第38話 桃泥棒退治
ソフィアに言われたからじゃないけど、Dランク目指して依頼をこなそう。
バッグに入ってる手持ちの魔物を出せば一気にランクは上がるだろうけど、そういうのは出来るだけしたくない。それに、迷宮にも入っていないのにこんなにいっぱいどこで狩ってきたんだって問い詰められるのがオチだしね。
この前の孤児院の依頼はそこそこの期間の依頼だったのでポイントの蓄積も多いはずだ。コツコツと依頼をこなしていけばそのうち昇格出来るだろう。
そして、その後も何度か依頼をこなして今日も冒険者ギルドに行き依頼の品定め中だ。
いつものように依頼書が貼られている掲示板を眺める。
ソロでも出来る依頼で美味しそうなやつを探していく。
Dランクの依頼に果樹園の警備という依頼があるな。Eランクの冒険者でソロでも大丈夫そうだ。これにしようかな。
依頼書を剥がして受付に並ぶ。
「はい、次の方どうぞ」
「この依頼を受けたいのですが、これってEランクの俺でも受けられますよね?」
「ちょっと待ってください。今確認しますね………はい、大丈夫ですよ。受けられます」
「じゃあ、それでお願いします」
「わかりました。それではフミトさん、依頼頑張ってきてくださいね」
受付嬢の言葉を後にしながら受理された依頼書を持って依頼主のところに向かう。
この世界にも果物はある。
代表的なところでリンゴ、桃、ぶどうなどがそうだ。
ぶどうはワインの原料になるだけでなく、干して乾燥させた干しぶどうは旅人や冒険者の携帯食にも利用されている。
もちろん、リンゴや桃もそのまま食べるだけでなく、干してドライフルーツにすれば携帯食にもなるのでありがたい果物だ。
そこで、今日これから俺が向かうのは桃の果樹園だ。
そろそろ収穫の時期が始まるらしい。
なぜ、俺がその果樹園の警備を依頼されたかというと…
どこの世界にもこの手の連中はいるもので、果物泥棒が出るらしいのだ。
前の世界でも、せっかく丹念に育てた果物が泥棒の仕業によって根こそぎ奪われたというニュースが頻繁に報道されていたっけ。
いい大人が人の育てた物を横からかっさらって行くなんて恥ずかしい行為だよね。
で、今回の依頼はオルノバの街の近郊で果樹園を営むトマシュさんからの依頼って訳さ。
収穫を控えた桃の夜間警備を主にするのが俺の仕事だ。
こっちの世界で桃は非常に高価な果物とされていて貴族や裕福な人向けの果物なんだって。だから、泥棒に狙われやすいのだろうな。
そして、マルチマップに暗視スキル持ちの俺にうってつけじゃないか。
しかも、もし泥棒を捕らえたらボーナスも出るし、泥棒を捕らえた功績で冒険者の査定も上がるらしい。
こりゃ頑張らなくちゃな。
そうこうしてるうちに、トマシュさんの果樹園に着いたようだ。
柵の中の果樹園を見ると、たわわに実った桃が枝にいっぱい付いている。
俺もそれを見て思わず涎が出てきそうになる。
作業小屋と覚しき建物に向かうと、俺の来訪に気がついたのか中から麦わら帽のような帽子を被った初老のおっさんが出てきて警戒する目で俺を見てきた。
「誰だ? うちの果樹園に何の用だ!?」
「トマシュさんの果樹園はこちらでしょうか? 警備の依頼を冒険者ギルドで受けてやってきたフミトと言います」
俺の言葉を聞き、警戒していたトマシュさんが息を吐き出してほっとする。
「そうだとも、ここがトマシュ果樹園だ。そして私が果樹園主のトマシュだよ。依頼を受けてくれてありがとう。この時期は果物泥棒が出るので神経がピリピリしていてね。ぶっきら棒な態度をとったのを許してくれないか」
「いえいえ、お気持ちはわかります。手間ひまかけてせっかく育てた物が盗まれるのは悔しいですもんね」
「そうなんだよ。まあ、立ち話もなんだからこっちの作業小屋に来てくれ。詳しい依頼内容を説明するから」
トマシュさんに促され作業小屋の中に入り依頼書の確認を済ませて椅子に座る。
作業小屋の中にはトマシュさんの奥さんと思われる人がいて俺に挨拶をしてきた。
「家内のマルチナだ。おーい、フミト君に桃を切って出してあげてくれ」
「あいよ、おまえさん」
奥さんが切って皮を剥いた桃を持ってくる。
「今朝、枝から落ちてしまった実が何個かあったのでね。私達のおやつ代わりさ」
切られた桃を食べてみると甘くて美味しい。
そりゃ泥棒もこの桃を盗みたくなるだろうな。
「で、依頼の説明だが桃の収穫が終わるまでの10日間程の期間、君に夜間の果樹園の警備を頼みたい。果樹園の中に小さな小屋があるのでそこを寝泊まりに使ってくれ」
「わかりました」
「では、早速今夜から頼んで宜しいかな」
「勿論です、お任せ下さい」
◇◇◇
昼間は小屋の中で睡眠を取り、夜になると果樹園の巡回警備。
何度かマルチマップに複数人が深夜の果樹園に様子見目的で近づくのを確認したが、俺の姿を見て引き返したのか4日目までは泥棒は現れなかった。
そこで俺はちょっとだけ罠を張る事にした。
夜間の警備中に隠密スキルを発動して俺の存在を薄めれば泥棒も犯行に及ぶのではないかとね。
事前に追い返すだけでもいいかと思ったが、泥棒が常習犯ならここで盗まなくても他の場所が被害を受けるイタチごっこになるだけだ。
後々の事を考え、一気に泥棒共を捕まえた方が良いのではないかと判断した。
ちなみに俺の隠密スキルはLv.5に上がっているので相手が余程優れてなければ気配を察知されない。
5日目は何も起きず過ぎていった。
そして6日目の夜に待望の動きがあった。
俺のマルチマップに果樹園に近づく複数人の点が表示された。
時刻は深夜、こんな夜中に他人の果樹園の敷地に近づいてくるなんてまともな連中とは思えないよね。
俺は隠密スキルで気配を消して待ち構える。
盗む現場を確認して現行犯で捕らえれば彼らも言い逃れは出来まい。
不審な連中の人数は全部で5人のようだ。
連中もこのままでは収穫が終わってしまうと焦ったのもあるのだろう。
俺が隠密スキルで気配を消した途端に行動を始めたようだ。
ヒソヒソ声が聞こえてくる。
「お
「うむ、警備の野郎がいたみたいだが今日はその野郎の気配がしないな」
「ハハハ、収穫作業も半ばを過ぎて安心したのかもしれませんぜ」
「だが、おまえら。念には念を入れてもうちょっと気配を探ってみろ」
「「「へい」」」
泥棒たちの静かに動き回る足音と微かな息遣いがする。
「どうやら誰も居なさそうだな。よし、おまえら仕事に取りかかれ!」
お頭とやらに指示された泥棒たちが袋を何枚も持ち散らばっていく。
手慣れたものでどんどん桃を枝からもいでいく。
手持ちの袋にある程度溜まったらお頭のところに運んでいく。
おや、お頭とやらはマジックバッグ持ちなのか。
手下が持ってきた桃を袋ごとバッグに収納しているようだ。
そろそろ頃合いだと判断した俺は、丁度奴らがお頭の元に集合したタイミングを見計らって一気に詰め寄り言い放った。
「他人が丹精込めて育てた物を横から盗んでいくなんて卑怯で下劣だと思いませんか?」
いきなり現れた俺に飛び上がらんばかりに驚く泥棒たち。
「現行犯だから言い逃れは出来ませんよ」
「ちっ! 見つかっちまったもんはしょうがねえ! おまえらコイツをやっちまえ!」
何だか時代劇ドラマで見るようなノリと展開だけど現実もそうなんだな…
「仕方ありませんね。容赦はしませんよ、覚悟しなさい!」
また俺は隠密スキルを発動する。
ただでさえ深夜の闇の中なのに、連中が隠密状態の俺の姿を捉えるのは困難だ。
逆に俺の方は暗視スキルまであるので連中の姿は手に取るように見える。
難なく5人全員を捕らえ気絶させて縄で縛った。
最初にお頭、後は二人ずつ抱えて作業小屋を往復し、地面に転がしておく。
もちろん、お頭が持っていたマジックバッグと手下が持っていた桃の入った袋は回収済みだ。
深夜だがトマシュさんを呼びに行く。
起きてきたトマシュさんに事情を告げる。
「おお! 泥棒を捕らえましたか!」
「ええ、この通り気絶させて捕らえておきました。どうしますか?」
「それでは、私は夜が明けたら自警団を呼んできます。それまで監視をお願い出来ますか?」
「ええ、もちろんいいですよ」
◇◇◇
夜が明け、トマシュさんは自警団を呼びに行った。
俺は泥棒たちの監視をして連中が起きそうになったらまた気絶させた。
30分くらい経っただろうか、外から人の話し声が聞こえてきた。
自警団の到着のようだ。
俺やトマシュさんと自警団で打ち合わせをする。
自警団の一人がオルノバの街へ行って領兵の分隊を呼んできてくれるそうだ。
早速、その日の昼頃に領兵の分隊が派遣されて泥棒を護送していった。
捕まえた俺は名前を聞かれ、後で領兵の屯所まで顔を出してくれと言われた。
何でも、指名手配されてると懸賞金がかかってる場合があるので、もしかしたらお金が受け取れるかもしれないんだって。
その後、俺はしっかり収穫が終わるまで警備の仕事を全うして、トマシュさんからは大変感謝をされた上に桃をいっぱいお土産に貰うことになった。
依頼書にサインも書いてもらい、俺は久しぶりにオルノバの街へ帰還したのだった。
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