第47話 汚物でも見るかのような目

 ダリム迷宮に入った俺とソフィア。

 1階層を抜け階段を降り2階層に出る。


「ここも1階層と代わり映えしない景色だな」


「そうね、1~5階層まではこんな感じ。変化といえば魔物のレベルが少しずつ上がるくらいかしら」


「そうか、ならどんどん先に進もう」


 俺とソフィアは3階層目指して駆け出す。

 途中の魔物は1階層と同じように基本スルーだ。


 ──そういえば、俺ソフィアが戦ってるところを見た事がないや。


「そうだ、ソフィア。その双剣で戦うところを俺に見せてくれないか?」


「ん? いいわよ。相手は何がいい?」


 マルチマップを見ると、近くに丁度2匹の魔物がいるのが確認できた。

 移動速度からしてラットだろう。


「そこの角を右に曲がったところにおそらくラットがいる。それを頼む」


 角を曲がった瞬間、ソフィアが俺の前に出て戦闘態勢をとる。


「じゃあ、いくわ!」


 低い姿勢になって魔物目掛けてソフィアが走っていく。

 素晴らしい速度だ。

 魔物とすれ違った瞬間にソフィアの双剣が2匹の魔物を斬り裂いた。

 何歩か先に進んだあと、止まって振り返るソフィア。


「どうだった? あたしの大事なパートナーさん?」


「うん、動作が凄い綺麗だった」


「ありがと、相手は低レベルのラットだったけどこれで満足してくれたかしら?」


「ああ、大満足の結果さ。よし、先へ進もう!」


 2階層もおよそ30分位で走破した。

 途中低レベルの冒険者パーティーが居たが、俺とソフィアが隠密スキルを発動してる効果か気づかれないで通過した。


 3階層、そして4階層も難なく通過して次は5階層だ。


「なあ、ソフィア。5階層のどこに転移魔法陣があるんだ?」


「5階層から6階層に降りる階段の途中にあるわ」


「なるほど、そういう事か。その転移魔法陣に到達したら、一度迷宮入り口に戻るのを試してみてもいいかな?」


「いいわよ」


 俺達は6階層へ続く階段を目指して駆けていく。俺とソフィアは相性がいいのか、ほとんど言葉を交わさずとも戦う魔物とスルーする魔物の選別の息がぴったりだ。


 あと、10分程走れば6階層への階段ポイントに着くなと考えていた時に、俺のマルチマップに見慣れない紫の点が写った。


「ちょっとソフィアストップして」


 言葉とハンドサインで後ろのソフィアに合図を送る。


「何? どうしたの?」


「いや、ここに何かがありそうなんだよね」


 そう言って俺は壁を指差す。


「ちょっと待って、調べてみるから」


 ソフィアが暫く壁を調べていると何やら見つけたようだ。


「ここに変な突起があるわね。ちょっと押してみるね」


 ソフィアが突起を押すと岩壁が『ズズ…ズズズ』と横に動いて隠し部屋が出現した。

 中には銅の宝箱が見える。


「凄い、これって宝箱の出る隠し部屋じゃないの!」


「そうみたいだな、でもこの宝箱ってすぐに開けていいのかな?」


「あたしが調べてみるね。罠があっても解除出来るから」


 ソフィアが宝箱を調べたが罠はなかったようだ。


「ねえ、フミト。あたしが開けていい?」


「いいよ」


 宝箱をソフィアが開ける。

 中にあった物は銀のネックレスだった。

 鑑定すると、装備すればHPが100増える効果があるらしい。

 銅の宝箱ならこんなもんだろう。


 魔法職でHPが少ない人にとってはありがたい効果かもしれないしね。


「とりあえず、ソフィアが持っておけよ。自分で使うか売るかはソフィアが決めていいよ」


「そうね、今は装備しておくわ」


 ソフィアが自分の首にネックレスを着ける。


「よし、じゃあ先に進もうか」


 隠し部屋の宝箱を見つけた後、俺達は再び6階層への階段に向けて走っていく。

 そして10分程走り、下層へ降りる階段を見つけた。


「この階段の途中に転移魔法陣があるんだよな?」


「そうよ、降りてみましょう」


 階段の途中の広場になってる場所に魔法陣はあった。薄く光ってる魔法陣をじっと眺めていると勝手に俺の記憶にその魔法陣の術式がインプットされたようだ。どうやら魔法陣は《アーク語》で描かれていて滅茶苦茶複雑な偽装術式や鍵が仕込まれている。


「フミト、この魔方陣の中に入れば登録完了よ」


 ソフィアに言われて魔法陣の中に入る。

 何となく身体をスキャンされたような感覚があり登録は終わったようだ。


「じゃあ、さっき言ったように一度迷宮入り口に戻っていいか?」


「いいわよ、頭の中で迷宮入り口へ転移と念じれば転移出来るからやってみて」


 ソフィアに言われた通りに迷宮入り口へ転移と念じると、景色があっという間に変わって迷宮入り口横の魔法陣の中に立っていた。

 少し遅れてソフィアも姿を見せる。


「ね、簡単でしょ」


 ──どういう理屈か知らないが便利なもんだな。


「そうだ、まだ昼前だけど街に戻って軽く何か食べていくか?」


「そうね、走ったから少しお腹が空いたかも。昼食を食べてからまた迷宮に行きましょ」


「それじゃ一旦街に戻ろう」


 すぐ目の前にある北門でギルドカードを提示して街の中に入り、手頃な店で昼食を食べる事にした。


 パンとサラダ、スープの簡単なメニューの料理を選ぶ。

 店員が料理を運んできた。


 ──あっ、これってもしや。


 ズッキーニの輪切りのようなものとハムのような肉、そして葉物野菜にマヨネーズを和えたサラダだ。


「このサラダ美味しいわね。ねえフミトそう思わない?」


「ああ、美味しいな」


 ──モルガンさん、とうとう売り出したみたいだな。


 思わぬものに巡り合った昼食を済ませ、ちょっと休憩してからまた迷宮に向かう。

 入口横の魔法陣の上に立ち、迷宮5階層へ転移と念じると俺とソフィアは再び5階層と6階層の間の階段の途中にある広場の魔法陣の中に移動していた。


「6階層から10階層まではゴブリン、コボルト、エイプなどの魔物が出てくるわ」


「了解した」


 休憩を挟んで今日二度目の迷宮だ。階段を降り、6階層に到着するとマッピングがすぐに行われ、冒険者らしき青い点と魔物の赤い点が浮き上がる。

 階段までのルートを進んでいく俺とソフィア。移動途中でこの階層初の魔物達に遭遇する。緑色の身体をした魔物、ゴブリンだ。


 1匹のゴブリンが俺達を見つけ『クギャ!クギャギャ!』と何やら叫び声をあげる。


「フミト、あれはゴブリンが仲間を呼んでるのよ」


 すると、その叫び声に反応したゴブリンと思われる赤い点がマップ上でこちらに移動してくるのを確認した。


 集まってきたゴブリンは全部で5匹。最初の1匹と合わせると6匹だ。

 それぞれ腰には布を巻いて手には棍棒や剣を持っている。


「ゴブリンやオークはあたし達女性から毛嫌いされている魔物なの。ゴブリンやオークは捕らえた女性に乱暴しようとするから」


 ゴブリン達をまるで汚物でも見るかのような目で見ていたソフィアがそう言ったかと思うと口元で詠唱らしき言葉を叫ぶ。


『風よ!』


 すると、ソフィアの背後に薄っすらと小さな精霊らしき姿が現れた。竜巻が発生してゴブリン達目掛けてすごい速さで進んでいく。


 俺の風魔法のトルネードカッターと同じでソフィアのは精霊魔法版のトルネードカッターだな。


 竜巻がゴブリン達を襲った瞬間、風の刃がゴブリン達を切り刻んでいく。竜巻が通った後は微かに残るゴブリンだった物の残骸と彼らが持っていた剣と棍棒が残されるのみだった。


 ソフィアは仁王立ちしながらその残骸を睥睨する。


「はー、気分がスッキリしたわね。フミト行きましょ!」


 何かちょっとだけ怖いソフィアを見てしまったようだ。

 周囲の温度が急激に下がったような気もする。


「わ、わかったよ」


 転がってる棍棒と剣をアイテムボックスに回収してその場を後にする。二人して駆け出していく先の7階層への階段はもうすぐだ。

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