第103話 怪しい場所
サラちゃんを探すべく、似顔絵を使って街で聞き込みをした甲斐があり、ようやく足取りが掴めてきた。
同行者が何者なのかわからないが、数人でこの東門から街を出たようだ。無理やり連れ去られたのか、同意の上で一緒に行動しているのか…現時点ではまだ情報が少なくて判断がつかない。
だが、劇団の人達に何も告げずに姿を消してるので最悪の状況を考えて一刻も早くサラちゃんを見つけ出さないとな。
「ところで、皆に意見を聞きたいんだ。ただ漠然とサラちゃんを探すのも効率が悪いし、何か方法はないかな?」
俺は皆を見回して意見を募る。
そして、俺の提案を受けて最初に口を開いたのはクロードさんだ。
「そうですな。この街道は行き交う人も多いですし、やはり基本の聞き込みが重要だと思いますな」
クロードさんは基本ともいえる聞き込みを提示してきた。
「そうね、あたしもクロードと同じかな。フミトが描いた似顔絵はサラちゃんによく似てるし、数撃ちゃ当たるじゃないけど何かしら手掛かりが掴めるかもしれないわ」
ソフィアもクロードさんと同じような感じかな。
「エミリアさんも何か思いつくことはあるかい?」
「そうですね、基本的にはソフィア様とクロード様と同じです。ただ、それだけではなくフミトさんのスキルを有効活用しながら探すのが良いと思います」
「なるほど、それで具体的には?」
「衛兵さんの情報だとサラちゃんは数人のグループで東門から街を出ています。それに銀髪の男の人はここ最近で何度も衛兵さんに見られているので、おそらく旅人や商人ではなく街の近所に住んで生活をしていると予想されます」
「確かにその可能性が高いね」
「そこで、フミトさんの持っているスキルで魔物や人の位置が広範囲でわかる優れたものがあるじゃないですか。街道沿いを進みながら少なくとも4人以上の反応が一定の範囲内に集中している場所を見つけ出してそこを重点的に調査していくのはどうでしょうか。手当り次第に探すよりも多少は効率が良くなるような気がします」
えーと、エミリアさん? 俺は秘書なんて持ったことはないが、感覚的にとても優秀な秘書のアドバイスを受けてるようだ。
「エミリアさん、それ凄くいいね。確かに俺のマルチマップスキルは魔物を探すだけじゃなくて人の位置も把握出来る。4人以上が一定の範囲内に居る場所にサラちゃんも居る可能性が高いし素晴らしいアイデアだと思うよ」
「エミリアの案は良さそうですな」
「さすがエミリアね。フミトは知らないかもだけどエミリアはエルヴィス国でも優秀だったのよ」
へー、エミリアさんは清楚で綺麗で武技も出来るし、学問でも優秀だったんだな。まあ、ソフィアの付き人になるくらいだから当然とも言えるか。
「それじゃ聞き込みをしながら俺のマルチマップスキルで同時に周囲の調査をしていこうか」
「フミト、周囲の調査は頼んだわよ」
「おう! 任せとけ」
王都の東門を出ると大きな街道が東に向かってずっと続いている。主要な街道だから道行く人は結構居る。荷馬車で隊列を組んだ商人やそれを護衛する冒険者達もいるし、荷馬車に野菜を積んで王都に届ける農家の人達の姿も見える。とりあえず、片っ端から聞き込みをしてみるか。
俺は最初に目についた商人の隊列に声をかけてみる。
「すみません、ちょっと聞きたい事があるんですけどいいですか?」
盗賊と勘違いされないように、軽く頭を下げながら商人の隊列を呼び止めた。
すると護衛役の冒険者が警戒しながら隊列を止める。隣の護衛に耳打ちすると、その護衛は後方の馬車に行き雇い主の商人に説明しているようだ。しばらくすると戻ってきて俺に声をかけてきた。
「どうした、俺達に何か用か?」
「人を探してるのですが少し時間を貰えますか?」
「何だ人探しか。で、どんな奴を探してるんだ?」
ソフィアに目配せをしてサラちゃんの似顔絵を商隊の護衛の人達に見せる。
「この子が昨日から行方がわからなくなっています。東門の門番の衛兵さんの情報では銀髪の男を含んだ複数の人と東門から街の外へ出たという情報だけが頼りなんです。商隊の人達ならずっとこの街道を王都に向かって通ってるはずだと思うので、どこかですれ違ったりしていませんか?」
「なるほど、そういう事情なら聞き込みに俺達のような商隊の隊列に目をつけたのは理に適ってるな」
「ええ、もし王都から別の街に行くのなら普通に街道ですれ違う確率が高いですからね」
ソフィアが見せたサラちゃんの似顔絵を商隊護衛の人達が集まって暫く眺めるが、反応は芳しくないようだ。
「悪いけど俺達の中にこの子を見かけた者はいないようだ。君達の役に立てなくてすまないな」
「いえ、足を止めてもらって話を聞いてもらっただけで有り難いです」
商隊の隊列と別れてその場で彼らを見送る。どうやら最初の聞き込みは空振りのようだ。まあ、最初から上手くいくとは思っていなかったので仕方ない。
「フミト、まだ次があるわ。気を取り直して行きましょう」
「そうですぞ、まだ街道の聞き込みは始まったばかりですからな」
「フミトさん、遠くからこちらに向かってくる荷馬車がありますよ」
確かに皆が言うようにまだ聞き込みは始まったばかりだ。気を取り直して次に行こう。エミリアさんが遠くからこちらに向かってくる荷馬車を見つけたので次の聞き込みはそれだな。
俺達もその荷馬車に向かって街道を進んでいく。徐々にお互いの距離が詰まってくると、その荷馬車は農産物を積んだ農家の荷馬車のようで御者席には中年と思しき男と若い男が並んで乗っている。
すぐ目の前まで来たので俺は御者席に向かって声を掛けてみる。
「すみません、ちょっといいですか?」
軽く会釈をしながら話しかけると、御者席に座ってる年輩の方の男が俺の問いかけに応じてくれた。
「おう、何だい兄ちゃん。俺っち達に何か用か?」
「はい、実は人を探しているのですが、情報ではその探し人が東門からこちらの街道に向かったらしいので、この道を通る人に見かけてはいないか聞いてるところなんです」
「探し人かい、そりゃ見つかるといい。ところでどんな奴を探してるんだべ?」
さっきの商隊の時と同じようにソフィアがサラちゃんの似顔絵を御者席の二人に見せる。
「探してるのはこの子です。銀髪の男と他に二人の男女と一緒に王都の東門を出てこの街道に出たところまでは判明してるんですが、その後の足取りがまだ掴めていないんです」
年輩の男と隣に座る若い男は一緒にサラちゃんの似顔絵を眺めていたが、若い方の男が俺の言った言葉の何かに反応したのか顔を上げて喋り始めた。
「今、あんた銀髪の男って言ったよな?」
「うん、情報ではその子と一緒にいた中に銀髪の男がいたらしい」
「おいら達は定期的に王都へうちの農場で収穫した野菜を納品に向かっているんだが、銀髪の男はこの街道で最近何度か見た覚えがある」
「本当ですか!? でも、白髪まじりの銀髪もどきじゃないですよね?」
街道の二回目の聞き込みでまさかの有力な手掛かり情報をゲットだ。だが、浮かれるのはまだ早い。銀髪と白髪はよく似ているし別の人物かもしれないからな。
「ああ、その男は白髪に近い銀髪じゃなくて正真正銘の銀髪だったな。おいらも滅多に見ない純銀髪の男だったから印象に残ってるよ」
「俺っちの息子は目と記憶力がいいんだ。たぶん間違っちゃいねえべ」
この二人は親子なのか。そういえばよく見ると似ている。二人の口ぶりだと銀髪の男に関しては目撃情報に信憑性がありそうだ。
「そ、その銀髪の男はどこらへんで見かけましたか?」
俺は逸る気持ちを抑えながら出来るだけ冷静に農家の息子に問いかける。
「そうだなぁ、あんた達がこれから行こうとしてる道を東に進んでいくと、暫くして街道から右へ曲がっていく細い道がある。その道を曲がっていく銀髪の男の姿を前に見たことがあるぞ」
「それは間違いないですか?」
「ああ、間違いないよ。親父の言うようにおいらは目と記憶力がいいんだ」
これはビンゴかもしれないな。まさか街道に出て二回目の聞き込みでこんな有力な情報を得られるとは思ってなかったので俺自身も驚いている。
「君の情報はとても役に立ちそうだ。ありがとう」
「なーに、こんなことでお礼を言われてもおいらの方が困っちまうよ。あと、確かその道を曲がっていくと昔は牧場があったはずだけど、今はたぶんやってないと思うぞ」
ソフィア達も農家の親子に礼を言うと、農家の親子は「そろそろ行ってもいいかい? 俺っち達は納品に行かなきゃいけないからな」と言って荷馬車を動かし始めた。俺達は手を振って荷馬車を見送る。
「フミト殿。有力な手掛かりが見つかりましたな」
「そうですねクロードさん。早速そこへ行ってみましょう」
俺達は情報の謝礼を渡し、その場を後にして街道を東へ進む。マルチマップも示すようにそろそろ街道から右へ曲がっていく道が見えてくるはずだ。
「フミト。あそこがそうじゃない?」
ソフィアが街道から右へ曲がる道を目視で見つけたようだ。俺みたいに遠見スキルはないのにソフィアに限らずエルフ族は視力が凄く良いんだよな。
近づいて行くと右へ曲がっていく細い道がある。雑草のような草が生えていて荷馬車が頻繁に通ってるようには見えないので、農家の親子が言うように今は牧場をやっていないのだろう。街道からその細い道に入り少し進むと前方に牧場跡なのだろうか開けた場所が見えてきた。奥の方にはそこそこ大きな牛舎と、人が住むであろう二階建ての建物が隣に建っている。牧場跡の広い場所の手前には窓がある小屋があり中には人が居るようだ。
マルチマップでは入り口の小屋に一人、そして奥の二階建ての家には多くの人の反応がある。俺達が牧場跡の入り口に近づいていくと、その姿に気づいたのか小屋の中から一人の男が扉を開けて出てきて俺達に向かって詰問口調で問いかけてきた。
「おまえらは何者だ。ここは私有地だからさっさと帰れ」
どうやら歓迎されてない雰囲気がビンビンと伝わってくる。だが、俺達はサラちゃんを探す為に来たのだから、話だけでも聞いてもらおうとその男に向かって話しかけた。
「人を探してるんです。お話だけでも…」
「帰れ。さっさと帰れ」
取り付く島もないとはこの事だな。無愛想を通り越して敵意のようなものさえ感じる。男をよく見ると、冒険者か傭兵みたいな風体でこの長閑な牛も馬も居ない牧場跡には似合っていない。こんな牧場跡で何か警備するようなものがあるのだろうか。なにげに男を見ていると、目つきがおかしいというか虚ろに見える。
(おや? こんな目つきの人に最近会ったような気がするのだが…)
もしやと思い、気になった俺は鑑定眼を発動してみる。すると驚愕の事実が!
なんと、この男は《支配》状態だったのだ!
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