第94話 王都を揺るがす大事件
ドカーン!ドカーン!と街中に響く爆発音。耳を澄ますと一箇所だけではないようだ。俺はクロードさんやソフィア達に顔を向け叫ぶ!
「何が起こってるのか分からないが爆発音がした方向に行ってみよう!」
「フミト、わかったわ!」
「よろしいでしょう、フミト殿!」
「私は何か良くない事が起きてるような気がします!」
さすが俺達は息の合ったパーティーだ。誰一人として恐れる事なく、爆発音が聞こえてきた方向に一斉に駆け出していく。エミリアさんが走りながら俺達に補助魔法をかけるべく詠唱をする。
『精霊よ! 力を貸して!』
エミリアさんの補助魔法によって身体能力が底上げされた俺達は、まさに風のような速さで街中を突っ切っていく。そして俺は走りながらクロードさんに問いかける。
「クロードさん、さっきの爆発音は何だと思いますか?」
「そうですな。あくまでも私の推測ですが、おそらく爆発系の火魔法ではないかと」
「あたしもそう思うわ」
ソフィアもクロードさんと同じ意見らしい。確かイルキアの法律によると、街中での攻撃魔法の使用は闘技場や練兵場など限られた場所ならともかく、不測の事態があった場合以外はどんな状況であれ禁止されていたはずだ。
この王都で何が起こってるのかまだ状況は掴めていないが、多くの人々が行き交う王都で爆発系の火魔法を放つなんて尋常ではない。爆発音がした場所に近づくにつれて前方に燃え盛る赤い火と黒煙がモクモクと立ち昇る建物が見えてきた。
現場は阿鼻叫喚の有り様で、怪我をして倒れてる人やそれを救護する人、そして野次馬などでごった返していた。
俺が近くにいた人を捕まえてこの現場の惨状を尋ねると、その人が言うには男が火魔法を無差別に乱射して暴れていたそうだ。周りの状況を確認して何をしたら良いか考える。まずは怪我をした人の手当と燃え盛る火の消火が急務だ。
「ソフィア、俺は火を消すからソフィアとエミリアさんは怪我人の手当を頼む。クロードさんは俺と一緒に消火活動を頼めますか?」
「任せて!」
「わかりました!」
「承知!」
俺は全力で水魔法の〈アクアレイン〉を使い建物の上空から大粒の雨を降らす。クロードさんも精霊水魔法で水のシャワーをぶつけていく。火勢が見る見るうちに弱まり鎮火すると周りの野次馬から歓声が上がりだした。
「「「「うおー!」」」」
「凄いぞ、なんて強力な水魔法なんだ!」
「あっという間に火が消えていったぞ!」
だが、火が消えてホッとした気持ちになったのもつかの間だった。俺達が居る場所から少し離れた場所で、また『ドカーン!』という爆発音がしたからだ!
音のした方向を見るとモクモクと黒い煙が上がっている。火が鎮火して安堵の表情を浮かべていた野次馬達も、また恐怖の表情に戻ってしまった。
俺とクロードさんは顔を見合わせてお互いに無言で頷く。
「ソフィア、エミリアさん。俺とクロードさんはこれから今聞こえた爆発音のした場所に行く。怪我人の救護がある程度終わったら俺達を追いかけて来てくれ!」
「「はい!」」
(くそっ!誰がこんな酷い事をしてるんだよ!?)
俺とクロードさんが二箇所目の現場に駆けつけると、燃え盛る建物のそばにうつろな目をした一人の男が立っていて追加の火魔法を放っていた。遠巻きにそれを眺めている一般市民が何人かいたがどうする事も出来ない。
(この騒動の犯人はあいつか?)
「俺はまず建物の火を消します。クロードさんはあの犯人らしき男の方を頼みます」
「フミト殿、承知した!」
「周りにいる皆さんは危険ですからここから離れてください!」
俺の言葉に周りで眺めていた一般市民は、我に返ったのか慌ててその場から離れていく。あの男への対処はAランク冒険者のクロードさんに任せておけば大丈夫だ。
俺は男に向かって駆け出していくクロードさんを横目に見ながらさっきの現場と同じように〈アクアレイン〉で火を消火していく。すると、犯人らしき男に向かっていったクロードさんの声が聞こえてきた。
「フミト殿、この男手強いですぞ!」
(何だと…クロードさんが手強いと言うくらいだから相当な強さなのか?)
俺は焦る気持ちを抑えながら火を消火していき、鎮火出来たのを確認してクロードさんと犯人らしき男の方へ視線を向けると、まさに二人が火花を散らして戦っている最中だった。男は魔法と防御に長けているのかクロードさんの攻撃を何とか躱している。
どんな奴なのだろうと、俺は犯人らしき男を《鑑定眼》のスキルで鑑定すると驚きの事実が判明した。この男はAランクの冒険者だったのだ!
「クロードさん、この男はAランクの冒険者です!」
「なんですと! 通りで手強いのも頷けますな」
「火が鎮火したので俺も加勢します!」
「頼みますフミト殿」
俺も剣を抜き戦いに加わると、均衡していた戦いが一気にこちらに有利になる。いくら相手がAランク冒険者といえども、俺とクロードさんの二人がかりでは相手にならない。
「グガァアアアア!」
訳の分からない嬌声を上げて必死に抵抗する男。
「フミト殿、私もこの男を鑑定しましたが何やらおかしいですぞ。男の状態が《支配》となっております!」
もう一度俺も鑑定してみると、確かに男の状態は《支配》になっている。
(支配状態だと……どういう事なんだ?)
とにかく、考えていても仕方ない。こんな危険な男をこのまま野放しにする訳にはいかないので一気に片付けないとな。
「瞬間移動!」
俺は瞬間移動の魔法を使い、男の後ろ側に回り込むと剣を男の身体に突き刺した。男は倒れる前に一瞬後ろを振り向いて俺の方を見てきたが、目の光が急速に失われ地面にどっと倒れた。
「フミト殿、やりましたな」
「ええ、Aランクなだけあって少し手強かったですが…」
俺が男を倒したのを見て離れていた市民達がおずおずと戻ってきた。
「あんた強いな。俺もこの男に殺されるかと思ったけど助かったぜ」
市民達も犯人が倒されてホッとしてるようだ。そして、俺とクロードさんが犯人の検分をしているとソフィアとエミリアさんが駆けつけてきた。
「フミト、あっちは一応片付いたわ」
「衛兵の皆さんが来たので後はお任せしてきました」
『ドーン!』『キャアアア!』
4人揃って安堵していると、今度は別の場所から爆発音と女の人の悲鳴が聞こえてきた。再び顔を見合わす俺達。
「一体、この王都で何が起こってるんだ?」
「何か嫌な予感がしますな」
「何だかおかしいわよね」
「精霊達もざわついています」
俺達はその場にいた一般市民達に事後処理を任せて新たな現場に向かった。現場に着くとさっきと同じような惨状が広がっていて、そこかしこに倒れてる人の姿が見える。その中にはもう息をしていない人もいるようだ。
今度の現場は犯人と思われる人物がまだ残っていた。それも二人だ。さっきの犯人と同じで目はうつろで感情が読めない。一人は魔法をぶっ放していて、もう一人は武器で市民を襲っている。
《鑑定眼》で鑑定したら、またしても支配状態となっていた。
とにかく、殺戮を止めさせないといけない。俺は一人をクロードさんに任せ、もう一人に向かって一気に間を詰めていく。道に座り込んで恐怖に慄いている女の人に向かって、今にも剣を振り下ろそうとしている男に強烈な体当たりを食らわせて吹き飛ばす。
壁に頭からブチ当たった男はその衝撃でピクピクと痙攣した後に動きを止めた。クロードさんの方も戦闘が終わったようで、魔法職らしき男が既に地面に倒れていた。
ソフィアとエミリアさんは俺達が戦ってる間に怪我人を安全な場所に移して治療を施していた。
「た、助けて頂いて…ありがとうございます」
男に斬られそうになっていた女の人が震えながらお礼を言ってきたので、俺はその女の人にこうなった状況を質問してみた。
「急にその男達が暴れだしたんです。私は逃げようとしたのですが、怖くて腰が抜けてしまって動けなくなってしまったのです。あなた達が来て来れなかったらきっと私も殺されていたでしょう」
「予兆も何もなく急に暴れだしたのですか?」
「ええ、急に暴れだしたんです」
「ありがとう、事件前の状況を話してくれて。一人で立てますか?」
手を差し伸べてあげると、その女の人は俺の手を掴んでよろよろと立ち上がった。まだ少し身体が震えているようだ。丁度その時、誰かが衛兵を呼んだらしく数人の衛兵が現場に駆けつけてきた。
「お前たちそこを動くな!」
衛兵が剣を抜きながら俺達に向かって叫ぶ。
まあ、この状況じゃぱっと見て誰が犯人だか分かりゃしないもんな。
「俺達は暴れまわる犯人を討伐した者だ。周りの人が証人になってくれるはずだ」
「ほ、本当か…そこを動くなよ」
衛兵達が周りの人に聞き込みをして暫く経つと、ようやく俺達への容疑が晴れたのか小隊長らしき人物が申し訳なさそうな顔をして俺達に謝罪の言葉をかけてきた。
「済まなかった。我々もここに到着したばかりだったので現場の状況が分からなかったんだ」
「それはもういいよ。謝罪は受け入れたからね。あなた達の行動は正しいよ」
「ありがとうございます。実はこのような凶行はここだけじゃないのですよ。王都のあちこちで同じような事件が起きているらしく我々も大忙しなのです」
他にも同じような事件が発生してるのかよ…王都に何が起こってるんだろうか。
暴れていて俺達に倒された二人は持ち物からBランクの冒険者だという事が判った。俺達と衛兵はお互いに名を名乗り、現場で起きたありのままの様子を周りの人達と一緒に説明し、救護した怪我人の人達に感謝されながら俺達はその場を後にした。
犯人や犠牲者の処理を含めて後片付けは衛兵達がやってくれるようだ。辛い仕事だがこれも衛兵の役割かと思うとちょっと同情しちゃうよな。
帰りがけに最初の現場に戻り、同じようにその場に居た衛兵に名前を名乗り説明した後で近くの衛兵屯所に行き、事情聴取を受けて俺達が市民の命を犯人から守った事が公式に認定された。
その後冒険者ギルドに顔を出すと、ギルド内もてんやわんやの大騒ぎ状態になっていた。情報が錯綜気味で確定はしていないらしいが、10箇所くらいの場所で同じような事件が起こったらしい。
衛兵や王国騎士団、その場に居合わせた冒険者らによって犯人の凶行は何とか鎮圧されたらしいが、残念ながら市民や鎮圧側にも多くの犠牲が出てしまった。犯人は高ランクの冒険者や王国騎士、そして王国の魔法師団に属していた人物もいたみたい。
そして、何となくだが俺達が犯人を倒す前に鑑定で確認した『支配』状態という共通項が、俺にはこの事件を解き明かす鍵になりそうだという予感がするのだった。
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