第95話 お互いに解決に向けて協力
王都を揺るがす大事件が起きた後、俺達は冒険者ギルドでギルドマスターのバリーさんに呼び止められ、直接犯人と対峙した当事者として事件の詳しい経緯をギルドマスターの部屋に呼ばれて聞かれていた。
「全くよぉ、高ランクの冒険者がこの事件の犯人だったと聞いて俺も頭が痛えよ。俺は日頃から口を酸っぱくして冒険者は庶民に暴力を振るっちゃ駄目だと訓示してたのにな。しかも、お前さん達が倒した犯人はAランクのグラードだったって聞いて俺は驚いちまったよ。Bランクの二人も最近メキメキと頭角を現してきていた奴らだぜ」
「俺達もびっくりですよ。まさか犯人がAランクの冒険者だったなんてね」
「あいつらはどんな感じだったんだい。俺にはあいつらがこんな大それた事件を起こすような奴らには見えなかったんだが、何でこんな事をやっちまったのか皆目検討がつかねえんだよ」
バリーさんの口ぶりだと、あの犯人達は普段の素行も悪くなかったみたいだ。そういえば、冒険者でもBランク以上に上がるには、ギルドの適性検査みたいなものに通らないと昇格出来ないような話を以前に聞いた覚えがあったっけ。上に昇格出来るだけの実力があっても他の冒険者の模範となるような品性が伴っていないと昇格が認められないんだよな。
そこで俺は倒した犯人の冒険者達の気になる情報を思い出した。
「バリーさん、俺達が倒した犯人達なんですけど気がついた事がありました」
「ほう、気づいた事か。それはどんな事だい?」
「戦ってる時に彼らを鑑定したんですけど。彼らは全て《支配》状態になってました。これは俺だけでなくクロードさんも確認してるので間違いないと思います」
「フミト殿のおっしゃる通りですな。私も戦った相手を鑑定したが《支配》状態になっていた」
「あたしは直接確かめた訳じゃないけど、フミトとクロードが確かめたのなら間違いないわ。何か心ここにあらずで変な感じだったし」
「フミトさんが確かめたのなら私は信じます」
ソフィアもエミリアさんも二度目の現場では犯人を直接見てるもんな。あの男達は自我が失われていて普通の状態ではなかった。ましてや、普通の状態であんな酷い事をやれるなんて思えないしね。
「嬢ちゃん達、心配いらねえよ。クロードの旦那とフミトの兄ちゃんが嘘を言ってるなんてこれっぽっちも思っちゃいねえ。むしろ、有力な情報を聞かせて貰って感謝してえくらいだ」
「ところでバリーさん。支配状態になるなんてよくある事なんですか?」
「いや、混乱とか魅了は冒険者をやっていればよく見る状態異常だが、支配なんて状態異常はこの俺でも聞いた試しがねえな。そもそも、俺も長く生きてるが支配なんてスキルに今までお目にかかった事がねえ」
「バリーさんでもそんなスキルは目にしてないのか」
「クロードの旦那は俺よりも大ベテランなんだから何か知ってないかい?」
「私もそんなスキルの持ち主には今まで会った経験がない。だが、世界は広い。もしかしたら私の知らないところで支配スキルの持ち主が居るのかもしれない。いや、現実に支配されている者を確認したのだからこの王都周辺に居るのだろう」
長命種のエルフ族で、大ベテランのクロードさんが知らないと言うのだからレアスキルなんだろうか。俺はまだこの世界に来てそれほど時間も経っていないから、どんなスキルがどれだけ存在してるのかさえ分からないもんな。
「だとしたら、そんな危険なスキルの持ち主が実際に居て、それをこんな形で悪用してる訳ですよね。それって野放しにしていると凄く危険なんじゃないですか?」
「勿論さ、俺だって出来る事なら今すぐそいつをとっ捕まえてぇよ。そんなスキルで支配した冒険者達を利用して、罪もない一般市民を襲わせるなんて腸が煮えくり返る思いだぜ」
俺達がバリーさんとそんな話しをしていると、ノックの音が聞こえ部屋のドアを開けてギルド職員が入ってきた。
「マスター、他の現場の詳しい情報が入ってきました。凶行に及んだ犯人達はいずれも犯行中はまともな状態ではなかったとの報告が来ています。あと、今まで普通にしていたのに急に豹変したとの報告もあります。そして、それぞれの交友歴情報だと確認されている限りでは犯人達の横の繋がりはなかったようです」
報告を終えた職員は資料をバリーさんに渡して部屋を出ていった。他の現場でも犯人は同じような状態だったみたいだな。一通り資料に目を通したバリーさんは難しい顔をしてその場で暫く考え込んでいる。
「横の繋がりはなしかい。なら、その支配スキルとやらで支配した連中を同時刻に操って酷い事をさせた奴がこの事件の主犯と見て間違いねえだろうな。ふざけた野郎だぜクソッタレが!」
バリーさんの憤る気持ちがよく分かる。自分では直接実行せずに他人を支配して犯行を行わせ、それを見ながら陰でほくそ笑んでる主犯が今もどこかに隠れているのだ。何が目的なのか知らないが、バリーさんにとってとても許せるような存在ではないだろう。
「俺達も何か犯人の情報を掴んだらバリーさんには教えますよ」
「そうだな、もし何か動きがあったらクロードの旦那やフミトの兄ちゃん、そして嬢ちゃん達にも仕事を頼むかもしれねえからその時はよろしくな」
冒険者ギルドでバリーさんと事件について情報交換した俺達。お互いに解決に向けて協力する約束をしてギルドマスターの部屋を後にした。受付などがあるメインの大きな部屋に行くと、事件の情報を聞きたがって多くの冒険者が詰めかけていた。
その影響もあって現在は冒険者ギルドの受付業務が閉鎖されており、ギルドの機能がストップしていた。情報がまとまり次第たぶんギルド職員から説明があるはずだ。
あと、緊急事態という事で一部の高ランク冒険者にはギルドから招集がかかっているとの噂も漏れ聞こえている。
(情報を冒険者達に共有してもらって次の備えもしておかないといけないしね)
「おい、聞いたか? あのグラードさんが乱心したらしいぜ」
「それ、本当らしいな。街中でところかまわず魔法をぶっ放しまくってたってよ」
「あの人がそんな事をするなんてな…」
冒険者達のそんな話し声を聞きながら、俺達はギルドを出て宿に戻る為に循環馬車の停車場に向かっていく。街中は厳重な警戒が続いていてあちらこちらに厳戒パトロール中の衛兵の歩く姿が見える。
一般市民は家の中に引きこもっているのか全く姿を見かけないし、事件が王都に不安を与えるだけでなく沈んだ空気に覆われて重苦しい雰囲気が漂っているな。
「ねえ、フミト。この事件で王都の華やかで楽しい雰囲気が一変しちゃったわね」
「ああ、犯人の目的が何なのか分からないが、王都を恐怖に陥れて喜んでいるのならそいつは普通の人間だとは思えないよ。バリーさんの言うように罪もない人達に大勢の犠牲が出てしまって、隠れて操っていた主犯には俺も腹が立って仕方ない」
「聞いた事のないスキルに自分は陰に隠れて人を操る残忍で狡猾な犯行。これは今までにない厄介な相手ですな。私達も油断は禁物ですぞ」
「フミトさん、私達に何か出来る事はないでしょうか?」
「エミリアさん、今は犯人の手掛かりも少なくて雲を掴むような状況だからね。残念ながら俺達に出来る事は限られてる」
4人共やりきれない気持ちのまま循環馬車に乗って宿に戻る他なかった。
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