第54話 コイツ喋れんのかよ
転移魔法陣で迷宮を出てオルノバの街に戻った俺達は、ソフィアの案内で最近オープンしたばかりという食堂に入る事にした。
お洒落な雰囲気のお店で既に女性客に人気が出ているようだ。
ソフィア曰く「女子はこういうお店が気になるのよねー。でね、でね…以下省略」
こういうところは元の世界もこっちの世界も全然変わらないんだな。
こういう時は「うん、そうだね」とシンプルな合いの手を入れ、聞き役に徹して頷いておくに限る。
昼食と休憩を済まして再び迷宮に向かう。
25階層まで魔法陣で転移して午後の部の迷宮攻略の始まりだ。
階段で26階層まで降りていくと、今までとは少し雰囲気が変わって温度と湿度が高くなったような気がする。
少し進むと左手に沼地が見えてきたと思ったら俺のマルチマップに赤い点が複数浮き上がった。
この階層初の魔物はワニのような魔物、デストロイダイルだった。
ギザギザの歯を持つ大きな口、背中は硬そうな鱗で覆われ太い尻尾の上部は鋭利な刃物のように尖っている。
そんなデストロイダイルが次々と沼から這い上がり、俺達の行く手を塞いできた。
数えてみると全部で7匹いるぞ。
「フミト、デストロイダイルの攻撃はあの歯での噛み砕き攻撃と強靭な尻尾を振り回す打撃攻撃と斬り裂き攻撃よ。背中の硬い鱗は斬撃と魔法を跳ね返すわ。だけど腹部は柔らかくてそこが弱点ね」
相手の特徴がわかった。
なら相手の弱点を突けばいい。
俺はデストロイダイルそれぞれの位置をインプットして土魔法でその下の地面を一瞬にしてなくす。
いきなり自分の下の地面がなくなったデストロイダイルが落ちていく先に、
自分の体重と万有引力の法則により落下したデストロイダイルは皮膚が柔らかい腹部を鋭い槍の穂先に串刺しにされ身動きが取れなくなった。
「今だソフィア。トドメを刺すぞ!」
「了解!」
串刺しにされ身動きが取れなくなったデストロイダイルに俺とソフィアは次々とトドメを刺していく。
全てのデストロイダイルにトドメを刺し終わり、アイテムボックスに回収していく。
「やったわねフミト!」
「ああ、ソフィアと一緒に戦うと楽だ」
「フフフ、フミトにそう言ってもらうと嬉しいわ」
沼地地帯を抜け、森や林の中ではベアーやバイソンを次々に倒して進んでいく。
この階層にくると、魔物によっては初級魔法では通じづらくなってきたが、苦戦する事もなく26階層と27階層を連続して踏破した。
28階層に降りて行くと、辺りが暗くなったように思える。
俺は生活魔法のライトを頭上に出し、周囲を照らしながらソフィアと歩を進める。
俺には暗視のスキルがあるが、ソフィアにはないからな。
ソフィアも生活魔法のライトは使えるが、二つ同時に照らすと位置によっては影が二つ出来て紛らわしいので俺だけにした。
魔物には自分達の位置を教える事になるが、まだこのレベルの魔物達なら問題ない。
そうこうして進んでいると、前方に魔物の姿を目視で発見した。
ん? 二本足? いや三本足なのか?
徐々に近づいて見ると三本足に見えたのは二本の足の隙間から見える尻尾だった。
変な想像はしてないよ?
もしかして、これがリザードマンか。
全部で4匹(4人?)いる。
剣を持つ者もいれば槍を持つ者もいる。
恐竜のような足には鋭い爪があり、身体には金属製の軽鎧を身に着けている。
「ソフィア、あれがリザードマンか?」
「そうよ、魔物にしては剣術や槍術のレベルが高いわ」
「面白い、少しは楽しませてくれるかな。剣だけで戦いたいから俺にやらしてくれ」
俺はニヤリと笑い、リザードマンに向かって走っていく。
リザードマンも剣や槍を構え臨戦態勢だ。
先頭のリザードマンに斬りつけると見せかけて二匹目のリザードマンに狙いを定める。
先頭のリザードマンに軽く蹴りを入れ、その勢いで二匹目に向かい互いの身体が交差した刹那、俺の剣は相手の剣を真っ二つにしながらリザードマンの上半身を寸断した!
返す刀で振り向きざまによろめいて膝をついた先頭のリザードマンの首を刎ねる。
さすがに三匹目は簡単には隙を見せず、槍で俺の身体を突いてきた。
だが、俺はそれよりも早く反応して、突き攻撃を躱し手刀で槍の柄を跳ね飛ばす。
すかさず剣で下から掬い上げるようにリザードマンの身体を縦に斬り上げた。
三匹目が倒れるよりも前に俺は四匹目の横に移動して、リザードマンがこちらに顔を向けようとするよりも速く首を刎ね飛ばしたのだった。
「よし、こんなもんかな」
「速かったわね、あたしも途中から目で追ってくのがやっとだったわ」
とりあえず、リザードマンを回収して先に進む。
その後も何回かリザードマンに遭遇したが全て殲滅した。
29階層も同じように攻略して30階層に降りる。
30階層ではリザードマンとデストロイダイルを同時に相手するという場所もあって、一般冒険者にとって中ボス部屋に行く前の嫌がらせとしか思えないような場所もあった。
そして、ようやく30階層をクリアして俺達は中ボス部屋の前まで来た。
「この中ボスを倒せばやっとソフィアやクロードさんに追いつけるな」
「うん、そうだね! でも、まさかこんなに早くここまで来れると思わなかったわ」
「それもこれもソフィアのおかげさ」
「そうじゃなくて、フミトが凄すぎるのよ。だって道は迷わないし魔物も簡単に倒していくし、魔物と戦ってる最中もそれとなくあたしを庇ったりして守ってくれるし。着いてくあたしは随分と楽をさせて貰ってるわ」
「いや、俺はソフィアが居るからこそ調子よく進んで来れたと思ってるよ」
「フミトはあたしを持ち上げるのが上手なのね。本気で信じちゃうわよ」
「ところで、ソフィア。本題だけどこの階層の中ボスの情報を教えてくれないか?」
「ここの中ボスはミノタウロスね。しかも2匹出るわ。あと、中ボスの手下のブレイブバイソンが多数。一斉に突撃を仕掛けてくるからちょっと厄介かしら。ミノタウロスはその身体の大きさの割には結構スピードがあるわよ。と。言ってもフミトに比べたら全然遅いけどね」
「うーん、ブレイブバイソンを俺とソフィアの魔法で纏めてやっつけるのが先だな。ミノタウロスはソフィアに1匹任せるから頼む。万が一もし苦戦しそうならすぐに俺を呼んでくれ」
「わかったわ!」
「よし、それじゃ行こうか! パーティーの大事なパートナーさん」
「わかったわ! あたしの大事なパートナーさん!」
中ボス部屋に入ると前方遠くに大きな巨体を持つ魔物が2体並んでいる。
おそらくあれが中ボスのミノタウロスだろう。
その前方にはブレイブバイソンがひしめいている。
「ソフィア、二人同時に火魔法を撃つぞ!」
「了解よ!」
『エクスプロージョン』
『火よ!』
俺のエクスプロージョンがブレイブバイソンひしめく中心部に炸裂して大きな爆発を起こす。
ソフィアから放たれた魔法により、密度の濃い豪炎が押し寄せていきブレイブバイソンを次々と焼き尽くしていく。
1~2匹の撃ち漏らしはあったがほぼ殲滅出来た。
後方ではミノタウロスが大きな斧を盾代わりにして俺達の魔法攻撃を何とか凌いだようだがふらついているな!
「ソフィア! 残ったブレイブバイソンは俺が仕留めながらすぐにミノタウロスに向かう。ソフィアは直接もう1匹のミノタウロスを頼む」
「いいわ! 任せて!」
残った手負いのブレイブバイソンをそれぞれ剣の一振りで時間をかけずに首を落としトドメを刺していく。
俺に気がついたミノタウロスが右頭上に構えた大きなバトルアックスを袈裟斬りのようにもの凄い速さで振り下ろしてくるが、その巨大な重量と威力を盾化した腕輪の衝撃吸収と斬撃吸収でいとも簡単に受け止めてみせる。
ミノタウロスは驚きの表情で俺を見ながら叫んだ。
「オレノコウゲキヲウケトメルナンテスゴイナオマエ!」
えっ!? コイツ喋れんのかよ!
俺は中ボスのミノタウロスが喋った事に驚きだよ。
思わず友情が生まれそうになったじゃないか。
ちょっとしたサプライズに俺は一瞬びっくりしたが、気を取り直してミノタウロスを速く重い剣技で一気に追い詰めていく。
辛うじて防戦していたミノタウロスだが俺の敵ではない。
「これでトドメだ!」
飛び上がり、剣を横に一閃させるとミノタウロスの首はその巨大な身体から離れその場に大きな音を立てて倒れた。
余韻に浸る間もなく、横のソフィアの戦いを直接目視で確認する。
俺は今倒したミノタウロスとの戦闘中もマルチマップの立体投影でソフィアとミノタウロスとの戦いを追っていた。
丁度、ソフィアもミノタウロスにトドメを刺そうと飛び上がって双剣で仕留めようと動作を起こしたところだったが、地面にあった小さい小石に足を少し取られてバランスを崩してしまう。
それを見たミノタウロスは起死回生とばかりにバトルアックスを振り上げソフィアに振り下ろそうとした。
「フミト!」
「ソフィア!」
ソフィアの危機を感じた俺は無意識に瞬間移動を発動してソフィアの側に移動して、バランスを崩したソフィアを抱き上げ、再び瞬間移動でその場から移動する。
そして、ソフィアを残し誰も居ない場所へバトルアックスを振り下ろしたミノタウロスの脇に瞬間移動で移動してがら空きの首に思い切り剣を振ったのだった。
断末魔の悲鳴を上げる事もなく、首を落とされたミノタウロスがその場に崩れ落ちていく。
そして、それが30階層の中ボスを倒した瞬間だった。
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