第102話 似顔絵の効果

 昨日から行方不明になったサラちゃんを探しに、俺が描いた似顔絵を持ってパーティーメンバー4人で街中に聞き込みに出た俺達。


 それぞれが別々の場所で聞き込みを開始して、お互いの状況を確認する為に一旦皆で集まる約束をした場所がここ中央広場だ。


 俺は冒険者や露天商の人達に聞き込みをしたがこれといった成果はなし。一足先に中央広場に到着していたクロードさんとエミリアさんも成果はなかったようだ。


 だが、最後に集合場所に現れたソフィアがサラちゃんの目撃情報を手に入れたようで、手を振りながら俺達に向かって駆けてきた。少し興奮気味の顔のソフィアが俺に話しかける。


「フミト、あたしと一緒に来て! サラちゃんを見たって人が見つかったの」


「ソフィア、慌てなくていいからもうちょっと具体的に説明してくれ」


「ふぅ、そうね。あたしが聞き込みをしてきた市場ではサラちゃんの目撃情報はなかったの。がっかりしてこの中央広場に来たんだけど、向こう側の広場で露店を出してるおじさんに試しに似顔絵を見せて聞いてみたら、この似顔絵に似た女の子を昨日見たって言うのよ!」


「ソフィア、お手柄じゃないか!」


「だから、あたしがその露店のおじさんの所に案内するから皆で行きましょう!」


 サラちゃんを目撃したかもしれないという人が見つかって、さっきまで大きく沈んでいた気持ちに少し希望が出てきた。露店まで案内してくれるソフィアの後を付いて行くと広場の片隅で商売をしている露店が見えてきた。


「フミト、サラちゃんを見たかもしれないって人はこの露店のおじさんよ」


 見ると串焼き肉やパンを売っている露店のようだ。人の良さそうなおじさんが店の中にいて少し驚いたような顔で俺達の方を見ている。このおじさんがサラちゃんを見たかもしれないって人だな。


「ねえ、おじさん。仲間を連れてきたからさっきあたしに話してくれた事を皆にも話してあげて」


「おう、いいよ。あんたらがこのお嬢さんの仲間達かい?」


「はい、俺とこの二人はソフィアと同じパーティーの仲間です。早速ですがこの似顔絵に似た子を見かけた経緯を詳しく聞かせてもらえませんか」


「うん、もう一度似顔絵を見ていいかい?」


「ええ、どうぞ」


 俺は手元に持っていたサラちゃんの似顔絵を露店のおじさんに渡す。おじさんは俺から似顔絵を受けっ取って記憶を確かめるようにじっと眺めている。


「間違いない、やっぱりこの子だな。昨日の午後かなぁ、この広場で見かけたよ。昼の鐘が鳴って結構経っていたかな」


「本当に間違いないですよね?」


「ああ、たぶん間違いないよ。商売柄なのか私は人の顔を覚えるのが得意でね。昨日見た子はこの似顔絵の子で間違いないと思う」


「一人で居ましたか? それとも誰かと一緒でしたか?」


「えーと、確か何人かと一緒だったね。男も居たし女も居たよ」


「その人達はどちらに向かって行きましたか?」


「そうだね、確か東門の方へ向かっていったよ」


 東門の方角か…


「ありがとうおじさん。おじさんの情報は俺達が求めていた情報だよ。これはお礼だから受け取ってくれ」


 そう言って俺は懐から出した金貨をおじさんに渡し、仲間たちを見渡して掛け声をかけた。


「ソフィア、クロードさん、エミリアさん。東門に向かおう!」


「わかったわフミト!」

「フミト殿、手がかりが見つかって良かったですな」

「フミトさん、早くサラちゃんを見つけ出しましょう」


「おいおい! 金貨なんて貰っていいのかい!?」


「ああ、おじさんの情報にはそれだけの価値があったからね。遠慮しないで受け取ってくれ」


「おう、ありがとよ。そこまで言うのならありがたく受け取っておくよ」


「それじゃ俺達は急ぐから。おじさんありがとう!」


 露天のおじさんの元を離れて俺達は急いで東門の方へ向かう。


「ねえ、フミト。早くサラちゃんを見つけようよ!」


「おう、ソフィアのおかげで手がかりが見つかって良かったよ」


 今回は非常時という訳で、俺達はおじさんが教えてくれた東門の方へ向かって駆け出していく。距離はあるがエミリアさんの補助魔法で身体強化をしてもらい、風のような速さで街中の道を飛ぶように進む。


 脇をものすごい速さで駆けていくと驚いた市民達が振り返って見てくるが、どうしても急がなければならないので許してね。


 暫く走ると俺達の進行方向に東門が見えてきた。


「フミト、東門が見えてきたわよ!」


 ソフィアが言うように前方に王都の東門が見えてきた。夜は閉まっているが、今は大きな門が開け放たれていて向こう側の風景が俺達の目に飛び込んでくる。


「フミト殿。とりあえず、門番の衛兵の人に話を聞いてみてはどうですかな?」


「確かにそうですねクロードさん。もしかしたら門番がサラちゃんの姿を確認してるかもしれないし」


 東門には今日の当番の衛兵が二人立っており、脇には門番の衛兵が駐屯する建物がある。今は周りに誰も居なくて二人の当番衛兵は暇そうにしてたので、俺達はとりあえずその衛兵の一人に話しかけてみた。


「ちょっといいですか? 尋ねたい事があるのですが」


「俺に尋ねたいって?」


 その衛兵は俺達の方に振り向き、少し訝しげな表情を向けてきた。いきなり現れた4人組から質問されるのを警戒しているようだが俺達は悪い人ではないですよー。


「はい、実は人を探しているんです。親しい友人なのですが、昨日から姿が見えなくなっていて皆が心配しているのです。先程、露店を開いてるおじさんが探し人に似た人がこの東門に向かっていったという情報を教えてくれたのでここへ来ました。とりあえず、似顔絵を用意してあるので見てくれませんか?」


 俺の説明を聞いて警戒心がなくなったのか、門番の衛兵は緊張を解いてきたようだ。


「そういう事情なら喜んで協力しよう。まずはその似顔絵ってやつを見せてもらえないか」


「ソフィア、似顔絵を見せてやってくれないか」

「わかったわフミト。衛兵さん、これがあたし達が探してる子なの」


 門番の衛兵にソフィアが持っているサラちゃんの似顔絵を渡すと、衛兵はそれを両手に持って食い入るように眺めだした。


「うーん……」


 衛兵は記憶から思い出そうとしているようだがあまり捗々しくないようだ。すると、もう一人の衛兵がこちらに近寄ってきた。


「君達の話し声が聞こえたのだが、その友人とやらが居なくなったのは昨日のいつ頃だい?」


「露店のおじさんが広場で見かけたのが昨日の午後らしいんです」


「なるほど、昨日の午後に広場で見かけてそこからこの東門に来るとしたらどんなに遅くとも夕方前までの時間だろうね。ちょっと僕にもその似顔絵を見せてくれないかい。僕は昨日の昼間もここで勤務していたから覚えているかもしれない」


 そう言って、もう一人の衛兵から似顔絵を受け取って確認を始めた。

 後から姿を見せた衛兵は暫くの間サラちゃんの似顔絵を眺めていたが、ふと何かを思い出したのか顔を上げて話し始めた。


「うん、このお嬢さんなら昨日見かけたよ。髪の色は銀色で歳は10代後半くらいのお嬢さんだよね?」


「たぶんその子がそうです! それで衛兵さん、その子はどこへ行きましたか? どんな感じでしたか?」


「えーと、確か数人のグループで東門にやって来たね」


「脅されてるとか、無理に付き合わされてるような感じはありましたか?」


「いや、そんな雰囲気や印象ではなかったね。ただ、皆一言も喋らずに黙々と東門を通過していったよ。昨日は犯罪者の指名手配の情報もトラブルの報告も来ていなかったし呼び止めて取り調べる理由がないからね」


「一緒に居た人達はどんな感じでしたか?」


「うん、これから旅に出るような雰囲気ではなかったし、これから近所へ帰るような軽い雰囲気だったね。男が二人で女が二人、そのうちの一人がこの似顔絵の子だったよ」


 衛兵さんが物覚えの良い人で良かった。おそらく、そのグループと一緒に街を出たのがサラちゃんで間違いない。しかし、腑に落ちないのは何でサラちゃんが劇団の誰にも告げずにその男達と街を出たのかだな。


 現時点ではまるで見当が付かないが、サラちゃんの有力な情報を聞き出したのだから後は探し出して直接聞けばいいか。


 誘拐された可能性も考えていたが、とりあえず無事そうなので安心したけどまだまだ油断は出来ない。一刻も早く見つけ出さないとね。


「ありがとうございました。とても役に立つ情報でした」


「ああ、どういうことになってるのか知らないが、その子に会えるといいな」


 そして、俺達はサラちゃんの足取りを追って東門を潜り街の外へ足を踏み出した。

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