第55話 トルニアに俺達と一緒に行かねえか?
30階層の中ボスを倒した事で静寂の中に出口の扉が開く音だけが大きく響く。
「フミト、助けてくれてありがとう!」
そう叫びながらソフィアが俺の方へ駆けてきて思いっきり抱きついてきた。
ああ、ソフィアの身体は柔らかくてとてもいい匂いがするな。
俺も空いている左手でソフィアをギュッと抱きしめてやる。
「ごめんね、石に躓いちゃった…てへ」
「ソフィアが無事ならそれでいいよ」
「ありがとう。普段は躓かないんだけど、どうしちゃったのかしらー?」
何か棒読みになってない?
もしかして、躓いたのは計画的だったのではという疑念が一瞬俺の脳裏をよぎる。そういえば躓きながらもいつでも迎撃出来る体勢だったような……が、俺はすぐに忘れることにした。うん、それがいい。
暫く抱きしめた後、周りを眺めてみると金の宝箱が出現していた。
「ソフィア。魔物の回収をして宝箱を開けよう」
「そ、そうね。宝箱はあたしが開けてもいい?」
俺達はお互いの身を離してそれぞれの行動をする。
俺は魔物をアイテムボックスに回収して宝箱へと向かっていった。
「どうだ、ソフィア」
「やったー! ダガーが2本入ってたわ」
ソフィアが宝箱から2本のちょっと長めなダガーを手に取り俺に見せる。
薄青く光る刀身はとても綺麗で切れ味が良さそうだ。
『鑑定結果』
〈品名:双剣〉
〈名前:ツイントリックスター〉
〈材質:ミスリル合金〉
〈付与:自動修復・斬撃強化〉
◆ミスリルで作られた双子の双剣。軽くて取り回しが簡単。
斬撃力が3割アップする。刃が欠けても自動修復される。
「これ凄く良さそうな武器じゃん。ソフィアが使えばいいんじゃないか」
「そうね、あたしが貰っちゃうね」
「宝箱から良い物も出たし、そろそろここ出よう」
中ボス部屋を後にして転移魔法陣に登録する。
これでやっと俺はソフィアやクロードさんに追いつく事が出来た。
魔法陣を使い、迷宮の外に出るとまだ夕方前で空は明るい。
「ソフィア、依頼を完了させたいから冒険者ギルドに寄っていこう」
「わかったわ」
北門からオルノバの街の中に入り冒険者ギルドを目指して歩いていく。
冒険者ギルドに着いて早速査定所に俺達は向かった。
「すみません、依頼完了報告をお願いしたいんですけど」
俺が査定所のカウンターから呼びかけると、ギルドの中で事務仕事をしていた査定担当のおじさんが軽く手を上げながらカウンターに向かって歩いてきた。
俺はマジックバッグの中からフレイムタイガーを取り出し、ギルドの依頼書と俺とソフィアのギルドカードを一緒にカウンターの上に置いた。
「フレイムタイガーの素材依頼だね」
暫くの間、フレイムタイガーの身体を調べていた査定所のおじさんだったが…
「うん、問題ないね。毛皮も傷がないし最高の状態だ。依頼内容通りに金貨10枚だね」
そう言って俺達のギルドカードと依頼書を持ち奥の器具で操作を始める。
手続きが終了したようで、おじさんは一旦カウンターに来て振り込みか現金払いかの選択を聞いてきた。
「どうするソフィア?」
「あたしは宝箱から臨時の金貨収入があったから振り込みにするわ」
「なら、俺もそうしよう」
査定所のおじさんに二人均等に金貨5枚ずつの振り込みにすると伝えると、また奥の器具のとこまで行き、操作した後に俺達のギルドカードを持ってやってきた。
「お疲れさん。ギルドカード返しておくね」
ギルドカードを返して貰った俺達は冒険者ギルドを出る事にした。
「ねえ、フミト。30階層から先はどうするの?」
「そうだな…とりあえずソフィア達に追いつく為の目標だからひとつの区切りにはなったかな。暫くは別な事もやってみたいし迷宮攻略はそれからでもいいかなと思ってる」
「そうなんだ…フミトと会えなくなっちゃうね」
「いや、パーテイーは一緒だし会えないって訳でもないだろ? ソフィアの屋敷と俺の泊まってる宿は歩いてすぐのところだしさ。劇だってそのうち一緒に観に行く予定なんだし」
「そうだ! あたしがフミトの部屋に一緒に住んじゃえば毎日会えるよね?」
「えっ!?」
「冗談よ。本当は冗談じゃないけど冗談にしておく。仕方がないから我慢するわ」
何がなんだかわからないが、ここは無言を貫いておこう。
その後、ギルドから屋敷までソフィアを送り届けた。
「じゃあ、またなソフィア」
「うん、またね」
ソフィアと別れた俺はある事を思い出し、ゼルトさんやトランさん達が泊まっている銅の口髭亭に向かった。
銅の口髭亭に到着して中に入りハンスさんに呼びかける。
「ハンスさん、フミトです。トランさんは居ますか?」
俺の声を聞きつけたのか、奥からハンスさんが歩いてきた。
「おう、フミトか。トランならゼルト達と一緒に用事で出かけてるぞ。夕方には戻って来るって言ってたから食堂で待ってろよ」
また出直すかと考えたが、もうすぐ帰って来るようなので食堂で待たしてもらう。軽くエールを飲みながら待っていると、宿の扉が開きトランさんがゼルトさん達と一緒に帰ってきた。
真っ先に俺を見つけたのはリーザさんだ。お願いだからいきなり俺に抱きついてきて頬ずりするのはやめてくれ! リーザさんの唇と俺の唇が超近くて際どいって!
また格闘術スキルを使って強引にリーザさんを引き剥がした俺は呼吸を整えてトランさんに声をかける。
「トランさん、今日はトランさんとポーラさんにお土産があるんですよ」
「フミト君、私とポーラにかい?」
「ええ、そうです。まずはこれを見て下さい」
そう言って、俺はマジックバッグから杖とローブを取り出す。
「杖はトランさん、ローブはポーラさんが使って下さい」
「いいのかい? 何やら良さそうな物に見えるけど」
俺が杖とローブの名称と性能を説明すると、トランさんとポーラさんは恐縮しながらも俺からのプレゼントを受け取ってくれた。
「まあ、こんな良い物を貰っちゃってなんだか申し訳ないわー」
「本当だな。フミト君、私達の為にありがとう」
「いえいえ、二人に喜んで貰えて俺も嬉しいです」
そこで、ゼルトさんが何かを思いついたのか声を上げる。
「そうだ、フミト。おまえ、観光の街トルニアに俺達と一緒に行かねえか? フミトのパーティーも4人くらいなら構わねえぞ」
「それって、どういう事です?」
「ああ、今度俺達のパーティーはレノマ コスタ男爵の護衛で男爵の領地の領都トルニアまで行く予定なんだよ。まだ護衛枠は空いているからそこでフミト達も一緒にどうかいって話さ。どうせなら知り合いの方が気心が知れていいだろ」
「男爵の護衛ですか?」
「フミト、男爵だからって固っ苦しく考える事はねえよ。レノマは昔俺とリーザと一緒にパーティーを組んでいた男だ」
「えっ? ゼルトさんが男爵と一緒のパーティーだったって事ですか?」
「ははは、ゼルトよ。もっと詳しく教えてやんねえとフミトが訳がわからないって顔をしてるぞ」
話を聞いていたのか、ハンスさんが顔を出してゼルトさんに助言する。
「そうだな、じゃあ詳しく説明しよう。レノマは男爵家の次男坊だったんだよ。兄貴が男爵家を継ぐので次男のレノマは自分の食い扶持は自分で稼ぎたいと冒険者を目指す事にしたんだ」
「なるほど」
「で、同じく冒険者になった俺とパーティーを組んだのさ。リーザともその頃知り合ってリーザも俺達のパーティーに誘ったんだ。レノマは魔法職で攻撃も回復も使えたから俺達は3人でパーティーをやっていた。だが、ある事がきっかけでレノマは男爵家を継がなくてはいけなくなって俺達のパーティーを抜けたんだよ」
「そんな過去があったんですか…ところで、ある事がきっかけって?」
「男爵だったレノマの親父さんが亡くなって、その男爵家を継いだレノマの兄貴も亡くなってしまった。そこで次男だったレノマが急遽男爵家を継ぐ事になったのさ。だから男爵になった今でも昔の冒険者時代と同じように接してくれるし気さくで良い奴なんだ」
「そんな事が…事情は大体わかりました」
「それでよ、一応護衛の仕事だが、半分は観光旅行って訳さ。レノマは暫くの間トルニアに滞在して、用事が済んだら寄親であるラグネル伯爵から任された仕事をする為にまたこのオルノバの街に帰ってくる。でよ、トルニアには小さめだが湖があって泳ぐ事も出来る。しかもトルニアには温泉があちこちに湧いているんだ。湖も温泉が下から湧き出していて結構温かいから一年中泳げるんだ!」
「いいですねー。楽しそうだ」
「だろ? 俺達は最近フミトに貰ってばかりだからよ。気持ちだけでも返したいんだよ。出発は3日後を予定している」
「わかりました。そういう事なら…ソフィア達にも聞いてみないとわからないので返事は明日の午前中でいいですか?」
「ああ、明日なら大丈夫だ。出来るだけ早く頼むわ。レノマに伝えないといけないからな」
何だか思わぬ展開になってきたな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます