第69話 湖畔でバーベキュー
イゼル湖で湖水浴を楽しんでいる俺達。
俺的には嬉しいハプニングがあったものの、皆は思い思いに楽しんでいるようだ。
ところで、この湖では手漕ぎのボートも貸し出している。
泳ぐだけでなくボートでも湖を楽しめるようだ。
そしてほとんど波がないので、海のように波に揉まれる心配がない。
ソフィアとエミリアさんが岸に上がってきたので、二人を誘ってボートに乗ろうと提案した。せっかく、トルニアに来たのだからリゾート気分を満喫しないとな。
「ソフィア、エミリアさん。ボートが借りられるみたいだけど乗ってみるか?」
「ボート? いいわよ。あたしも漕いでみたいし」
「私もボートに乗ってみたいです」
「オッケー、じゃあ借りるね」
「なら、フミトがボートを借りに行ってる間に帽子を取ってくるね。エミリアも帽子被るでしょ?」
「そうですね。私もソフィア…さんと一緒に帽子を取ってきます」
「わかった。じゃあ俺は早速ボートを借りてくるよ」
ボートを借りる金額がいくらなのかわからないので、今のうちにアイテムボックスからお金を取り出しておく。
とりあえず、銀貨が10枚あれば足りるだろう。
俺達の借りているコテージからちょっと離れた場所に貸しボート屋さんがありそこまで歩いて行く。
「すみませーん! こちらでボート借りたいんですけど」
すると、小屋の中から人の良さそうなおっさんが出てきた。
「あいよ、時間貸しだけどいいかい? 1時間の基本料金が銀貨3枚だ」
こういうところの相場がよくわからないが、リゾート価格だからこんなものなのかな?
「わかりました。それでお願いします」
木の桟橋に何台かボートがあってその中の一台に乗り込む。
元の世界に比べて身体能力もバランス能力も大幅にアップしてるのでいきなりコケるなんてお約束の展開はないよ?
「じゃあ、いってらっしゃい」
おっさんに見送られてボートを漕ぎ出す。
元の世界でも何度かボートを漕いだ事があるので、少し濃いでいるうちにその感覚を思い出した。
「ソフィア、エミリアさんお待たせ」
ボートをコテージ前の岸に着けると、岸には麦藁で編んだ鍔付き帽子を被った二人が待っていた。二人とも麦藁帽子がよく似合ってる。
「じゃあ、フミトよろしくね」
「よろしくお願いします」
俺は二人の手を取ってボートに乗せてあげる。
そして最後に俺がボートを岸から湖面に押しながら飛び乗った。
オールを掴んで漕ぎ出すと波紋を広げながらぐんぐんと進んでいく。
最初の座り順は船首にソフィア、船尾にエミリアさん、そして真ん中でオールを漕ぐのが俺という配列だ。
俺と向き合う形のエミリアさんが、小さく握りこぶしを作りながら「ガンバレ! フミトさん」と応援してくれている。
よーし! 頑張っちゃうぞ!
一生懸命漕いだ甲斐があって沖の方まできた。
水深は2メートルを越えていると思われるが、この湖は透明度が高いので湖底がよく見える。
漕手を止めて後ろを振り返ると、ソフィアがキラキラと光る湖面を眺めていた。
俺の視線に気づいたのか、ソフィアがこっちに顔を向けて呟く。
「天気は良いし、気持ちいいわね」
「ああ、ここに来て良かったな」
「ねえ、フミト。あたしも漕いでいい?」
「いいよ、じゃあ交代しようか」
狭いボートの中で俺はソフィアと身体を入れ替える。
「前に一度漕いだ事があるんだけど上手く出来るかなぁ?」
なんか、不安しかないんですけど…エミリアさんもソフィアの向こうで不安な顔をしてるし。
「とりあえず漕いでみなよ」
俺に促されてソフィアはオールを持って漕ぎ出した。
ボートは一応は進んでるんだけど、同じところをぐるぐる回ってないか?
「あのさぁ、さっきから同じとこぐるぐる回ってるんだけど」
「えっ、そうなの?」
「このままだと埒が明かないから俺が一緒に手伝ってやるよ」
船首に座っていた俺はオールを持つソフィアのすぐ後ろに移動して、後ろからソフィアを抱え込むようにして座り、身体をぴったりと密着させる。
オールを持つソフィアの手に俺の手を被せて一緒に全身を動かしてオールを漕いであげる。こういうのは一定のリズムでオールを動かすのが効率がいいんだよね。
「はぁ…はぁ」
力を入れて漕いでいるのはほとんど俺なのに、ソフィアの方が息が荒くなってるがどういう訳だろう?
「なっ、こんな風に漕げば左右のオールに均等に力が加わって真っ直ぐ進むんだよ」
「…………」
「どうしたんだ? 返事がないけど…」
「フミトさんとぴったりとくっついて羨ましいです!」
エミリアさんが声を出して羨ましいとか言ってるんだが? どういう事かな。
まあ、いいか。俺はソフィアから身体を離して船首に戻る。
ソフィアは一瞬放心状態だったけど、やっと復活したみたいだ。
オールを漕ぎ出したけどさっきより上手くなってるぞ!
その後、もう一度俺に漕手を変わって湖のボート探検も終わりを迎えた。
岸に二人を降ろし、俺は貸しボート屋さんにボートを返しに行く。
「お疲れさん、また利用してくれよ」
コテージに戻るとクロードさんも戻っておりソフィアとエミリアさんと共に俺を迎えてくれた。
デッキチェアにはトランさんとポーラさん、そしてリーザさんが座っていて、リーザさんは背もたれにもたれてうとうと眠ってる。
さて、天気も良いしバーベキューっぽい事でもやっちゃおうかな。
「皆、泳いだりして少しお腹も減ってきてると思うので、少し肉や野菜を焼きますね」
俺はそう言うと、コテージの中に入り、マジックバッグを取ってきて鉄板と金網、そして味付け済みの食材を取り出す。
石組みの
何かやり始めたという雰囲気や食材を焼く匂いに釣られたのか、ゼルトさん、アーノルドさん、シルベスタさんもポージングを中止してこちらに向かってきた。
リーザさんも匂いで起きたのか、目を擦りながらこちらにやってきた
「おっ、フミト。何やら美味しそうな匂いがするな」
「ポージングも結構疲れるから小腹が空いたところだよ」
「肉肉野菜肉野菜!」
シルベスタさん。何だよその訳のわからない呪文みたいなやつは…
もう食べられるくらいに焼けてきたので、「どうぞ食べていいですよ」と勧めると、ムキムキ筋肉マン達は肉を美味しそうに食べ始めた。
「この肉が俺の筋肉になるんだ」とか言いながら食べてるよ。
女性陣はリーザさんを除いて野菜がメインだな。
味付けは塩胡椒だが、肉の質が良いのか肉汁たっぷりで旨味十分。熱々の肉をハフハフ言いながら食べる。野菜も旨味と共に甘みがあって美味しい。
鉄板焼と網焼きの食べ比べもしながらどんどん焼いていく。
宿に届けてもらった飲み物はエールとワインだ。
エールは冷えているので焼けた熱い肉を食べながら飲むと最高の気分になる。
肉や野菜は大量に用意したが、見る見るうちに減っていく。焼いてる俺も必死だよ。それも落ち着いてくると皆で飲みながらワイワイと楽しい時間が過ぎていく。
異世界に来た当初はこんな楽しい時間が過ごせるなんて思ってなかったから嬉しい。今日は楽しい一日だった。
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