第50話 大事なパートナー
今日は俺の迷宮攻略2日目の予定だ。
昨日で大体のコツと言うか流れを知ったので今日はそれを活かすようにしよう。
今日は屋敷まで迎えに行かないでソフィアと北門前で待ち合わせの約束。
ソフィアがわざわざあたしの屋敷に迎えに来なくていいのよと言ったので今日は北門前での待ち合わせにしたのだ。
元会社員の俺としては待ち合わせ時間のおよそ10分前には到着しないとな。
宿から歩いて北門前に着くと、既にソフィアの姿がそこにあった。
俺より来るのが早いなんて予想外だ。これは待たしてごめんねと言わなきゃ。
あれ? よく見ると、ソフィアが他の冒険者らしき男達3人に話しかけられてる。
「ねえ、ねえ。俺達と一緒に行かない?」
「俺達強いから君を守ってあげるよ。だから俺達のパーティーに入らない?」
「そうそう、夜も楽しめるよ」
あれって、もしかしてソフィアがナンパされてるのかな?
「お待たせソフィア。待たせちゃってごめんね」
「あたしもさっき来たばかりだから大丈夫よフミト。じゃあ行こっか」
「そうだな、じゃあ今日もよろしくな」
「おい、おまえ! 俺達が話してたのに横から来て邪魔すんなよ」
「こんな冴えない平凡な野郎じゃなくて俺達ならいっぱい楽しませてやるのによ」
何だか面倒臭そうな人達だな…
「ソフィア、そうなの?」
「ううん、何だか一方的に話してたみたいだけど、あたしは話してないし。気のせいじゃない」
「じゃあ、大丈夫だね。そういう事らしいので俺達は先に行きますね」
「ふざけんな!」
そう叫んで一人が俺の肩を手で掴み顔を近づけて凄んでくる。
何か面倒だな…
そう俺が思った瞬間に新しいスキルが俺に降りてきた。
そう、滅多に持つ人を見かけないあの《威圧》だ。
元の世界で読んだ、海賊が主人公の漫画の何々の覇気みたいなものと考えれば分かりやすい。精神値が低いとそれだけで硬直したり、畏怖して動けなくなるのだから強力なスキルなのも頷ける。だって、戦闘中に動けなくなるって相手がその間攻撃をやり放題だしね。硬直してる間に斬られてしまう。
早速3人組に向けてピンポイントでスキルを発動してみる。
すると、つい先程まで居丈高に息巻いていた連中が俺の威圧を受け硬直して震えだした。
「俺達、もう行っていいですよね?」
「「「…………」」」
そう俺が確認すると、3人組の冒険者は震えながら目だけで無言で頷く。
「ソフィア。この人達が俺達に行っていいってさ!」
「そうなんだ。意外と物分りの良い人達なのね」
物分りの良い冒険者達をその場に残して俺とソフィアは北門を出て迷宮に入り口に向かっていく。
「普段のあたしは気配を消してるから他人から認識されないけど、今日はフミトとの待ち合わせだから普通にしてたら声を掛けられちゃった」
「確かにソフィアみたいな絶世の美女が気配丸出しで居たら目立って仕方ないもんな」
「もう、フミトったらお世辞が上手なんだから!」
ソフィアは真っ赤な顔をしながら俺を叩いてくる。地味に打撃が痛いんですけど…汗
さて、入り口横にある転移魔法陣の上に乗り、昨日中ボスを倒した後に登録したボス部屋後の転移魔法陣をイメージして二人して転移する。
「この転移する感覚って全然慣れないのよね」
「ああ、何となくわかるよ」
俺の持つ瞬間移動の魔法とは似てるようでちょっと違う感覚だ。
「ソフィア、簡単に11階層から15階層までの魔物を説明してくれ」
「とりあえず、11階層から15階層は昆虫系の魔物が出るわ。キラーホーネット、シルクスパイダー、スコーピオン、カーヴスタッグってとこかしら、運が良ければたまに出現すると言われるハードビートルもいるかもね。カーヴスタッグはハサミの部分に需要があって、ハードビートルは甲羅がとても硬くて鎧などの防具の素材として重宝されるから常時討伐依頼の対象よ。他の昆虫の魔物も素材として使えるわね」
「了解。じゃあ、魔物を倒しながらアイテムボックスに放り込んでいくよ。手で触れなくても放り込めるからね。あと、今日も隠し部屋を見つけたら寄り道するからね」
「わかった。フミトに任せるわ」
お互いに頷く二人。
「じゃあ、行こっか! パーティーの大事なパートナーさん」
「そうね、行きましょ! あたしの大事なパートナーさん」
今日の迷宮探索の始まりだ。
階段を降りていき11階層に出る。
今までの岩壁とは違い、周りは木々や草が生えている空間だ。
迷宮内なのに空があり地上の雰囲気とあまり変わらない。
「迷宮って面白いな。どういう仕組なのか知らないけど」
「本当ね、あたしも全然わからないけど」
「よし、基本的には走って移動。俺達の通り道に魔物がいる時は知らせるよ」
二人して木々の合間を縫って飛ぶように駆けていく。
少し走ると最初の魔物と遭遇した。
「ソフィア、魔物がいた。ここは俺がやる」
シルクスパイダーだ。
巨大なクッションに足が生えたような魔物でお尻から糸を吐く魔物だ。
大きな顎と鋭い牙があり、獲物を糸で絡めて拘束した後に強靭な顎と牙で噛み砕くとされている。
「先手必勝だ!」
糸を吐く時間も与えずに俺の剣で瞬殺する。
そしてアイテムボックスに放り込む。
俺とソフィアはほとんど足を止めずにその場を通過していく。
また暫く走ると、魔物が現れた。今度は2匹だ。
「ソフィア、魔物だ。2匹いるから1匹は頼む」
「わかったわ、やっとあたしの出番ね」
二人並んで魔物に突っ込んでいく。
カーヴスタッグと思われる魔物はクワガタのように二本のハサミを持ち、そのハサミは鋭利な刃物のように研ぎ澄まされている。
魔物がハサミを広げ俺達の身体を挟もうとした瞬間に前宙返りの要領でその攻撃を躱し、同時に魔物の首元の関節部分目掛けて剣を一閃する。
横目でソフィアを見ると俺と同じように飛び上がり回転しながら双剣を関節部分でクロスさせていた。
ほぼ同時に地面に降り立つ。
『シュタ!』という擬音が聞こえてきそうだ。
後ろでは首を斬り落とされたカーヴスタッグの死骸が残されている。
すぐにアイテムボックスに放り込んでまた駆け出す。
「ねえ、フミト。タイミングがほぼ一緒だったね」
「ああ、俺達はコンビの相性が良いのかもな」
ソフィアとのコンビはまるでストレスがない。
お互いに息が合っているというか、躊躇なく行動出来る。
相手がこう動くだろうというのが感覚的にわかるのだ。
パーティーを組んだばかりなのに、まるで長年連れ添った運命のコンビのようだ。
その後も出くわす魔物を二人で屠っていく。
ただ、俺は常時討伐の魔物の素材以外は当面は売る気がない。
経験値として稼がせてもらうだけだ。
11階層を難なく走破して12階層への階段を降りていく。
12階層も同じように走破して13階層へ続く階段の途中の広場で休憩する事にした。
休憩と水分補給は大事だからな。
俺は水筒を取り出し中の水を飲む。氷魔法で冷しておいた水はとても美味しい。
「フミトの水筒の水って冷えてるの?」
「ああ、氷魔法で冷やしてあるからね」
「じゃあ、あたしもそれを飲む」
俺の水筒を奪って口飲みでゴクゴクと水を飲んでいる。
「あー、冷えてると美味しいね」
二人並んで壁に寄りかかり暫しの間休憩する。
迷宮の中だというのを忘れそうだ。
「そろそろ行こっか?」
「そうね。フミト、あたしの手を引っ張って立たしてよ」
俺はソフィアの手を握って持ち上げるようにして立たしてやる。
勢い余って立ち上がったソフィアが俺の胸に頭をぶつけるのはご愛嬌だ。
さあ、次は13階層だ。
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