第52話 弓のお手並みを拝見

 午後の迷宮探索だ。

 再び16階層へ降りる階段の途中の魔法陣に転移する。


「ソフィア。ここから20階層まではどんな魔物が出るんだ?」


「基本的にはさっきと同じよ。だけど動く木の魔物のトレントがいるから気をつけて。見かけは普通の木と変わらないけど、獲物が近づくと枝を鞭のように使ったり、槍のような尖った枝で刺してくるから」


「わかった、気をつけるよ」


 午後の部の開始だ。

 森や林の中の道を縫うようにして走っていく。

 途中で出会った魔物は少数なら剣で屠り、多数なら魔法で一気に殲滅だ。

 俺はスキルにHP・MP自動回復があるのでMP切れの心配はほぼない。

 ソフィアも基礎MPの数値が高いのでこのレベルの相手ならMP切れの心配はほぼない。


 その気になれば回復をしながらずっと戦闘を続けるのも可能だ。


 さすがに戦闘狂ではないのでそこまではやらないけどね。


 16階層をクリアし、17階層ではレア魔物のハードビートルに遭遇した。それも2匹。俺とソフィアで1匹ずつ倒して、アイテムボックスに回収する。


「ねえ、今日だけで滅多に見ないと言われているハードビートルを3匹も倒したよあたし達」


「そうだね、迷宮からの大盤振る舞いだね」


「クロードと来た時は1回も遭遇しなかったのに」


「運もあるんじゃないかな、俺とソフィアの運を合わせたらかなりのものだろうし」


「フミトがそう言うならきっとそうだと思うわ」


 17階層を駆け抜けた俺達は18階層に降りる。

 途中で出会った魔物は少数なら剣で屠り、多数なら魔法で一気に殲滅するやり方は変わらない。


 暫く走っていると妙な雰囲気の木を見つけた。

 マルチマップで確認すると魔物である赤い点を示している。

 近くには同じ用に赤い点が他に2つある。


「ソフィア、もしかしてあれがトレントって魔物か?」


「ちょっと待って、動いてるし魔力を感じるから、あれがトレントで間違いないわ」


「あれって素材として需要があるのか?」


「あるわよ、枝は杖の材料になるし幹はテーブルや椅子など木工製品の素材になるわ」


「そっか、なら出来るだけ傷つけないような方法で倒した方がいいんだな」


「そうね、トレントの弱点は幹にある顔のようにも見えるこぶよ。あの眉間の部分に致命傷を与えれば倒れるわ」


「確かにあのこぶは顔のように見えるな」


「そこで、あたしの弓が威力を発揮するのよ」


「そういえば、ソフィアは弓術のレベルも高いんだっけ」


 俺はソフィアのステータスを思い出す。

 弓術のレベルはかなりのものだったよな。


「ええ、トレントは近づこうとすると多くの枝を使って邪魔してきたり、攻撃してきたりするから厄介なのよ」


「なるほど」


「だから、弱点である眉間のような場所に一撃必殺の攻撃をするのが有効なのよね」


 ほう、もし魔法で攻撃するとしたらアロー系やランス系って感じかな。でも、魔法の飛ぶスピードを速くしないと届く前に枝で弾かれそうだな。その前に火の魔法だと燃えちゃうから素材として使えなくなりそうだ。


「わかった。じゃあ、ソフィアの弓のお手並みを拝見する事にしよう」


「まあ、見てて」


 そう言うと、ソフィアは自分のマジックバッグから弓と矢箱を取り出した。

 矢箱から矢を取り出し、弓に矢をつがえて一気に引き絞る。

 最初のとこから弓を引き絞るまでのソフィアの一連の動作はとても美しい。

 狙いをつけたかつけないかわからないような僅かな時間の後…

 弓を離れた矢はおよそ4~50メートル先のトレントの顔に見えるこぶの眉間の部分に『スパン!』という小気味良い音を立てながら的確に眉間に突き刺さった。

 トレントは動きを止め、少し色が変わったみたいだ。


「綺麗だ…」


 俺から出た言葉はそれだった。

 見とれてしまった。


「今、フミトの口から綺麗って言葉が聞こえたと思ったけど…まさかあたしの事?」


「弓を射る動作を見て綺麗だと思ったんだ」


「動作の方なの!?」


「あっ…いや、ソフィア自身もだよ…汗」


「まあ、いいわ。トレントはこんな感じで仕留めるのが楽よ」


「大変参考になったよ」


 残りの2匹もソフィアが弓で仕留め、アイテムボックスで回収する。

 その後、19階層、20階層とクリアして俺達は中ボス部屋の前に辿り着いた。


「ソフィア。とりあえず俺は魔法陣に登録しておくよ」


「そうね、たまにうっかり忘れちゃう人がいるらしいわよ」


 魔法陣への登録が終わり、あとは中ボスと戦う準備を整えるだけだ。

 その前にボスの情報を聞いておかないとな。


「ソフィア。この階層の中ボスはどんな魔物なんだ?」


「この階層の中ボスはアントね。クイーンアントがボスよ。配下にジェネラルアントとソルジャーアントを従えてるわ」


アントか。どんな感じの魔物達だい?」


「個々の強さはそれほど強くもないけど、とにかく数が多いのよ。配下のアント達を倒してもクイーンアントを倒さないと、クイーンアントがどんどん配下を生み出しちゃうの。魔法職がいれば魔法で倒せるから中ボスでもそれほど脅威ではないけど、戦士や剣士ばかりのパーティーはかなり苦戦するらしいわ」


 確かに、魔法職がいないパーティーは物量で来られると大変そうだな。


「あたし達は二人共に魔法を使えるから簡単にクリア出来ると思うけどね」


「参考になったよソフィア」


「いえいえ、どういたしまして」


「じゃあ、俺が土魔法で魔物の周りに壁を作って逃げられないようにする。そして地面や内側の壁から魔物に向かって槍を出すから、ソフィアは精霊火魔法で上から攻撃してくれ」


「わかったわ、任せて」


「よし、じゃあ中ボス部屋に一緒に入ろう」


 俺とソフィアは中ボス部屋にゆっくりと足を踏み入れる。

 俺達が部屋の中に入ると後ろの扉が閉まる。

 さあ、中ボスとの戦いだ!


 部屋の広さは結構大きい。

 その奥にはクイーンアントと思われる大きな身体の蟻がおり、その前には2匹のジェネラルアントと思われる蟻が両側に控えている。その3匹の前方には20体ほどの蟻の姿が見える。


「じゃあ、行こっか」


「わかったわ、フミト」


 俺とソフィアが同時に足を踏み出すと、魔物達も反応して動き出した。


『アースウォール! アースウォール!』


 並列思考を使い、連続して魔物の周りに土の壁を生み出していく。

 あっという間に魔物の周りを土の壁で囲んだ。

 そして、内側の地面や壁から槍を突き出す。


「ソフィア!」


『火よ!』


 間髪入れずにソフィアの範囲魔法が壁の中の魔物を炎で焼いていく!


『ギギッ! カチ…カチ!』


 蟻達は断末魔の叫びを上げながら炎に焼かれていく!

 暫く経つとようやく壁の中の炎が収まった。

 近づいて確認するとマップ上の赤い点も消えており魔物は全滅したようだ。

 素材はぼろぼろで使えなさそうなので魔石だけ回収しておく。


「やったなソフィア。ナイスコンビネーションだったよ」


「ふふ、当然よ。フミトとなら何でも相性バッチリだわ!」


 20階層の中ボスを倒し、出口の方を見ると銀色の宝箱が出ていた。

 慎重に開けてみると宝箱の中に入っていたのはお金だった。


 宝箱の中に入っていたのは大金貨10枚だ。


 えーと、大金貨10枚って事は…1枚100万円相当だから10枚で1千万円か!


「宝箱の中身にはお金もあるんだな」


「本当ね。で、どうするこのお金」


「俺とソフィアで均等に分けよう。取り分は5枚ずつだな」


「わかったわ」


 お金を均等に配分した俺達は中ボス部屋を出る。

 後ろで扉の閉まる音が聞こえる。

 忘れないように転移魔法陣の登録もしておく。


「ソフィア、今日もお疲れさま」


「フミトもお疲れさま」


 俺達は迷宮20階層までの攻略を終わり、転移魔法陣で迷宮を後にしたのだった。

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