再びオルノバ

第112話 久しぶりの再会

「オルノバの街が見えてきたわよ」


 馬車の窓から顔を出していたソフィアが俺の方へ振り向きそう告げてきた。

 その言葉を受けて俺も窓から顔を出してオルノバの街が見えてきたのを確認する。


「ようやく到着か。ずっと馬車に乗ってゴトゴトと揺られるのに飽きてきたからほっとするよ」


「フミト殿の気持ちは痛いほどわかりますぞ。さすがに私も飽きてきたところです」


「フミトさん、私は肩が凝りました」


「もう、みんなだらしないわね。しっかりしなさいよ。あたしなんてピンピンしてるわよ」


「ホント、ソフィアは元気だよな。どこからそんな元気が出てくるんだ?」


「ちょっとフミト、どうせあたしの元気の源はお菓子だって言いたいんでしょ?」


「いや、そうは言ってないけどソフィアには自覚があるのか?」


「うーん、確かにあたしはお菓子があれば幸せな気分になれるけど…」


「フミト殿、宜しいじゃありませんか。ソフィア様はお菓子が好きなんですから」


「クロードも途中の宿ではワインばかり飲んでたじゃないの!」


「むむ…そう言われると…」


 思わぬ反撃を受けたクロードさん。珍しく黙っちゃったぞ…


「フミトだって途中の宿で泊まる度にあの変な体操を宿中の人に教えてたし。あたしは恥ずかしかったわよ」


「あ…そう言われると…」


 俺も思わぬ反撃を受けてしまい、旅の疲れで残り少ないライフがみるみる減っていく。


「えーと、とりあえずオルノバにもうすぐ到着するから降りる準備をしないとね」


 ここは話を逸して場を繕おう。

 うん、それがいい。


「そうね、話してるうちにそろそろ着くわよ」


 俺達の乗る馬車はオルノバの街に到着して衛兵とのやり取りを済ませ、街の中に入っていく。数カ月ぶりに見る見慣れたオルノバの街は俺達を快く出迎えてくれていた。


 街中にある停車場に着いた。

 お金は前払いで払ってあるから、後は忘れ物がないか確認して降車する。

 アイテムボックスやマジックバッグに入れてあるから忘れ物はないんだけど、つい癖というか習慣で忘れ物確認をしないと気がすまない俺。


「御者さん、ご苦労さまでした。また機会があったらよろしくお願いしますね」


「こちらこそ、またのご利用をお待ちしてますぜ」


 お決まりのやり取りをした後、俺は皆に話しかける。


「ところで、皆はこれからどうするの?」


「そうね、馬車の中でも話してた通りに家に戻る前に知り合いに王都のお土産を渡しに行くつもりよ。まだお昼を少し過ぎたくらいだし、一度家に入っちゃうと外に出たくなくなるから先に済ませたいし」


「私もソフィア様と同じく、知り合いのところへ顔を出しに行くつもりですぞ」


「私も留守中にお庭の管理をしてくれた知り合いに挨拶に行こうと思ってます」


「俺はゼルトさん達のところに行って用事を済ませてから、普段定宿にしてるアルフさんの宿を引き払ってくるつもりだ。その後ソフィアの屋敷に行くよ」


「フミト。あんたの事だから調子に乗ってゼルトさんやリーザさんに捕まってお酒の相手をさせられて夜遅くならないようにね」


「はい、わかりました…」


 俺の取るであろう行動を見透かした鋭い指摘にぐうの音も出ないとはこの事か…


「それじゃ、ここで一旦解散だな。後ほどソフィアの屋敷でまた会おう」


 皆に一旦別れを告げ、俺はゼルトさん達が泊まっている『銅の口髭亭』に向かって歩いていく。数カ月ぶりに見るオルノバの街並みを見ながらテクテクと歩いていくと、ハンスさんの銅の口髭亭が前方に見えてきた。


 ゼルトさん達は居るかな?


 宿の玄関を潜り、奥に向かって声を掛ける。


「こんちわ、誰か居ますか?」


 声を掛けて暫くすると、「おう、なんだい。うちの宿に何か用かい?」と聞き慣れたハンスさんの声が奥から聞こえてきた。


「俺です、フミトです」


 奥から姿を見せたハンスさんが俺の顔を見て…


「よう、フミトじゃねーか。おまえ王都から帰ってきたのかよ!」


「はい、さっきオルノバに着いたばかりです。皆さんに到着の挨拶と土産を渡しに来ました。ハンスさんにも買ってきたので後で渡しますね」


「そうかそうか、そいつは嬉しいね。久しぶりに会うが、見た感じフミトは元気そうじゃねーか」


「ええ、おかげさまで。ハンスさんも相変わらず元気そうですね」


「ガハハ! 俺は元気だけが取り柄だからな!」


「ところでゼルトさんやトランさんは居ますか?」


「今日は部屋に居ると思うぞ。そういやリーザはフミトが居なくて寂しそうだったからおまえが帰って来たのを知ったら喜ぶだろうな」


「ははは…王都から俺の近況を書いた手紙を出してたんですけどね。届いてましたか?」


「ああ、届いてたぞ。フミトの活躍に皆が目の玉が飛び出るくらいに驚いてたぜ。いや、俺もおまえの活躍に自分の事のように嬉しかったけどな!」


「ハンスさんありがとうございます。じゃあそのへんも話しますのでそろそろゼルトさん達を呼んでもらえますか?」


「おう、待ってな。おーい、ゼルト! トラン! フミトが帰ってきたぞ。居るならリーザとポーラを連れてこっちに来いや!」


 暫くすると、ドタドタと足を踏み鳴らす音が聞こえて真っ先に姿を現したのは、やはりというか想像通りというかリーザさんだった。


「フミト! 帰ってきたのか!」


 そう言いながらフライングボディプレスのように宙を飛びながら俺に突っ込んできた。


 えっ! もしかしてあれを受け止めるのか俺?


『ドン!』


 飛び込んできたリーザさんを全身で受け止める。

 俺のステータスを持ってすれば受け止めるのは余裕だけど、いきなりのボディプレスは俺の心臓に悪いんですけど!


「フミト! 元気にしてたか? 王都で悪い女に引っかからなかったか?」


 元気にしてたかはまだいいけど、その後のやつは何なんだよ?

 俺って悪い女に騙されやすいイメージなのか?

 それに、どさくさに紛れて抱きついてないで早く離れてくださいよ!


 またもや格闘術スキルを駆使してリーザさんを俺の身体から引っ剥がす。


「この通り元気ですよ。オルノバに到着したので挨拶とお土産を渡しに来たんです」


 遅れてゼルトさん、トランさん、ポーラさんも奥から姿を見せた。


「フミト、久しぶりだな! それよりもおまえ凄いじゃないか。魔族を倒したんだってな!」

「フミト君、私も君の活躍を聞いて驚いたよ。自慢の甥っ子みたいなものだ」

「おほほほほ、フミト君凄いわねぇ。私もあなたの活躍に鼻が高いわ」


「皆さん、そんなに俺を褒めてもお土産の量は増えませんよ!」


「ハハハ、俺にとっちゃおまえの活躍と武勇伝を聞くのがお土産のようなものだ。ま、一応おまえが買ってきたお土産も有り難く貰うつもりだけどな!」


「じゃあ、それなら先に王都で買ってきたお土産を渡しますよ。みんなの分は買ってありますので心配しないでください」


 そう言って、俺はマジックバッグの中から王都で買ってきたお土産を取り出し各々に渡していく。


 ハンスさんには宿の食事で役立ちそうなブランド品の食器をいっぱい買ってきた。

 ゼルトさんとリーザさんには王都のお酒や有名な店の革のベルトやブーツ。

 トランさんとポーラさんには王都の老舗ブランドのコートやセーター。


 俺が一人ずつ手渡しすると、皆大喜びしてくれた。

身体のサイズは前もって聞いていたのでピッタリ合うだろう。

一通り俺からのお土産を確認したゼルトさんが口を開く。


「ハンスさん、酒の用意をしてくれ。今日はフミトの武勇伝を聞きながら宴会だ!」


「任せとけ! だけど、フミトは旅の疲れがあるだろうから早めに帰してやれよ。なぁフミト」


「そうですね。まだこの後もやることがあるので途中で帰ります」


「何だよ! あたしはフミトと久しぶりに会ったんだ! 今日は帰さないからな!」


 いや、頼むからリーザさんは無茶を言わないでくれよ…

 さっきもソフィアに釘を刺されたばかりだし、アルフさんの宿も引き払わないといけないんだよ俺は。


 とりあえず、そんなこんなで久しぶりにゼルトさん達と再会した俺は、無事にお土産を渡した後、楽しい宴会で盛り上がるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る