第13話 俺死んだかも

 岩場で魔法の訓練をしていたら凄く強そうな魔物が現れた。

 今、俺はそいつと100メートル程の距離を離れて対峙してる。

 その魔物の名はアンデッドの『リッチ』

 今までで最大の強敵だ!


 もう一度そいつを見る。

 横顔が見える。

 ローブのフードから見えるのは骸骨の頭だ。

 目は窪み、中は黒く濁りその中に赤い目が揺らめいている。


 リッチは火と風の魔法耐性まで持っていやがる。厄介だな。


 とりあえず、作戦を立てる。

 奴は魔法に秀でているが、剣や格闘には向いていないと予測。

 魔法をフェイントにしながら剣で勝負をかけるしかないな。

 神様の加護を受けてる剣ならアンデッドにも効果があるだろうし。


 俺がリッチに気づかれるのも時間の問題だ。


 よし、先手必勝だ!


 俺は《並列思考》を駆使して魔法を二つ放つ。

 最初に届くのは火魔法のファイアランスの三連射だ!

 リッチは俺の攻撃に気づいた。

 これはリッチに火魔法耐性があるので効果は見込んでいない。

 もう一つの魔法は氷魔法のアイスニードルだ。

 リッチがファイアランスに対処した隙に後から奴の目を狙って視界を奪う作戦だ。

 その間に俺は全速力で移動してリッチに剣で斬りつける。


 だが、リッチはファイアランスの攻撃を俺よりレベルが上回る火魔法で打ち消すだけでなく、まるで目を狙う俺の攻撃を予測していたかのように杖でアイスニードルを弾いたのだ。


「やるじゃないか!」


 途中まで全速力で奴に向かって移動していた俺は当初の目論見が外れ急遽進路を変えて全速力で奴のそばを通り過ぎる。


 ここで俺のスキル、進化した《マルチマップ》が便利なのは、半径50メートル以内なら背中や上空など俺の死角になる部分を立体的に投影して死角を無くしてくれるのだ。

 奴に背後から攻撃される前に、後ろを振り返らずに奴に向かって牽制の魔法を放つ。


 奴は思った以上に勘が良さそうだな…


 ある程度距離を取り、素早く振り返ってみるとリッチがなにやら魔法を詠唱してる姿が見えた。

 咄嗟に俺は身構える。


「うっ!」


 いきなり俺の意識がなくなった。


『…………』


 暫く時間が流れる。


 そして突然意識が戻ってきた。


 その間はどれくらいの時間だったろう。

 だが、俺は確実に奴の何らかの攻撃で意識を失っていたのだ。

 俺の頬に冷や汗が流れる。


 リッチは訝しげに頭を捻った素振りを見せていたが、もう一度魔法を放ってくる。

 だけど、今度は何も起こらない。


 その魔法を諦めたのか、リッチは違う魔法の詠唱を始めたようだ。


 ところで、奴の魔法の詠唱は何語なんだろうか? 聴き取れないな。


 すると、リッチの周りに骸骨姿の魔物、剣を持つスケルトンが10体に馬に騎乗した首のない騎士が2体出現した。


 奴はアンデッドを召喚出来るのかよ!


 1対13

 形勢が一気に不利になる。


 とりあえず、奴の盾になってるスケルトンを一気に殲滅したいな。


 おそらく、スケルトンは首を刎ねるか頭を破壊すれば倒れる。

 見たところ、スケルトンは魔法耐性を持っていないようだ。


 スケルトン軍団が剣を構えながら迫ってくる。

 その陰からリッチが魔法を撃ってくるがこれは躱す。

 俺は奴の魔法攻撃を躱しながらスケルトン軍団の身長などを確認しながら反撃の魔法を放つ。

 土魔法の落とし穴だ。

 スケルトンの足元の地面がいきなりなくなりスケルトンは穴に落ちる。

 丁度、頭だけが地面から上に出るサイズの深さだ。

 時間差で巨大なストーンアローを穴に落ちたスケルトンの頭蓋骨目掛けて連続して放つ。

 次々とスケルトンの頭が破壊されて吹き飛んでいく。

 作戦は成功だ!


 だが、その隙に首のない騎士が左右から俺に向かってすごい速さで回り込んで来て同時に槍を突き出してきた。

 咄嗟に1体の攻撃は躱したが、もう1体の首なし騎士の槍が俺の身体にぶち当たる。

 当たった瞬間に後方に飛び退って威力を抑えたが吹き飛ばされてしまった。


 体勢を立て直し、槍が当たった革鎧を確認すると少しへこんでいる。だが、あのスピードの槍の直撃を受けて破けもせず少しのへこみだけで済むなんてどんだけ高性能の鎧なんだよ?


 しかも、そのへこみもみるみるうちに修復されて元通りになっている。


 おっと、感心している場合じゃないな。スケルトンは片付けたが、あの首なし騎士をどうにかしないと。人馬一体タイプの魔物とは今まで戦っていなかったので馬上からの槍の攻撃は脅威だ。だが、初見で少し慌ててしまったが次はそうはいかないぞ。


 まず、馬の足を止めて機動力を封じよう。


 首なし騎士も体勢を立て直し、また俺に向かって突撃してきた。そのタイミングで俺は土魔法を使い逆茂木のように地面から土の杭を出現させる。


 勢いのついていた馬はその杭に真正面から突っ込んで突き刺さる。これで馬の動きは封じた。後は馬上の首なし騎士だけだ。首がないから心臓を狙えばいいだろう。


 片方の騎士には巨大なファイアランスを高速で飛ばし、もう片方の騎士には直接俺が心臓に剣を叩き込む!


 ファイアランスが直撃した騎士は体を仰け反らせる。追撃とばかりに連続してファイアランスを叩き込む。魔法耐性みたいなものがあったようだが、俺の魔法はその威力の強さで上回り、続けざまに着弾したファイアランスが首なしの騎士を爆散させた。そして俺が剣で心臓を突いた騎士も持っていた槍を落としながら倒れていった。倒れた騎士にも念の為にファイアランスを叩き込んでおく。


 マルチマップの反応が無くなったので完全に仕留めたようだ。


 そして間髪を入れずにリッチに向かって全速力で走り剣を突き刺す!

 だが、リッチは間一髪で自分の前方にスキルの障壁を張ったようで、その障壁に剣が弾かれた。


「くそっ! もう少しだったのにな!」


 奴に魔法の詠唱時間を与えないように剣で攻撃を加えていく。

 だが、奴の正面と横には障壁が張られていて剣が弾かれる。

 魔力反応を見ると、奴の前面には障壁があるが、後ろは張られていないようだ。

 たぶん、そういう仕様のスキルなのだろう。

 何とか後ろ側から攻撃出来ないかと手を尽くすが、奴もそこはわかっているようでなかなか隙を見せない。

 一旦距離を空けて考える。

 奴はその間も強烈な魔法を放ってくるが、加護の腕輪の盾を展開してその攻撃を防ぐ。


 奴に察知されない方法で後ろに回りこめたら一気に勝負がつけられるのにな…


 すると、俺は無魔法とやらを獲得したようだ。


 使える魔法は《瞬間移動》だ。


 なになに、途中に障害物があっても通り抜けて目標の場所に瞬間移動出来る。移動範囲は50メートル以内。


 よし、リッチよ勝負だ!


 牽制の魔法を連続して放ち、俺も奴の真正面に向かって走っていく。

 当然、奴は俺がまた性懲りもなく正面から剣を振ってくると思ってるだろう。

 奴と俺との間隔があと20メートル程になった時、俺は奴の後ろすぐの場所をイメージして瞬間移動の魔法を使った。奴の目の前から忽然と消える俺。


「おい! ここだっ!」


 そう、リッチの後ろで叫びながら俺はその後頭部に向けて剣を突き出していた。

 振り向く暇もなく頭を神聖属性の神様の加護の剣で破壊されたリッチはその場に崩れ落ちる。


 今まで会った中で、この森最大の敵との長い戦いの決着がついた瞬間だった。


 戦闘が終わり、ただの骨になったリッチとスケルトン、骸となった首なし騎士を見下ろす。


「この骨も素材になるのかな?」


 相変わらず戦いが終わるとそんな事を考えてる俺だった。


 ところで、リッチの魔法でいきなり意識を失ったのは何だったのだろう?

 ステータスやスキルを確認してみる。

 すると、《即死無効》のスキルが付いていた。


「えっ! ならそのスキルが付く前の一度目の攻撃で意識がなくなった時はどうなったんだ?」


 装備などを確認するが思い当たるような付与も恩寵もない。


「あっ、そうだ。この指輪の鑑定をしていなかったな」


 いかにも平凡に見えた指輪だったので、わざわざ鑑定するまでもないかとほとんど忘れていた存在だ。


『鑑定結果』

〈品名:指輪〉4/5

〈名前:神の加護が与えられた復活の指輪〉

〈材質:オリハルコン合金〉

〈付与:復元復活〉

 ◆見た目は平凡な指輪だが、神の加護が与えられ五回までは死んでも身体が復元復活出来る。鑑定では普通の指輪と表示される。



「うわー、何か凄い指輪なんだけど。回数が一回分減ってるのはリッチから即死魔法攻撃を受けたからか?」


 危なかったです、ハイ。


 ところで、何でアンデッドのリッチがこの森に居たのだろうか?

 過去に大魔法使いがこの森で迷って出られなくなり死を選んだのかな…

 まあ、誰も答えてくれないだろうが。


 よし、さすがに少し疲れたから拠点に戻ろう。

 骨の残骸や魔石、アイテムを収納した俺は拠点への家路につくのだった。

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