいんだ」
「………それってフミトが嵌めている指輪と同じのだよね。本当にあたしにくれるの?」
ソフィアが嬉しそうな顔をしている。
万が一の為にもこの指輪を嵌めておいてもらおう。それにこちらの世界の人族の間では指輪は愛する相手に贈るという習慣がないのはいつだかリーザさんに何度も聞いて確認済みだしね。
「とりあえず、これは特別な効果がある指輪だからこの指輪を指に嵌めてくれないか。エミリアさんにも渡すつもりだ」
「フミト。エミリアにもあげるの?」
「ん、何か問題でもある?」
「ううん、そうじゃないけど…ならこの指輪はフミトがあたしの指に嵌めてよ。それならエミリアにもあげていいわ」
仕方ないな。エルフ族の験担ぎみたいなものかもしれないが時間がないのでソフィアの希望通り俺の手でソフィアの指に指輪を嵌めてやる。
「ソフィア、どの指がいいんだ? この指輪はどの指に嵌めても自動で調節してくれるから大丈夫だぞ」
「フミト、左手の薬指に嵌めて」
人族の習慣では婚約指輪とか結婚指輪の概念がないのは確認済みだし、俺はソフィアの左手をさっさと掴んでその薬指にサクッと指輪を嵌めてあげた。心なしかソフィアがうっとりとした顔をしているけど本当におかしな奴だな。
そんな話をしていると、俺のマルチマップ上に王都からこちらにグングンと近づいてくる複数の人影が映し出された。おそらく、エミリアさんが応援の人達を王都から連れてきたのだろう。暫くすると、街道に馬に乗った複数の人達が姿を現した。先頭はエミリアさんのようだ。華麗に馬を乗りこなしてるエミリアさん格好いいね!
「フミトさん、お待たせしました。冒険者ギルドから応援を連れてきましたよ!」
エミリアさんの後ろの集団の中から馬に乗った一人の男性が前に進んできて俺達に向かって声を掛けてきた。
「ようっ! クロードの旦那にフミトの兄ちゃん。おっ、嬢ちゃんも居るようだな」
なんと、エミリアさんが応援として連れて来たのは王都冒険者ギルドのギルドマスターのバリーさん。通称『ダーティーバリー』さんだったのだ。
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