第29話 ランクアップ

 依頼が終わってようやくオルノバの街まで帰ってきた。

 東門でギルドカードを提示して街の中へ入っていく。

 ハーゲンさんには荷車は夕方に返せばいいと言われたので、もうちょい時間に余裕がありそうだ。


 早速、ギルドに向かい麻袋を担いで中に入り、一旦査定所のおじさんギルド職員に麻袋をカウンターの隅に置かしてもらう許可を得て一般受付の方に行って並ぶ。

 ラウラさんのいる受付の列だ。


 気配を普通にしてるからか、何となく俺に対して視線を感じるけど、黒髪が珍しいのかな? 遠くでフードを目深に被った人もチラッとこっちを見てるし。


 俺の順番が来て受付に呼ばれる。

 椅子に座り、完了した依頼書をカードと一緒に出す。


「担当のラウラです。依頼書を確認しますね。確かに依頼は完了されました。フミトさんお疲れさまでした。報酬は現金にしますか? それともカードに預けられますか?」


「えーと、カードに預け入れで」


「わかりました。暫くお待ち下さい」


 そう言って後ろの器具で操作する。


「報酬は大銀貨2枚です。あとカードをお返ししますね」


 カードを受け取り受付を後にする。


「さて、次は薬草と魔物素材の買取だな」


 査定所の受付に行き声をかける。

 奥からさっき声をかけたおじさんが歩いてきた。


「はいよ、素材の買取かい?」


 俺は頷きながら「そうです、薬草と魔物の素材を買い取って欲しいのですが」と言いながらギルドカードと一緒に麻袋をおじさんの前に置く。


「じゃあ、拝見するね」と言いながら査定おじさんが袋の中身を確認していく。

 後ろにある秤で重さも確かめてるな。


「こっちの麻袋の中身は常時受け付けのハピア草が30株とダクシ草だね。採取の仕方も綺麗だし問題ないね」

「えーと、こっちの麻袋の中身は……おっ! スピアサーペントじゃないか。それも5匹分だ。凄いな、君が一人で仕留めたのかい? あと、これはどこに居たんだい?」


「はい、薬草を探しながら歩いていたら偶然出くわしたもので…東門を出た街道沿いの山の中腹にいました」


「そうか、あの辺りはたまにこの魔物が発生するんだよね。午後になると活動しだして街道に降りてきては旅人を襲うので常時討伐対象になってるんだ。レベルの割には素早い攻撃と鋭利な尻尾、そして猛毒持ちだからこの魔物が複数いると時にはCランク指定になる事もある。いやあ、君凄いね」


 あっ、これって目立っちゃうパターン? マズイな。


「いやあ、たまたまですよー。何か動きがとても遅かったのでまだ起きたばかりだったんじゃないすかね…汗」


「そうか。うん、やっぱりそうだろうねー。でも討伐してくれて助かったよ。ちょっと待っててね。薬草の買取と一緒に査定するから」


 そう言っておじさんは査定していく。

 そして査定が終わったのか俺に聞いてくる。


「どうする、現金で受け取るかい? カードに預けるかい?」


 どうしようかなと一瞬考えたが「じゃあ、現金でお願いします」


「現金だね、ちょっと待ってね」そう言って金庫に向かい中からお金を取り出すと袋に入れて持ってきた。


「えーと、ハピア草が銀貨15枚、ダクシ草は銀貨10枚。そしてスピアサーペントだが、魔石を含めて一匹金貨2枚、5匹だから金貨10枚、つまり大金貨1枚だな。スピアサーペントは皮が高級バッグやベルトの素材になるからねえ。合計で大金貨1枚と銀貨25枚だ。もしあれなら大金貨1枚を金貨10枚に崩してもいいけどどうする?」


「あっ、じゃあ金貨10枚に変えて下さい」


 配達依頼を受けたおかげで何だか凄い収入になってしまった。


「あとね、このスピアサーペントの討伐で君のギルドランクがFからEに上がる事になる。ギルドランクの昇格を本人が受けるか受けないかは君達冒険者の任意だ。つまりEランクへの昇格を受けないという選択肢もあるって事さ」


「そういう事も出来るんですか?」


「なぜかというと、そのままのランクで良いという人がたまにいるからだ。例を上げると、CランクからBランクに昇格すると貴族からの指名依頼やギルドからの指名討伐などが出てくるからだ。あと、Bランク以上は貴族に準じる名誉を国から貰える代わりに国の管理名簿に載る事になる。そういうのをやりたがらない人はBランク以上に上がれる力があっても昇格せずにCランクに留まるんだよ。だけど、ギルドも名目上Cランクにいる強者を把握してるので裏ではこっそり討伐依頼を交渉してるけどね。ただ、冒険者になる人は往々にして名誉欲や出世欲が強い。Bランク以上になると報酬もグンとアップするし、各国にその名が知れ渡る。だからほとんどの人が昇格するけどね。ただ、傍若無人な高ランク冒険者を生み出さないように予防措置としてBランク以上に上がるにはギルドの厳しい審査もある。無謀で力だけがある冒険者を昇格させると災いや諍いの元になるしね。ギルドから何度忠告しても無謀で手に負えないような冒険者はどんなランクでも盗賊と同じように討伐の対象になるケースもあるよ」


「冒険者も討伐の対象になるんですか?」


「勿論そうさ。一般庶民に比べて冒険者は力も強いし戦闘力も桁外れだ。だからこそ、優遇される代償としてその力を悪用しないように、忠告を聞かない者には厳しく対処することになっている。力のある冒険者が街中で暴れるだけでも周囲に大きな被害が出るからね。冒険者にはそういうモラルも求められるんだよ」


「確かにその通りですね。俺もそうならないように気をつけます」


 ラノベ的感覚だと街中でたまに荒くれ者の冒険者がヒャッハーしてるのもお約束であるのかと思っていたが、現実的に考えるとそんな人が居たら困るのは同じ冒険者だもんな。街の人達からの信用を失えば、自分達がお金を稼ぐ手段の依頼自体がなくなってしまう。ラノベ知識と現実は少し違うようだ。


 とりあえず冒険者ランクのシステムは何となく理解した。出来ればCランクまでは進んでおいて後は考えておこう。


「わかりました。じゃあEランク昇格の手続きをお願いします」


「了解したよ、それじゃギルドカードをちょっと預かるね」


 おじさんが後ろの器具を操作して新しいカードを持ってきた。

 同じ鉄色のカードだが今度は周りに赤い縁取りがされている。

 俺の血を一滴垂らしてカードに登録する。


「はい、これから君はEランクの冒険者だ。冒険者はレベルが上がるごとに力も影響力も大きくなる。力を得て傲慢な考えを持つような人も出てくる。たまにいるんだけど君は絶対にそんな冒険者にはならないでね」


「しっかりと肝に銘じておきます」


 おじさんから新しいギルドカードを受け取り、お金の入った袋を持ってギルドを後にする。


 さて、ハーゲンさんのところに荷車を返しに行かないと。


 ギルドを出て荷車を曳きハーゲンさんの鍛冶屋に向う。

 鍛冶屋の前に着き、ドアをノックしてハーゲンさんを呼ぶ。

 中から「ちょっと待っとくれ」とハーゲンさんの声がして扉が開けられる。


「アルベルトさんへの配達が終わりましたので荷車を返しに来ました」


「おー、そうかそうか。ご苦労じゃったな。アルベルトは元気じゃったか?」


「はい、とても元気そうでしたよ」


「そうか、ところでおまえさんアルベルトに野菜ジュースを飲まされたか?」


「飲まされましたよ。もう苦いの何のって!」


「ガハハ! やっぱり飲まされたか! あれは苦くてわしも苦手じゃ!」


 どうやら、あの野菜ジュースはアルベルトさんの好意がこもった洗礼のようだ。


「じゃあ、俺はそろそろ行きますね」


「おう、また機会があったらよろしくな」


「はい」


 荷車を返し、今日の依頼は全て完了した。

 さてこれからどうしようか。

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