第101話 手がかりを求めて
サラちゃんが昨日から行方不明になったと聞いて、俺はソフィアやクロードさん、そしてエミリアさん達と善後策を講じる為に部屋の椅子に座って話し合う事にした。
「とりあえず、本格的に探しに行く前に皆の意見を聞きたいんだけど」
俺がこう切り出すと、眉間に皺を寄せながらクロードさんが意見を出してきた。
「そうですな、こういうものはただ適当に闇雲に探し回っても効率が悪いものです。本来ならサラ殿の交友関係や普段の行動パターンなどを調べて動き出すのがセオリーですが、今回は急を要するのでフミト殿のスキルを有効活用出来ませんかな?」
「そうね、フミトが持ってるマルチマップスキルだっけ。あれでどうにかならないの?」
「それは俺も真っ先に頭に思い浮かんだけど、サラちゃんを登録してないと他の人と区別出来ないんだよね。ソフィア達パーティーメンバーは登録済みなんだけどさ」
「フミトさん、サラちゃんを早く見つけてあげたいですね。私も心配です」
「うん、俺もエミリアさんと同じ気持ちだよ」
そういえば、サラちゃんはオルノバで会った時にも道に迷っていたっけ。もしかして王都レガリアでも道に迷って帰れなくなってしまった可能性もあるな。後はあまり考えたくはないが、何らかの事件に巻き込まれた可能性もある。その時はそれを受け止める覚悟も持っていた方がいいかも。
「俺からの提案だけど、まずは街中で聞き込みをするのが基本だと思う。聞き込みをするにあたって漠然と聞くだけじゃなくて、似顔絵を利用しようと思ってる」
「フミト、似顔絵って何なのよ?」
「前にソフィア達の肖像画を描いただろ。あれをもっと簡単にしたようなものだよ」
「フミト殿、つまりその似顔絵を使って『こういう人を見かけませんでしたか?』と聞き込みをするのですな」
「さすがクロードさん、その通りです!」
「フミトさん、ひと目でサラちゃんだと気づくくらいに特徴をわかりやすく強調して描いた方が良いですね」
「エミリアさんもアドバイスありがとう」
「フミト、あたしだってそれくらい気がついていたわよ」
「ソフィアはさすが俺のパートナーだな」
「フミトがいつになくあたしに優しいんだけど夢じゃないわよね」
「こんな時に冗談は言わないよ。さて、とりあえず今から俺はサラちゃんの似顔絵を四枚描くよ。俺を含めてソフィア、クロードさん、エミリアさんが一枚ずつ持って街に聞き込みに行こう」
そして、すぐに似顔絵の制作の準備をしてサラちゃんの顔を思い出しながら紙に描いていく。肖像画を制作した時とは違って簡易的なスケッチに軽く色を加えていくだけなのでそれほど時間はかからないはずだ。
テーブルの上に四枚の紙を置いて、流れ作業のように顔の輪郭や髪の毛などを素早く描いていく。サラちゃんの特徴は黄金色の瞳と銀髪だからそこを強調するようにね。
サラちゃんの似顔絵を描いていて気がついたが、サラちゃんは王都でもなかなか見かけないタイプだよな。これならサラちゃんの情報が案外早くわかるかもしれない。そう考えながら筆を走らせ四枚の似顔絵を素早く描き上げた。
「サラちゃんの似顔絵が完成したよ。似てるかどうか皆の意見を聞きたいんだ。どうかな?」
皆が俺の描いたサラちゃんの似顔絵を覗き込む。
「うん、サラちゃんにそっくりだわ」
「これはよく似ていますな」
「目元の感じがサラちゃんに凄く似ていますね」
仲間にはお墨付きを貰ったし、これなら人探しの似顔絵として役に立ちそうだ。
「皆この似顔絵を一枚ずつ持って聞き込みをしてもらえるかな。それぞれ場所を分担しよう」
こうして俺達は宿を出て、それぞれ別の場所に向かいサラちゃんの似顔絵を使って聞き込みを開始した。王都は広いので固まって聞き込みをしても効率が悪いからね。二時間くらいを目安に一回目の聞き込みをして、情報共有の為に一旦中央広場に集まる予定だ。
「それじゃ、早速聞き込みに行こうか」
「聞き込みで何か良い情報が聞けるといいわね」
「この似顔絵があればきっと良い手がかりが見つかると思いますぞ」
「私もサラちゃんが心配なので頑張って情報を集めてみます」
宿を出て皆がそれぞれ別の方向に向かって駆け出していく。ソフィアは市場へ向かっていく。クロードさんは主婦や女性が集まりそうなお店や場所などで聞き込みだ。エミリアさんは住宅街や公園を中心に回る予定。
そして俺は冒険者や商人が集まる場所での聞き込みを担当する事になった。ソフィア達に言わせると、俺は見た目は平凡だが人を惹き付ける魅力があるので、一癖も二癖もある冒険者や商人などに聞き込みをするのにうってつけらしい。
まず俺は手始めに冒険者ギルドを中心に聞き込みを開始した。冒険者なら依頼の為に街中で活動してる人も多いし、情報を仕入れるには外せないからね。ギルドの中に入ると大勢の冒険者がロビーや食堂兼酒場に居るのが見えた。早速聞き込みを開始するべく丁度俺の前を通りかかった冒険者パーティーを呼び止めてみる。
「この似顔絵の女の子を昨日から今日にかけて見かけませんでしたか?」
サラちゃんの似顔絵を見せながら冒険者パーティーのリーダーっぽい人に質問してみた。
「おっ、可愛い女の子だな。この子がどうかしたのかい?」
「ええ、昨日から姿を見かけなくて探しているんですよ。冒険者の誰かがもしかしたらどこかで見かけてるかもしれないと思って…」
「そりゃ心配だな。うーん、こんな可愛い子ならどこかですれ違ってりゃ覚えてるはずだけど俺は見かけてないな。でも、ちょっと待ってな。仲間にも聞いてみるからよ」
俺から似顔絵を受け取って仲間に声をかけてくれるそうだ。
「おーい、おまえらー! この子を見かけなかったか?」
俺の渡した似顔絵をパーティーの仲間と共に覗き込んで暫く見つめていたが、誰も見ていないとの返事だった。
「悪いな、俺達役に立てなくて」
「いえ、気にしなくていいですよ。まだ捜索を始めたばかりだし」
その冒険者パーティーの人達は皆申し訳なさそうな顔で俺を見送ってくれた。さて、気を取り直して次の聞き込みに向かおう。
その後、冒険者ギルド内で手当たり次第に人を捕まえて聞き込みをしたのだが、思ったような成果は得られなかった。次は露天商が店を出している場所に行ってみよう。
王都には観光客相手に露天商が店を並べている場所があるので俺はそこへ向かった。そこは庶民向けの衣服、日用品や生活雑貨などを売っている店が通り沿いに店を出している。まず最初に衣服を売っている恰幅の良いオバちゃんに聞き込み開始だ。
「ねえ、オバちゃん。この似顔絵の子を昨日か今日見かけなかった?」
「どれどれ、ちょっと見せてごらん」
オバちゃんは俺から似顔絵を受け取りしげしげと眺めた。
「あれ、この子って公演中の劇団のヒロインの子に似てるねえ」
「ああ、実はその子の兄に頼まれて探してるんだよ」
「おやまあ、そういう事なら協力してあげるよ」
そう言うと、オバちゃんは店を出している露天商の人達に次々と俺が渡した似顔絵を見せて聞いて回ってくれた。だけど、どこの店でも見ていないという答えが返ってくるばかり。
「ごめんよ、あたし達役に立てなくてさ」
「いや、協力してくれただけでもありがたいです。どうもありがとうございました」
残念ながら、冒険者ギルドに居た冒険者と露天商の人達からはサラちゃんの消息を掴めるような成果は得られなかったが仕方がない。そろそろ他の場所で聞き込みをしているソフィア達と落ち合う時間なので俺は中央広場に向かう。
中央広場に着くと、既にクロードさんとエミリアさんが第一弾の聞き込みを終えて待っていた。でも、浮かない顔をしているから期待は出来そうもないな。
「クロードさん、エミリアさん、どうでしたか?」
俺の質問に重い口を開くクロードさんとエミリアさん。
「フミト殿。残念ながらこれといった情報は得られませんでした」
「フミトさんごめんなさい。私も頑張ったんですけど良い情報はありませんでした」
「二人とも気にしないで。まだ聞き込みは始まったばかりだし、時間を変えれば人も入れ替わるから何か新しい情報が手に入るかもしれないし」
二人にそうは言ったものの、俺だって何となく不安を覚えてくる。このまま見つからなかったらとか、最悪の事態も想定するべきなのかという考えが思い浮かびそうになるのを無理やり追い払ってるよ。
俺達三人が暗い気持ちになりかけている状況で、遠くから俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。ふと、声がした方向に顔を向けるとソフィアが手を振りながら駆けてきている姿が目に入った。そして俺達の元に到着したソフィアは第一声でこう叫んだ。
「昨日サラちゃんを見たって人を見つけたよ!」
どうやらソフィアがサラちゃんの手がかりを見つけてくれたようだ。
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