第17話 この世界の人
ようやく見つけた待望の道を東へ向かい歩き出して二時間くらいだろうか。
脇は背の高い草が茂っていて、太陽の光が降り注ぐのどかな道をのんびりと歩いていた時だ。俺のスキル、マルチマップに反応があった。
マルチマップの探索範囲を最大にして索敵していた俺は、前方3キロに表示された複数の赤い点と、初めて見る複数の青い点が同じ場所で混じり合ってるのを認識した。
赤い点は魔物か。なら青い点はもしかしたら人かもしれないな。
第一村人ならぬ、第一この世界の人に会えるかもしれない大きな期待と、未知の異世界の人に会う不安が一緒になって複雑な気持ちだ。
とりあえず、隠密スキルをアクティブにしてその場所に近づいていく。
手前150メートル程の地点で一旦立ち止まり、脇の草に隠れ前方の様子を観察する。
すると、俺の目に平原を棲家にしているらしい複数のバトルウルフと戦っている人らしき姿が見えた。
戦況を見てみるとバトルウルフの数は八頭。群れのボスっぽい黒いバトルウルフソルジャー一頭が変異種の大きな個体のようで人側と対峙している。
人側は荷馬車らしきものが二台、それを曳く馬と荷馬車を守るように剣を持った若い男が各馬車に一人ずつ居て馬車の脇に商人風の男が一人立っている。
そして、直接魔物と向き合って対峙してるのが四人のようだ。
馬車を守る人以外は男が二人、女が二人。
男は大盾と大剣を持った筋肉モリモリでスキンヘッドの巨漢と、ローブを着た魔法使い風の痩せたおっさん。
女は剣士風の出で立ちで金属の軽鎧を着てスラッとした長身のブロンド色の髪をなびかせた、ちょっときつい感じだけど凄い美人剣士さん。もう一人の女はローブを着た優しそうでふくよかなおばさんだ。
いずれも元の世界に例えると、西洋風の顔つきをしているようだ。
リーダーと思える巨漢の大盾を持った戦士が周りの人達に何か指示をしているのが聴こえる。
あれ? あの人が何を言ってるのかわからないぞ。俺には言語理解のスキルがあるはずなのにどういう事だ?
そう、不思議に思っていたら新しいスキルを獲得した。
《言語理解(ドルナ大陸共通語)》
すると、今度はあの巨漢戦士が話している言葉を聞き取れるようになった。
「もう一度言うぞ! 俺が魔物の注意を引きつける。その間にリーザとトランさんは周りの魔物を仕留めてくれ。ポーラさんはいつも通りに回復援護を頼む!」
「おう! あたしに任せとけ!」
「ゼルトよ、了解した」
「おほほ、わかりましたわよ」
巨漢戦士の指示を受けて各々配置につくようだ。
どうやらあの大盾を持ったゼルトという巨漢戦士がパーティーリーダーみたいだな。
ゼルトという巨漢戦士が自分の持つ大盾に剣の柄を叩きつけ魔物の注意を引く。
魔物達は一斉に巨漢戦士の方を向く。
その隙を美人剣士は見逃さず、一気に魔物との間合いを詰め普通種のバトルウルフに渾身の突きを入れる!
その後ろでは痩せた魔法使い風のおっさんが魔法を唱えたようで火魔法のファイアアローがもう一頭の普通種の首元に突き刺さるのが見えた。
見事なチームワークだな。
これで残りは変異種を含めて六頭。
このまま魔物相手の戦いを優勢に進めるかと思った矢先、突然バトルウルフソルジャーの変異種が大きな声を出して吠えた。
『ウォオオオオオオーン!』
これは! レアスキルの威圧スキルだ。
例のユニークスキルのおかげで俺の頭の中の謎知識が教えてくれる。
しかも、変異種バトルウルフソルジャーから出された威圧はもの凄く強烈なものだった。この威圧に当てられると、精神値が一定以上の高さか耐性を持っていないと短時間硬直してしまうのだ。
すると、前面に出ていた巨漢と美人剣士が変異種バトルウルフソルジャーの強烈な威圧に当てられて少しの間棒立ちになってしまう。
後方に位置して威圧の影響が最小限だったと思われる回復職らしいふくよかなおばさんが回復魔法のキュアを唱えようとするが、一頭のバトルウルフが邪魔に入り魔法詠唱は妨げられてしまった。
同じく後方に位置していてすぐに硬直状態から脱した痩せた魔法使いのおっさんが回復職のおばさんを援護して、おばさんを邪魔した通常種を魔法で仕留めたようだ。
だが、その間に棒立ちになった美人剣士が変異種のバトルウルフソルジャーの前足の鋭利な爪による攻撃を受けて横に飛ばされ傷ついたのが見えた。
魔物の群れのリーダーの変異種はすかさず巨漢戦士に首を振り向け、同じように爪で大盾を持つ左腕を切り裂く。
その攻撃を受け、ようやく巨漢戦士は威圧から開放され右手に持つ大剣で変異種の首付近に突きを入れてダメージを与える。
だが、巨漢戦士も左腕に受けたダメージが大きそうでその場に
美人剣士の方も爪を受けた腕と飛ばされた時のダメージがあるのか苦しそうだ。
一気に形勢が不利になってしまう。
変異種バトルウルフソルジャーの強さが想像以上のようだ。
これはマズイな。あの人達はかなり強そうだが変異種のバトルウルフソルジャーが飛び抜けて強い。
痩せた魔法使いのおっさんが、魔物が巨漢戦士や美人剣士に近づかないように魔法を放ちながら後ろにふくよかおばさんを庇って孤軍奮闘中だ。
魔物はふくよかなおばさんが回復職らしいのを察してるようで、変異種のリーダーに指示された通常種が集中的に向かってきている。
数の上では残りの魔物は五頭だが、巨漢戦士と美人剣士が傷ついたので戦力ロスは大きそうだ。
ここに来て俺は決断する。
最初は人側が普通に勝つだろうと思って傍観する気でいたが、変異種の予想以上の強さで、今は形勢が少し不利になってきているのを見て加勢をする事にした。
俺の力なら、例えあの変異種が強かろうがまるで敵ではないが、知らない相手にここで全部の実力を出して必要以上に警戒されるのも後々どうかと思い、魔法は使わず剣のみで戦う事に決めた。強さも出来るだけあの人達に合わせよう。
地面に転がってる手頃な大きさの石を二つ掴む。
一つはポケットに入れ、もう一つは手に持つ。
そして俺は大きな声を出しながら走り出した。
「俺は旅の途中の者だがあんた達に加勢するぞ! どうだ、受けるか!?」
前方の人達が俺の声を聞きこちらに振り向く。
すると、少しの時間を置いてリーダーらしき巨漢戦士が俺に向かって叫んだ。
「頼む! 一頭バトルウルフソルジャーの黒い変異種がいる。コイツは強い! 気をつけろ!」
「承知した!」
俺は手に持った石を走りながら変異種の顔付近に向けて投げる。
牽制として顔のどこかに当たればいいなとあまり期待しないで投げたが、俺の運のステータス効果なのか変異種の右目に直撃した。
これで奴の視界は半分になった。
そのまま走っていき、一番手前に居た通常種目掛けて剣を横ざまに振り抜く。
そして二頭目もその勢いで続けて斬る。
手応えはバッチリだ!
残りは変異種が一頭に通常種が二頭だな。
そのまま足を止めずに巨漢戦士と美人剣士の前方に出て変異種との間に割って入る。
後ろを振り向かず叫ぶ。
「今のうちだ! 傷ついた二人を回復してやれ!」
「わかったわ!」
後ろからふくよかおばさんの声が聞こえてきた。
「魔法使いのおっさんは通常種の足止めを頼む! 出来れば仕留めてくれ!」
「おう! 承った!」
おっさん頼もしいぜ!
その間におばさんのヒールが傷ついた二人を治療して、俺の隣に元気になった巨漢戦士と美人剣士が駆けてきた。
「加勢ありがとよ! 助かった!」
巨漢戦士が俺に礼を言う。
「気にしなくていいよ、たまたま通りかかっただけだし。で、早速だがさっきみたいにその大盾でこの変異種の攻撃を防いでくれ。その間に俺とその剣士さんが横から回り込んでコイツを仕留めよう」
「「わかった!」」
巨漢戦士と美人剣士が同時に答える。
「じゃぁいくぞ!」
俺の号令を合図に巨漢戦士が大盾を振り上げながら変異種に向かっていく。
変異種は前足で攻撃しようとするが、巨漢戦士の巧みな盾使いで思うように攻撃出来ない。
すると、さっきと同じように変異種は大きく口を空けて威圧の吠え声を上げようとした。
それを予期していた俺はポケットに入れておいた石を取り出して変異種の口を目掛けて投げる。
今にも吠えようとしていた変異種の口の中に俺の投げた石が飛び込み、奴が吠えるのを見事に邪魔した形になった。
よし! 今がチャンスだ!
俺は大盾戦士の真横から飛び出し、変異種の前足に斬りつける。
両前足が傷ついた変異種は前かがみにどっと体勢が崩れ落ちる。
あとは美人剣士さんに仕上げを譲る。
「剣士さん今だ!」
「任せて!」
俺の声に反応して美人剣士さんが剣を振りかぶり、綺麗な弧を描いた剣筋は変異種の首を刎ね落としたのだった。
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