第5話 食べて確認
装備を身に着け建物の外に出る。
ふと空を見上げると太陽の位置はかなり傾いている。
ズボンのポケットから腕時計を取り出し時間を確認する。
針は午後の8時20分を指している。
この世界に来て意識が戻ってから時間にして二時間くらい経ったからなぁ。
こっちでいうところの夕方に徐々に近づきつつあるのだろう。
たぶんこっちの時間では午後の3時くらいだろうか。
太陽の方向から推察すると、建物の正面が南、裏手側が北、右側が東、左側が西だろう。
まだ、周囲の状況も把握していないし、いきなり遠くへ行くのは何があるかわからないし危険なので、まずは敷地の端から300メートルくらいを目安にしてぐるっと一周しながら辺りを調べてみよう。
最初にこの世界に来て意識が戻った南側の方から時計回りに西→北→東→南の順に回ってみるか。
俺は部屋の扉を開け外に足を踏み出す。
南に向かって歩いていくと敷地の外へ出て森の中を歩いていく。
敷地の外に一歩でも出ると、振り返っても森の風景になり建物は見えなくなるのだが、なぜか俺は建物の位置を認識出来るようだ。
地面を眺めながら歩き、群生している草を膝を曲げかがみ込んで観察する。
──この草、どことなくオオバコに似てる。
食用になるのか今はすぐ判断出来ないが持って帰ろう。
せっせと摘んでマジックバッグの中に入れていく。
半分程摘んで立ち上がる。
──こんなもんかな。
歩きながら目星をつけた草を次々に採取していく。
そうやって採取しながら西の方向に進んでいたらキノコを見つけた。
木の根元にマイタケに似たキノコを発見。これも当然採取していく。
倒木の枯れ木にもヒラタケのようなキノコを見つけ採取していく。
他にも何種類かきのこを見つけ、マジックバッグの中に入れていく。
採取しながら北側の方向に歩いていくと、かすかに水音のような音が聞こえてきた。
──もしかしたら近くに川が流れてるのかもな。
期待に胸を弾ませ水音を頼りに北に向かって歩いていく。
そして、敷地の端から200メートル程の場所に西から東へ流れる川を発見した。
川幅は5メートルくらい、水は透き通っていて底まで余裕で見える。
「良かった!」
水場を見つけた事で安堵した俺は素直な気持ちを言葉にして出した。
川を観察してみる。
流れの速さは普通、川底もそんなに深くはなさそうだ。
普通に基礎ステータスでジャンプすれば渡れそうなので向こう岸との通行が遮断される心配はないだろう。
倒木を橋として渡す手もあるな。
川べりにしゃがんで手で水を掬う。冷たくて手がひんやりする。
匂いを嗅いでみるが無臭だ。
試しに飲んでみる。
「旨い!」
これなら飲料にも食用にも使えそうだ。
早速、水筒を出し川の中に沈め水を入れていく。
この水筒も見かけの大きさよりも容量がかなり大きいな。
暫くの時間、川の水を水筒に入れてるとようやく満タンになったようだ。
もしかしたら500リットルくらい入ってるんじゃないか。
だが、持ち上げてみると水筒は軽いままだ。
どうやら水筒も異世界的な不思議便利グッズだったようだ。
その後、東側そして南側までぐるっと回りながら落ちている枯れ枝や倒木を含め採取や観察を続け、俺は拠点に戻る事にした。
拠点に戻り、自分の部屋の扉を開け中に入る。
この部屋は明かり取りの窓があるので夕方とはいえまだ部屋の中は明るい。
部屋が暗くなる前に採取や拾ってきたものを床に取り出す。
草が10種類くらい、キノコが8種類くらい。
そして枯れ枝や倒木は燃料用に拾ってきたものだ。(今は火を起こす手段はないが)
とりあえず、草やキノコは食用になるかどうか確認しないとな。
ナイフ以外の装備を外し棚に置き、水魔法のウォーターを心の中で唱え草やキノコを水洗いしていく。
一通り洗い終わったので、各材料をほんの少しだけ口に含んで実験していく。
まずは1つ目の草だ。
葉を少しだけ千切って口の中に入れる。
少し噛んでみる。
暫く時間が経過したが大丈夫そうだ。
次々と同じ作業を繰り返していく。
そして8種類目の草の時だった
苦い! と、思ったら身体が痺れてきた。
──これはヤバい!
焦った俺は口の中の草をペッと吐き出した。
まだ身体の痺れは続いている。
すると、例の頭の中に知識が舞い降りた感覚がして痺れが治まった。
ステータスを確認してみると麻痺耐性を獲得していた。
「ふぅー、危なかった」
気を取り直して次の草の確認だ。
口に含んで少し齧ってみる。
暫くしても何の変化もない。
これは大丈夫そうだ。
次の草も大丈夫だった。
10種類の草のうち、1種類だけが危ない草だったようだ。
さて、次はキノコの番だ。
最初にマイタケのようなものを手に取り、手で千切って欠片を口の中に入れる。
齧ってみるが暫くしても何の変化もない。
「良かった、これは食用として食べたかったんだよな」
草と同じように少しだけ齧りながら調べていく。
7種類目まで大丈夫だったので、これは全種類食用にいけそうだなと油断してたら最後のきのこを齧った後に胸が苦しくなった。
──これもヤバい。
胸を押さえながら苦しんでると、例の感覚が来てスキルを取得した。
それは毒耐性だった。
草ときのこの食用実験を経て食用とそうでないものの分別は終了だ。
毒や痺れのある草やキノコも何かに使えるかもしれないので捨てずにストックしておく。
実験が終わってふと部屋を見渡すと部屋の中がかなり暗くなってきていた。
文明の暮らしに慣れた現代人の俺は、灯りの重要さをひしひしと感じる。
自分の部屋ならスイッチを入れれば電灯が灯り、部屋の中を明るくしてくれるのだがここではそうはいかない。
「やっぱり灯りがないと不便だな」
そう呟いたらあの感覚が来てどうやら新しい魔法を獲得したようだ。
《生活魔法》という魔法らしい。
更新された知識では、ライトとクリーンという魔法が使えるみたいだ。
早速、ライトを使ってみる。
心の中で「ライト」と唱えると頭上にテニスボール程の大きさの光の球が現れた。
大きさや明るさも調整出来るようだ。
ちょっと明るすぎるので光量を絞ってみる。
間接照明みたいに調整がきくのは便利だな。
これで夜の灯りの問題は解決出来そうだ。
もう一つの生活魔法、クリーンも試してみる。
これはクリーンの魔法をかけると身体の汚れや服や装備の汚れを落として綺麗で清潔にしてくれる魔法のようだ。
今のところ、風呂のない生活になりそうなのでこれはありがたい。
さて、次は飯をどうするかだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます