第6話 野草の直接食い

「えーと、こちらの世界に来てからかなりの時間が経ったな」


 さすがに腹が減った。

 集めてきた素材(草やキノコ)を目の前にして、さてどうしようかと考える。


 とりあえず、生で食べるしかないか…


 そういえば、俺は元の世界で帰宅中にスーパーに寄って塩や醤油を買ったんだっけ。

 ゴタゴタ続きですっかり忘れてたよ。

 棚のところまで歩いて行き、リュックを持ち上げて取り出す。

 その場にドカリと座り、中の物を取り出していく。


 1キロ入りの塩が三袋。

 砂糖が二袋。

 1リットル入りのペットボトル醤油。

 そして1キロの胡椒だ。


 これらは貴重な調味料というだけでなく、塩は水と同じように命の生命線でもある。人間の身体には水と塩分がなくてはならない大事な要素だもんな。


 本当にあった史実かどうかは別にして、かの有名な戦国武将、武田信玄と上杉謙信との逸話にも『敵に塩を送る』という有名な故事があるくらいだ。

 そういや、俺の田舎にも塩の道と呼ばれてる古くからの街道があったっけ。


 まあ、話は逸れたがそれだけ塩は重要ってこった。


 この森から歩いていけるような近辺に海があるのかどうかわからない状況では塩は貴重なライフライン物資でもある。


 とりあえず、右も左もわからないこの世界で今を生きなきゃならないので、今日は生野菜(野草)を塩の味付けで食べるとしよう。


 塩の袋の端っこを少しだけナイフで切る。手の平の上に少しだけ塩を出す。


 盛り付けるような皿もないので、さっき水魔法で洗った野菜(野草)を手に取り、手の平の塩を舐めながら野菜(野草)を食べていく。


 採りたてだから葉っぱがシャキシャキしてるな。


 そんな事を思いながら無言で食べていく。

 少し苦味のある野菜(野草)もあるが、この状況で贅沢は言ってられないしな。


 記念すべき異世界初の食事は新鮮な野菜サラダ(野草の直接食い)だった。


 野菜サラダ(野草の直接食い)を食べ終わり、近くに置いていた水筒を手に取り中の水を飲む。一応、腹が膨れたので座りながら一息つく。


 暫く何も考えず、ぼーっとした後、改めて今日の出来事を思い出す。


「俺、本当に違う世界に来ちゃったんだなぁー」


 この先どうなるかわからんけど、神様の加護を貰ったし何とか生きていけるだろう。この状況を受け入れて精神的にも逞しく強くなった気がする俺であった。


 さて、そろそろ疲れたし寝るとするか。

 調味料類をリュックに入れ棚に戻し、草などの素材を部屋の隅に移動させる。

 マジックバッグの検証用にやることがある。

 俺はポケットの中から腕時計を取り出しバッグの中に入れる。

 腕時計の時刻は午後11時56分を指していた。


 当然、布団やベッドなんてものはないから、棚からマントを取り出し床に敷いて敷布団の代役にする。ブーツを脱ぎ念の為に身体にクリーンの魔法をかける。


 今日は色々あって疲れた。

 ライトの魔法を消したら部屋が真っ暗になった。

 窓からは星が見える。


「おやすみなさい」


 そう言った後、俺はいつの間にか眠りについていた。


 窓から光が差し込んできていてその眩しさに俺は瞼を開ける。

 この世界に来て二日目の朝だ。


 上半身を起こして周りを眺めてみるが、そこは元居た世界の俺の部屋でなく、無機質な異世界の部屋のままだった。


「夢じゃなかったんだな…」


 誰に語りかけるでもなく一人呟く。


 とりあえず起きよう。


 両手を上げ大きく伸びをする。


 そうだ、今の時間は?


 マジックバッグに腕時計を入れて、ある事を試していた俺は横に無造作に置いてあるバッグを手元に引き寄せた。

 バッグの中に触れると中に何が入っているのかすぐに認識され、腕時計と念じると手の上に昨日収納した腕時計がポンと出てきた。


 腕時計の時間を確認してみると、針は11時56分を指している。

 そして、取り出した途端に秒針が動き出した。

 検証の結果が出たな。


 どうやらこのマジックバッグの中は時間が止まってるらしい。


 という事は、野菜(野草)などをバッグの中に入れておけばいつまでも新鮮なまま保存出来る。


 一先ず、検証の結果に納得した俺は腕時計の時間調整をすることにした。

 だって、大体の時刻がわからないと不便じゃん。


 外へ通じる扉まで歩いていき開ける。

 朝日の光と綺麗な芝生とのコントラストが眩しい。

 太陽の位置を確認して、勘で午前8時に腕時計の時間をセットする。

 左腕に腕輪を着けてるので右手首に嵌めようかと思ったが、右手は剣を振るう場合に邪魔になりそうなのでズボンのポケットに入れておくことにした。


 隣の大きな部屋に移動して神様に朝の挨拶だ。


「神様おはようございます」


 神様に朝の挨拶を済まし、自部屋に戻る。


 そこで超大事な事に気がついた。

 それはトイレだ!


 さて、どこでしようか…


 この建物にはトイレらしきものがない。


 やっぱり外…だよな。


 仕方ない、護身用にナイフをベルトに括り付け、手斧を持ち扉を開け建物の裏手に回る。神様の敷地内の芝生の上にするのはいくらなんでも気が引けるので、敷地外まで歩いていく。敷地外に出て森の中に入り木の陰になる場所で持ってる手斧を使い簡単な穴を掘る。これで準備OK!


「ふぅ…」


 人心地ついた俺は自分にクリーンの魔法をかけ立ち上がる。


 クリーンの魔法マジで便利だな…


 毎回こんな訳にもいかないだろうから何か考えないとな。

 川まで歩いていくのは遠いしなぁ。


 そこで俺は閃いた!

 川からここまで水路を作ってこれないかと。川の上流部分から半円のように水路を作り、半円の先端を敷地のへりまで持ってくる。

 そしてその半円の終点を川の下流部分に繋げれば水が自然に流れる水洗トイレの完成だ。

 敷地の中にまで水路を伸ばさないのは、敷地内はこのままにしておきたかったから。


 早速、川の上流側に向かって歩いていく。

 川べりに到着、そこで気づく。


 しかし、土を掘る道具も手段もないんだよな。


 さすがに剣や手斧で水路になるように土を掘っていくのはなぁ…。

 さっきは凄いこと思いついた! みたいな高揚感に浮かれていたが現実はやはり厳しいでござる。

 目の前の川と足元の地面を眺めながら「土が簡単に掘れたら楽なのにな」と呟くと…


 あっ! なんか来た!


 頭に流れ込んできた知識は《土魔法》だった!


 その場でスキップしたい気持ちを抑えながら早速土魔法を試してみる。


 イメージが大切だよな。


 頭の中に水路のイメージを浮かべ、地面に手を向ける。

 するとどうだろう!


 地面がざくざくと掘れていき、幅2メートル深さ1メートル程の水路が出来ていく。

 水路の内側は崩れないように硬く固めるイメージだ。

 歩きながら半円状になるように敷地のへりまで進み、下流に向かってまた半円状に掘り進めていく。

 下流側の川と繋げると水路の完成だ!

 目の前で水路を水が流れていく。


 土魔法でMPを使用したがまだまだ余裕がある。

 どういう基準でどれくらいMPが減っていくのか不明だが、効果の割には燃費が良いのか減る量がかなり少ない気がする。


 そうだ、せっかく土魔法を取得したのだから簡単な建物とか出来ないかな…


 とりあえず試してみよう。


 俺は水路の上に工事現場にあるような簡易的なトイレの建物をイメージして手を向けてみる。


 出来た!

 水路の上に跨るように四角柱の建物が出来た。


 入り口がないのでもう一度魔法で横に穴を開ける。入り口の上にはひさしを作って雨避けにする。中に入り、床の程よい位置に穴を開けて完成だ。


 そして俺は《造形》というスキルもついでに獲得していた。

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