第51話 波長がピッタリ
迷宮の12階層を攻略して一旦休憩。
そして13階層に向かう俺達二人。
昼前には15階層まで到達したいものだ。
俺の為に最初から付き合ってくれるソフィアには感謝の言葉しかない。
「今日も順調ね」
「そうだね、ソフィアのおかげでスムーズに進むよ」
「もう、あたしを褒めたって何も出ないわよ」
「あっ、魔物が出た!」
「何それ? わざと言ってんの! 意地悪ね!」
「いやいや、本当に出たんだよ。なあ、あれってもしかして…たまにしか出ないハードビートルじゃないか?」
「えっ? 本当だ…あ、あたし達って運がいいわね」
前方に大きなカブトムシ型の魔物が現れた。
大きな角を持ち角の先端はバトルアックスのように両側が斧刃のようになっている。
鉛色の甲羅はいかにも硬そうで防具の素材として重宝しそうに見える。
「ねえ、フミト。あたしにやらせて」
「ああ、いいよ」
ソフィアがやる気なので俺は見物するか。
双剣を構えたソフィアが低い姿勢で走り出す。
ハードビートルに的を絞らせないように少しジグザグにブレながら一気に迫る。
迎え撃つハードビートルは角を上に振り上げ走ってくるソフィアを真っ二つにしようと待ち構える。
間合いに侵入したソフィア目掛けてハードビートルが大きな角を振り下ろした瞬間、ハードビートルの視界から消えるようにソフィアが横に移動して、双剣をハードビートルの首の関節部分の隙間に叩き込んだ!
そして反対側に素早く回り、同じように関節部分の隙間に剣を振り下ろす。
『ズン!』という地鳴りと共にハードビートルがその場に崩れ落ちる。
「ソフィア、お見事!」
「ありがと、ハードビートルなんて運が良くないと会えないから倒せて嬉しいわ」
動かなくなったハードビートルをアイテムボックスに回収する。
「よし、先へ進もう」
次に遭遇した魔物は蜂型の魔物キラーホーネットだ。
巨大な顎と、お尻の毒針が危険だ。
1匹見かけたら最低でも5匹から10匹は近くに居ると見ていい。
俺のマップ上にもここへ集まってくる赤い点が写し出されていた。
「キラーホーネットね。魔法で一気にやっつけた方がいいわ」
「わかった!」
集まってきたキラーホーネットは全部で8匹。
『風よ!』
『フレイムストーム!』
ソフィアの風の竜巻と俺の炎の渦が合わさり業火の暴風となってキラーホーネットに襲いかかる!
巨大な業火の竜巻に次々と巻き込まれたキラーホーネットは魔石を残して跡形もなく消滅した。
「凄い威力だったな」
「ええ、まさか二人の魔法の波長がピッタリで二つ合わさると思わなかったから驚いたわ」
そして、俺達は13階層を走破して下の14階層に降りていく。
魔物達を倒しながら進んでいくと…マップに宝箱を示す紫の点が写し出された。
「ソフィア! 宝箱だ!」
「どこ?」
「マップ表示だとこの林の奥のようだ」
道を逸れ、林の中に入っていく。
少し歩くと、生い茂る草に隠れて銀色の宝箱があった。
「フミトの能力がなければこんなところにある宝箱なんて見つけられないよね」
「ああ、神様に感謝しないとな」
「ソフィアが開けてくれ」
「いいの? なら開けるわよ」
ソフィアが宝箱を開けると、中には二つ入っていた。
ローブと短い杖だ。
『鑑定結果』
〈品名:ローブ〉
〈名前:司祭のローブ〉
〈材質:ランページベアーの毛皮〉
〈付与:魔法耐性〉
◆ランページベアーの毛皮で出来たローブ
初級魔法攻撃を弾き返す
『鑑定結果』
〈品名:杖〉
〈名前:魔術師の杖〉
〈材質:トレントソーサラー〉
〈付与:魔力増強〉
◆トレントソーサラーの枝で出来た杖
魔力を2割アップさせる
あっ! これ俺が欲しい。
トランさんとポーラさんにピッタリだ。
「あのさぁ、物は相談なんだけど…この二つ俺にくれないか?」
「別にいいけど…フミトが使うの?」
「いや、プレゼントしようと思ってさ。ソフィアがこの前俺に着いてきた宿に泊まってるおじさんとおばさんにだよ」
「そういう事ならいいわ」
「ありがとう、恩に着るよ」
ソフィアの了承を得てホッとした俺。
今度ソフィアに何かプレゼントでもして埋め合わせしないとな。
14階層で今日初めての宝箱をゲット。
そして15階層に降りていく。
ここをクリアすれば、その先の16階層へ行く途中に転移魔方陣がある。
午前中の目標はクリア出来そうな感じだ。
15階層を探索していたらスコーピオンの集団に遭遇した。
何でこんなとこに固まってんだろ。
まあ、いいや。俺とソフィアの魔法で一気に片付ける。
落ちてる魔石を手早く回収して暫く進み、ようやく階段のある場所に辿り着いた。
途中にある広場の転移魔法陣に登録して二人で街へ一旦戻った。
軽食が食べられて外に席があるオープンカフェのような店で、肉や野菜をパンで挟んだサンドウィッチのような食べ物を注文して食べる。
ティーカップに入った紅茶を飲みながら降り注ぐ陽射しを受けて食べる昼食は、さっきまで迷宮で魔物と戦っていた事を忘れそうになるほどのどかで優雅な時間だ。
「ねえ、フミト。そのうちでいいからあたしと一緒に劇場に劇を観に行ってみない?」
「劇って? 物語のシナリオで演技するやつかい?」
「そうそう、この街には劇場があるのよ」
「へー、そうなのか」
マルチマップで確認すると、確かに劇場がある。
あまりそっち方面には関心がなかったのと、このオルノバの街に来てから余暇を娯楽で過ごすという余裕があまりなかったので気がつかなかった。
そもそも俺ってこれといった趣味らしいものがなかったもんな。
確かに異世界といえども庶民には娯楽があって然るべきだし、俺が気がつかないだけでこの世界には様々な娯楽があるのかもしれないな。
「そうよ、このオルノバの街を拠点にしている劇団が普段は興行してるんだけど、たまに他の街から来る劇団もあって、そういう劇団が来た時はいつもの劇団とは違う演目で物珍しいから結構人気があるのよ」
なるほどね。いつも同じものばかりじゃ飽きるし、他の街から来たものは目新しく新鮮に写るもんな。
「でね、でね。丁度今、他の街から来ている劇団が興行を始めたのよ。2ヶ月くらいこの街にいるらしいわ」
「ソフィアは情報通だな」
「何言ってんのよフミト。女子にとってそういう情報収集は基本でしょ!」
「はいはい、ごもっともです」
「じゃあ、約束ね。フミトはあたしと一緒に観劇に行くのよ」
あれよあれよという間にソフィアと劇を観に行くのを約束させられてしまった。
まあ、この世界の劇がどういうものなのか知らないけど試しに観るのもありかな。
観劇の約束をした俺達は再び午後の迷宮攻略に向かうのだった。
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