第70話 オルノバへの帰還

 トルニアでのちょっとした休暇を過ごした俺達は再びレノマさんの護衛でオルノバの街に戻る日を迎えた。


「トルニアでの休暇楽しかったわね。あたし泳ぐのが上手くなったような気がするわ。温泉も良かったし、また訪れたいわ」


 ソフィアはとても満足そうだ。


「私も最初は上手く泳げなかったのですけど、フミトさんやクロードさんに教えて貰って泳げるようになりました。私もまたここに来たいです!」


 エミリアさん、余程良かったのか両手の拳を握りしめてぴょんぴょん跳ねてるぞ。


「私は湯めぐりが出来て大満足でしたな。木札を買うと他の宿の温泉や公共の温泉も巡る事が出来るのですよ。露天風呂で飲むお酒は乙なものでした」


 クロードさんは湯めぐりが出来たので大満足のようだ。

 てか、そんなシステムがあったのか。俺も利用すれば良かったな。


「あたしは温泉に入って肌がツルツルのピチピチになったぞ! お肌の曲がり角なんて絶対に言わせないからな! もし、あたしにそんな事を言ったら殺す!」


 リーザさんは鼻息を荒くしながら物騒な事を言わないでくださいよ。

 本当に殺されそうなんですけど。


「僕も温泉は大満足だったね。また来たいものだ」

「おほほ、私は温泉のおかげで寿命が10年は伸びた気がするわ」


 トランさんも温泉に満足したようで何よりだ。

 ポーラさん、10年だけでなくもっと伸ばしましょうよ!


「俺の筋肉も温泉に入って喜んでたぞ」


 ゼルトさん、何で筋肉なんだよ?

 てか、筋肉って温泉に入ると喜ぶのか?


「皆、僕の領地のトルニアの街を満喫してくれたようでとても嬉しいよ。また機会があったら訪れてくれ」


 レノマさんも皆が満足してくれたのが嬉しそうだ。

 顔が綻んでるぞ。


「じゃあ、再びオルノバの街に向けて出発だ。皆よろしく頼むよ」


「「「「「おう!」」」」」


 俺達一行は再びオルノバの街へ戻る為にトルニアの街を後にした。

 本当に良い街だったな。俺もまた再び訪れたい気持ちでいっぱいだ。

 さよならトルニア、また来る日まで。


 ◇◇◇


「オルノバの街が見えてきたぞー」


 先頭の幌馬車からゼルトさんの大声が聞こえてきた。

 オルノバへの帰路はこれといったトラブルもなく、往路の時のように襲撃されるような事もなく順調な旅路だった。


「住んでいる街が見えてくると安心しますね」


 エミリアさんの言葉はここに居る人の気持を代弁してるかのようだ。


「本当ね。トルニアの街に滞在してた時はこのままずっとトルニアに居てもいいかなって気持ちもあったけど、いざオルノバの街が見えてくるとあたしの心も安堵の気持ちでいっぱいだわ」


「フミト殿、もうすぐオルノバに到着しますが、今回のトルニアへの護衛依頼に誘って頂いた事を感謝致しますぞ」


 ようやく依頼も終わりだね。


 そして、無事に俺達の一行はオルノバの街に到着した。


「皆、お疲れさん。この旅では色々とあったけど君達のおかげで無事にオルノバへ戻ってくる事が出来た。君達に心から感謝したい」


 レノマさんの挨拶で一行は解散となった。

 アーノルドさんとシルベスタさんとも握手をして別れる。

 レノマさんの屋敷前で依頼任務を終えた俺達はゼルトさんが代表してレノマさんがサインした依頼書を受け取りギルドに向かい手続きを済ませた。

 ギルドポイントは稼げたようだが、Cランクに上がるにはもうちょっと必要らしい。


 ギルドを後にした俺達もその場で解散が決まり、それぞれの屋敷や宿に帰って行く。


「フミト、またな」

「寂しくなったらいつでもあたしのところにおいで」

「フミト君、お疲れさん」

「おほほ、フミト君またね」


 ゼルトさん達と別れて次はソフィア達と解散の挨拶だ。


「フミト、またね」

「フミト殿、私達はこちらの道なのでここでお別れですな」

「フミトさん、また誘ってくださいね」


 ソフィア達とも別れて、俺は自分の宿に向かって歩いていく。この曲がり角を曲がればアルフさんの銅の帽子亭だ。

 角を曲がると、向こうから女の子が顔を左右にキョロキョロしながら前を見ずに歩いてきていて、俺と出会い頭にぶつかってしまった。


「あっ、ごめんなさい」


 俺の胸に頭をぶつけた女の子が謝ってきた。背の高さはエミリアさんと同じくらいかな。瞳の色は黄金色で銀色のロングヘアーにキリッとした眉と相まってとてもエキゾチックな印象を受ける。


「いや、俺の方こそもうすぐ宿に着くので安心のあまり油断してたからごめんね」


「いえ、よそ見してた私が悪いんです。ごめんなさい」


「じゃあ、お互いが悪いって事にしておこうよ。ところで、君はキョロキョロしながら歩いていたけど何か探してるの?」


「それが、買い物に行ったのですけど、道に迷って自分の泊まってる宿に帰れなくなっちゃって…」


「なるほど、だからキョロキョロしながら歩いてたのか」


「私、たまに道に迷ってしまうんですよ」


「ちなみに君の泊まっている宿の名前は何ていうのかな? もし、君さえ良ければ俺がそこまで連れて行ってあげるよ」


「本当ですか、ありがとうございます! 私の泊まってる宿は銅の耳飾り亭という名前の宿です。わかりますか?」


 銅の耳飾り亭か。マルチマップで確認してみると、ここから500メートルくらい離れた場所にあるな。確かに彼女は少し方向音痴気味のようだ。


「その宿ならここから500メートルくらい離れた場所にあるよ。じゃあ、俺が案内するから一緒に行こう」


「良かった、どうしようかと思ってたので本当に助かります! それと、あの…お名前を聞いてもいいですか?」


「ああ、俺の名前はフミト。歳は25歳でどこにでも居るようなDランクの冒険者さ」


「フミトさんって言うんですね。私の名前はサラって言います。アモーレ劇団という旅劇団に所属しているんです。私達の劇団は今オルノバの街で公演中なんですよ。今日は劇がお休みの日なので一人で買い物に行ったんです。そうしたら帰り道で迷っちゃって…」


 旅劇団で公演中?

 もしかしてソフィアが俺に話してくれた公演中の旅劇団かな。


「この街の劇場で公演中の劇団ですか? 親しい友人に誘われたので観に行く予定だったんですよ」


「ありがとうございます! 是非観に来て下さい。私も出演してるんですよ。フミトさんが観に来てくれるのなら大歓迎です。ふふ…私がどの役で出演してるのか見つけてくださいね!」


「ええ、必ず観に行きますよ。今から楽しみにしています」


 サラさんと二人で話しながら歩いていると目的地の銅の耳飾り亭が見えてきた。

 目的の宿に到着して、サラさんに「じゃあ、俺はこれで」といって立ち去ろうとすると、サラさんが送って貰ったお礼にお茶をごちそうしますと言うので、そこまではいいですよと断ろうとしたのだが、宿の玄関で俺の手を引っ張るサラさんの姿を見かけた劇団の座長がサラさんから事の成り行きを聞き、せっかくだから私からもお願いしますと懇願されたのでお茶をご馳走になる羽目になった。


「道に迷っていたサラを助けて頂きありがとうございます。私はアモーレ劇団の座長ルーベンと申します」


「俺はフミトと言います。たまたまこの宿を知っていて道案内をしてあげただけですので礼には及びませんよ」


「親切なだけでなく謙虚でもいらっしゃる。フミト殿は素晴らしい青年ですな」


「いや、そんな事を言われると逆に恥ずかしいですからやめてくださいよ…汗」


「ははは、わかりました。もうやめましょう」


「俺、アモーレ劇団の劇を観に行く予定なので今からとても楽しみです」


「それはそれは。もし劇場に来たならば劇が終わった後に是非とも楽屋にお越しください。歓迎いたしますので」


「ええ、是非そうさせていただきますね」


 お茶を飲みながら暫く歓談して俺は銅の耳飾り亭を後にする。

 道に迷ったサラさんを送り届けたのが縁で、劇団の座長とも知り合う事が出来た。

 袖振り合うも多生の縁っていう言葉もあるし、出会いは大切にしないとな。


 そんな事を考えながら定宿にしている銅の帽子亭を目指して歩く俺であった。

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