第111話 王都からオルノバへ

「やっと落ち着いたな」


「綺麗で広いし静かだし、住みやすそうな家よね」


「フミト殿、執務室と私の部屋を用意して頂きありがとうございます」


「フミトさん、この家は庭が広いのがいいですね」


 この前の事件の処理も片付き、あれから一月以上が経過した。

 俺達はジェームズ陛下から貰った王都の家の応接室に皆揃ってお茶を飲んでいる。


 そう、モルガンさんの好意で無料で宿泊していた宿からこの家に引っ越したのだ。


 注文していた調度品や家具も揃い、この家で生活出来る最低限の準備が整ったのだ。

 ソフィアからも「ねえフミト。そろそろフミトが貰った家に移動しようよ」と言われたので宿を引き払ってこの家に移ってきた。


 あの事件の顛末はというと…

 あれから王都に戻り、冒険者ギルドで皆の証言を元にして報告書を作って纏めた。

 それから王都の治安を束ねる王都軍の本部へ行き、牧場跡での戦闘や魔族の男の事などの聞き取り調査を受けたりと結構忙しかった。


 改めて魔族というのは、生まれながらにして魔力が桁違いに多い種族の名称で、遥か東の海を渡った小さな大陸に起源を持つ長命種の種族なのだそうだ。

 ドルナ大陸との間の、海の魔物が蔓延っていて荒れている危険な海を渡って来るような魔族がたまにいるそうで、その尽くがこちらのドルナ大陸で様々な事件を起こすというとても厄介で困った種族らしい。


 とりあえず、魔族を要約するとこんな感じなんだけど、全く困ったもんだよ。


 あんな特殊で厄介な連中がまた現れない事を願うばかりだね。


 支配スキルで囚われていた人達の処遇も決まったようで、牧場跡でこちらと直接的に戦闘になった人達はさすがにそのまま開放とはいかなくて、暫くの間は王都で奉仕活動に勤しむらしいね。


 この前の王都テロ事件には関わっていないのと、支配されて自分の意思で戦闘した訳じゃないのが考慮されたみたいだよ。


 サラちゃんと他の二人の女性は戦闘に参加してなかったので、取り調べと聞き取り調査が済むと鑑定で支配状態が解けてると確認された後で各々帰宅を許された。


 サラちゃんをアモーレ劇団の宿泊してる宿に送っていったら、座長のルーベンさん、お兄ちゃんのシャル君、そして劇団の皆から感謝の言葉の嵐だったよ。


 ルーベンさんからは「フミト殿、サラを見つけて頂いてありがとうございます」と感謝されたし、シャル君は泣きながら声を震わせて「フミトさん、ありがとうございます」とお礼を言われた。


 シャル君はあのイケメンの顔がクシャクシャになるくらいに泣いてたもんな。


 それだけ妹の身が心配だったんだろうね。


 アモーレ劇団はまた興行を再開して劇場も連日盛り上がってるようだ。そういえば、次はグラン連邦国に行くって言ってたよな。


 たぶん、また会いそうな気がする。


 ここ最近の王都で最大の懸案だったテロ事件の片がついたおかげで、王都も以前のような華やかさと活気が戻ってきたよ。


 公園には家族連れやカップルが安心して繰り出しているし、露店も出て賑わいが出てきてる。


 そういえば、俺はテロ事件の首謀者の魔族の男を倒した功績で、王家の家紋がデザインされた聖ミスリル勲章なるものを貰ってしまった。


 バリーさんや衛兵からの報告で、俺が関わっていたと知ったジェームズ陛下が勲章の授与をその場で決めたようで、再び王宮に出向き陛下から直接受け取る事になったのだ。


「王都の事件を解決してくれた功績により王家からミスリル勲章を授与する」との言葉を賜り、その他にも報酬を頂いた。


 俺のこの国での肩書は公式には芸術院特別顧問だから、芸術家の先生が魔族をやっつけてくれたのかと王宮内では噂になったみたい。


 冒険者ギルドのバリーさんには「フミトの兄ちゃん、A級にランクアップするかい?」と言われたけど「まだいいです」と断っておいた。


 指名依頼とか面倒そうだし、ランクはC級のままでいさせてもらうつもりだ。


 さて、引っ越し後のゴタゴタも一段落したし、そろそろ一旦王都からオルノバの街に移動しようかと、皆と話し合って決めようと思ってる。


「皆に相談があるんだけど」


「相談って何よフミト」


「この家への引っ越しも終わったし、王都での仕事も一段落ついたし、一旦王都を離れてオルノバの街へ戻らないか?」


「そうですな。フミト殿がアドバイザーを務める商会の支店も順調に軌道に乗り始めたようですし、我々も王都の拠点となるフミト殿の家もこの通り日常的に滞在出来るようになりましたからな」


「前にフミトが言っていた王都のこのフミトの家とオルノバの私達の家との二拠点生活を実践するのよね」


「オルノバのお屋敷にもフミトさんのお部屋の準備が必要ですからね」


「そうだね。俺があの屋敷に間借りする形になるから家賃が必要かな?」


「そんな訳ないでしょ。フミトとあたしは将来家族になる予定なんだから!」


「ソフィアと俺が家族?」


「そうよ、覚悟しておきなさい! フミト返事は!」


「あ…はい」


 何だかソフィアの鬼気迫る口調に無理やり言いくるめられてしまったが、ここは場を読んでおとなしく頷いておいた。何だか言質を取られたような気もするが反抗出来る雰囲気じゃなかったもんな。


 またクロードさんがそっぽを向きながら頬をプクッと膨らませて笑いを堪えているけど、絶対に後で仕返ししてやるからな!


「フミトさん、留守中のこの家の管理の手続きは済みましたか?」


「うん、クロードさんとエミリアさんのアドバイス通りに王都の管理局と商人ギルドに人を派遣してもらう手続きを済ませてきた。大事な物や貴重品は俺が収納して持ち歩くから、定期的に建物内の掃除と換気、それに庭の管理を頼んできたよ」


「ありがとうございます。それなら留守中も大丈夫そうですね」


「ああ、エミリアさんの希望通りに庭の手入れは評判の良さそうな庭師に来てもらうよ」


「フミト殿、家を持つと色々と大変なんですぞ。私からもアドバイスをしますので心配は無用です」


 その道のプロのクロードさんが居てくれて助かったよ。俺一人だけだったら右往左往してそうだしね。


「さて、オルノバへの出発は明日の朝ですね。ゼルトさん達へのお土産もいっぱい買ったし俺は準備万端です」


「あたしも王都にしかないお菓子をいっぱい買ったわ」

「私は年代物のワインを仕入れておきましたぞ」

「私は綺麗な布とお花の種を買ってきました」


 皆、それぞれ王都での買い物は済ませたようだね。

 王都では色々な事があったけど、引っ越しも片付いてようやく落ち着いたのでオルノバの街へ行けるようになった。


 明日からこの仲間達と二拠点での生活が始まるのだ。

 これからもずっと皆の笑顔を見ながら暮らしていければいいな。


 穏やかな時間を過ごしながらそんな事を思う俺なのであった。







 第一部 了

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