第110話 労いの言葉

 ソフィアが駆けつけてきて俺に抱きついてくる。


「やったねフミト!」


「ああ、やったよ! 皆は大丈夫かい?」


「うん、怪我した人達は治療しておいたよ」


 クロードさんとエミリアさんも俺のところへやってきた。


「やりましたなフミト殿」

「フミトさんやりましたね!」


 バートさん達も俺のところへやってきた。


「フミト君、俺たちは役に立てなくてすまなかった…」


「いえ、そんな事はないです。あんなにデバフに特化した常識外れのスキル持ちの魔族の男が特殊だったんですよ」


「そう言ってもらえると有り難い」


「とにかく皆の力で魔族の男に勝てたんです。喜びましょう!」


「フミトの兄ちゃんの言う通りだ。俺達は王都を恐怖のどん底に落とした事件を解決出来たんだ。勿論、最大の功労者はフミトの兄ちゃんだけどな」


 面と向かって最大の功労者なんて言われるとくすぐったいものだな。

 身体がムズムズしちゃうよ。


 でも、このまま喜んでばかりもいられないか。

 現場の後始末をしないといけないし、サラちゃんの事も気がかりだ。


 たぶん、魔族の男が死んだから支配状態は解除されてるだろうけど、さっき俺達がロープで縛ったままだもんな。支配から解けたら自分の身体が縛られてるのにきっとびっくりしてるだろう。


「バリーさん、こちらの後始末はお任せします。俺は建物の中に居る知り合いの様子を確認してきますから」


 建物の中に置いてきたサラちゃんの様子を確かめに行かないとな。

 俺にとってはサラちゃんの捜索と救出が第一目標だったしね。


 最初に侵入した建物に戻り、魔力ロープで縛っておいたサラちゃんと他の女性の姿を確かめると、既に支配状態から解けていたようで、建物の中に入ってきた俺達を見て一瞬ぎょっとした表情を見せた。


「俺達は君達を助けに来たんだ。だから心配しないでくれ」


 ゆっくりと話しかけると、まず最初にサラちゃんが俺に気づき安堵の表情を浮かべた。


「フミトさん! ソフィアさんも!」


「サラちゃん。そしてそちらの女性達もちょっと待っていてくれ。今、君達を縛ってるロープを解くから」


「みんな心配しないで。あたし達はあなた達を助けに来たのよ」


 サラちゃん以外の女性二人も俺達が自分達に危害を加える恐れがないと判断したのか、ロープを解くのに素直に身を任せてくれた。


「さて、何から説明すればいいのかな……」


「フミト殿。まず彼女達がどこまでの記憶を持っているか確認してみてはどうですかな?」


「そうですね。じゃあサラちゃんから質問するよ。君はここに連れて来られた経緯を覚えてるかな?」


「うーん、そうですね……広場で大道芸人のおじさんに手を握られて目を見つめられたのまでは覚えていますけど……それからは断片的にしか覚えていません。頭の中で誰かの声が聞こえてその指示に従っていたように感じます。フミトさん、それはそうとここはどこなんですか?」


「ここは王都の街を出てからちょっと離れている牧場跡だよ。君達はその指示を出していたと思われる大道芸人の支配スキルに操られていたんだ」


 それを聞いたサラちゃんと他の女性達も驚きの表情を浮かべる。

 残りの二人も広場で大道芸人の魔族の男に会ってからの記憶があやふやのようだ。

 やっぱりあの催眠術のようなものが支配スキルだったみたいだな。


「本当ですか? もしかして今も私は操られているんですか?」


「いや、もう心配ない。君達を支配して操っていた奴は俺が倒したからね。だから君達の支配状態は解除されているし大丈夫だよ」


「良かった。またフミトさんに助けて貰っちゃいましたね!」


「言われてみればそうなるかな。でも、君が無事で良かったよ。ギルドマスターに君達の無事を知らせないといけないからそろそろ表に出て皆と合流しようか」


「フミト殿、それが良いですな。表に居る人達も私達を待っているでしょうから」


 俺達がサラちゃん達を連れて建物の外に出ると、バリーさん達が俺達を待っていて声を掛けてきた。


「フミトの兄ちゃん、その子達がお目当ての探し人かい?」


「はい、探してた人は一人ですが同じように支配スキルで連れて来られた人も一緒です。皆それぞれ支配スキルが解けて元に戻ったようです」


「そいつは良かった。とりあえず一安心だな。こっちの方も俺達に向かって戦いを挑んできた連中も支配が解けて正気を取り戻したようだ。一応ロープで縛ったままだが治療をしておいたところさ」


 支配されて歯向かってきた人達がどういう処遇をされるのか知らないが、これから王都に連行して取り調べた後に決まるのだろう。

 魔族の男に支配されていた状態という点が、取り調べでどう受け止められるかだな。


 すると俺とバリーさんが話しているタイミングで、牧場跡の入り口からようやく王都の衛兵達が姿を見せた。


 俺達の方へ近づいてきて事の顛末をバリーさんから説明され、抵抗して捕獲された人達を王都に護送してくれるそうだ。


 バリーさんから王都のテロ事件の首謀者が魔族の男だったと聞いて皆驚いていたよ。


 一応、現場の後処理が済んだので俺達も王都に向けて帰還する事になった。


「皆、ありがとう。王都の冒険者ギルドのギルドマスターとして心から礼を言いたい。魔族の男がこの事件の首謀者だったとは予想外だったが無事に解決できて感謝している。本当にありがとう」


 バリーさんの労いの言葉を合図に俺達は皆で王都へと戻っていくのだった。

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