第39話 Dランクに昇格

 ギルドの果樹園の護衛依頼を無事に完了した。

 昼過ぎにオルノバの街へ帰り、まずは領兵の分隊長と約束した屯所に行く。

 場所はすぐに判明して、屯所の前には見張り番と思われる兵が立っていたので、事情を話して屯所の中に案内してもらった。

 この屯所は一小隊が駐屯しているらしく、小隊は三つの分隊にわかれていて全体で30人程がいるそうだ。


 中に入るとこの前会った俺と同じ歳くらいの分隊長が椅子から立って俺に挨拶してきた。


「やあ、フミトさんでしたよね。この前はご協力ありがとうございました。捕らえてもらった5人組のうち、リーダーと思われる人物に指名手配と懸賞金がかかっていましたよ。なので、フミトさんには懸賞金の金貨5枚が贈呈されます。更に泥棒たちが所持していた物は、お金と貴金属以外は捕らえた者に貰える権利があります。いかがなさいますか?」


「おお、そうなんですか。お頭と呼ばれてた人物は何だか手慣れている感じがしましたので指名手配も納得です。あと、お金と貴金属以外の泥棒の所有物は俺が貰えるって本当ですか?」


「ええ、そういう事になりますね。こちらがその所有物の一覧です」


 向こうの台にはマジックバッグ、武器や防具、ポーション、生活道具などが置かれていた。


「なら、マジックバッグと武器、防具は貰っていきます。生活道具はいらないので処分してください」


 そう言って俺のマジックバッグに泥棒が所持してたマジックバッグ、武器や防具を放り込んでいく。


「わかりました。ちょっと待ってくださいね。懸賞金を持ってきますので」


 そう言って分隊長は奥の部屋から袋を持ってきた。


「はい、これが懸賞金の金貨です。本日は屯所までお越し頂きありがとうございました」


「いえ、こちらこそ。では俺はこれで失礼します」


 屯所を後にした俺は今度は冒険者ギルドに向かう。

 ギルドに到着し、一般受付のラウラさんのところに行き完了した依頼書とギルドカードを出す。


「ちょっとお待ち下さいね。えーと、この依頼には指名手配の泥棒を捕らえた追加分の功績がありますね。領兵の屯所から通達が来ています。元の依頼と合わせて指名手配の犯人と他の泥棒を捕らえた功績が加算されます。懸賞金付きの指名手配犯を捕まえると大きな功績ボーナスが付くんですよ。なのでギリギリですが、Dランク昇格の条件を満たしました」


「えっ、そうなんですか?」


「ええ、どうしますかフミトさん。Dランクに昇格しますか?」


 ──何だかトントン拍子にきてるけど、これも運の高さのおかげなのかな。


「はい、それじゃDランクに昇格ということで手続きをお願いします」


「わかりました。暫くお待ち下さいね」


 そう言って後ろの器具を操作して新しいカードを持ってきた。

 今度は青銅色のカードだ。俺の血を一滴垂らす。


「こちらがDランクのカードになります。Dランクになりますと迷宮へ入場出来るようになりますよ。あと、依頼の報酬ですが金貨2枚と大銀貨5枚になります。懸賞金が出ていた指名手配犯を除く4人の泥棒を捕らえた報奨金が金貨1枚です。合計で金貨3枚と大銀貨5枚ですね。現金で受け取りますか? それとも…」


「あっ、現金でお願いします」


 新しいカードとお金を受け取りギルドを出る。


 Dランクか、でも何だか実感が湧かないぞ。この世界の冒険者はDランクになると一人前の冒険者と言われるらしいな。


 とりあえず、一旦宿に帰ろう。

 宿に帰るとアルフさんが「お疲れさん」と労いの言葉をかけてくれた。

 アルフさんに向こう30日分の宿代を渡し、Dランクに上がった事を言ったら喜んでくれた。

 バッグからトマシュさんに貰った桃を出してお裾分けで10個ほど渡したらもっと喜んでくれた。

 そういや、俺の居ない間にソフィアがこの宿を訪ねてきたらしく、あんな綺麗なお嬢さんといつの間に知り合いになったんだい? と聞かれたが適当に誤魔化しておいた。


 ──何の用で来たんだろ?


 まあ、いっか。また用があればそのうち来るだろう。

 久しぶりに宿の風呂に入る。

 依頼中はクリーンの魔法で身体を綺麗にしてたけど、やっぱり風呂だよなぁ。

 風呂は精神的な疲れも取れるよね。

 アルフさんに頼んで早めの夕食を取る。


 注文していないワインがついてるぞ。


 アルフさんに聞いたら、さっきお裾分けした桃のお返しだってさ。


「ありがたく頂きます」


 夕食を食べ一旦部屋に戻って泥棒たちからの戦利品の整理をする。

 武器や防具は特筆するような物がなさそうなので適当にアイテムボックスに入れておき、ポーションはウエストバッグに仕舞う。

 マジックバッグが貰えたのはラッキーだったな。

 そうだ、ハンスさんの宿にゼルトさん達のパーティーが居るかどうか確認しに行こう。ここ最近暫く会ってないしな。

 それに桃もお裾分けするか。

 そう決めて部屋で準備をしていたら下からアルフさんの俺を呼ぶ声が聞こえてきた。


 二階から「なんですかー?」と言いながら階段で下に降りる。

 するとアルフさんの「お客さんだよー」の返答が帰ってきた。


 下に降りると、そこにはアルフさんの横に普段着のソフィアの姿があった。

 膝上丈のミニスカートでスラリとした長くて白い足が見えて眩しいぜ。


「やあ、ソフィア。今日はどうしたんだい?」


「やっぱりフミトこの宿に帰ってたのね。何となくわかったわ」


 ナニソレ?

 超能力か何かですか?


 俺はアルフさんにソフィアを少しだけ俺の部屋に入れていいかと断り、ソフィアの手を取って二階に連れていく。


「へー、ここがフミトの泊まってる宿の部屋なのね」


 俺は信頼されてるようでソフィア本人は気楽なもんだ。


「とりあえず、部屋の中に入って。今、お茶を入れるよ」


 ソフィアをベッドに腰掛けさせ、俺はこの前購入した紅茶葉を茶器に入れ、水魔法と火魔法を使って熱したお湯をポットに作り出し、そのお湯を茶葉の入った茶器に入れて蒸らした後、茶漉しで漉しながらカップに注いでソフィアに渡した。


「あら、手際がいいのね」


「まあね、ところで今日は何の用で来たんだい?」


「いや、別にこれといった用事はないけど最近ずっとフミトはこの宿にいなかったじゃない? どうしてるかなーって思って…えへへ」


「あー、依頼で暫くこの街を離れてたのさ。まあ、離れてたって言ってもすぐ近所だけどね」


「そうなんだー、フミトが近くに居るのか、それとも遠くに居るのか精霊のおかげであたし何となくわかるんだよね」


「なんだそれ、俺を探知するレーダーみたいだな」


「何? レーダーって?」


「ゲフンゲフン、いやこっちの話…汗」


「ふーん、変なフミト」


 俺に気を許してるソフィアがお茶のカップを台の上に置き俺のベッドに横になりゴロゴロ転がり始める。


「これがいつもフミトが寝てるベッドなんだー」


 無造作にゴロゴロ転がるからスカートが捲れてパンツが見えてるんだけど。

 でも、今それを言ってはいけない気がしたので黙っておこう。


「これがフミトの枕なのね。フミトの匂いはするかしら」と言いながら顔をうずめてる。


「いや、俺はさっきこの宿に帰ってきたばかりだし、その枕も俺が居ない間に洗濯してるだろうから匂いなんてしないはずだぞ」


「ちぇっ!」


 舌打ちするソフィアさん、何やってるんですか。


「ところでさ、ソフィア。俺はこれから出かける予定があるんだ。だから今日は申し訳ないけど帰ってくれないか?」


「えー、どこに出かけるの?」


「ああ、この街に来る時お世話になった人だよ。今からその人達が泊まってる宿まで行ってその人達が居るかどうか様子を見に行くんだ」


「ふーん、ならあたしもフミトに着いてく。いいでしょ?」


「えっ? どうしてそうなるんだよ」


「だってフミトがお世話になった人達なら悪い人じゃなさそうだしさ。フミトをこの街に誘ってくれてあたしと巡り合うきっかけになった人達に会ってみたいじゃない。だから着いてく事に決めたの!」


「まいったなぁ、本当に着いて来る気なの?」


「うん、フミトに着いていきますよー」


「はあ…まあ、いいか…」


 俺はソフィア連れてハンスさんの宿、銅の口髭亭に向かう事にした。

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