第116話 商会設立と木工所の紹介
アンジェラと再会して楽しい時間を過ごした翌日。
俺はオルノバの街にあるモルガン商会に向かう事にした。
アイデアと図面スケッチは用意出来たものの、俺は商売関係のプロではないのでその道のプロのモルガン商会に提案と相談をしに行く為だ。
いざ、何かを作って売ってみようと思っても材料を加工して製品となるのに必要な木工所や腕の良い職人達の確保。そして、それを売るのに必要な販売方法などもあるし、街の人に知ってもらうのに宣伝も考えなければいけない。
千里の道も一歩からじゃないけど、地味な作業の積み重ねが必要だからな。
俺の考えではまずサンプル品を作り、複数の人にモニターとして使用してもらい、使用した感想などの意見を聞きながら改善出来る部分は改善して製品化に持っていきたい。その為の相談が目的のモルガン商会訪問だ。
昨日は帰宅した後、俺が描いたスケッチ図面をソフィア達に見せ、使い道などを説明したら…
「フミト、早く作りなさいよ。出来たらあたしが一番先に使ってあげる」だってさ。
まあ、ソフィアが喜ぶ顔を見られるのなら俺としても一番嬉しいし。何だかんだで俺はソフィアが好きだからな。真っ先に使ってもらうよと約束したけどね。
そんなこんなで家を出てモルガン商会に向かって歩いていく。
まだ、モルガンさんは王都支店に残っているのでこっちの本店にはアランさんが居るはずだ。訪問のアポイントは取ってないから会えるかどうかわからないが、俺の第六感は会えると告げている。
何度も足を運んだことがあるモルガン商会に到着。
今日も店先の掃除をしていた従業員に、アランさんが居るのなら会いたいと面会を申し込んだらラッキーな事にアランさんは店に滞在中ですぐに俺と会ってくれた。
「アランさん、お久しぶりです。お忙しいところ、貴重な時間を割いてもらってありがとうございます」
「こちらこそ、わざわざ当商会にフミトさん自らお越し頂きありがとうございます……って、いやだなぁフミトさん。そんな形式張った挨拶はやめてくださいよ! あなたとは何度も会って普通に話している仲じゃないですか」
「アランさん。一応、お約束のようなものですからね」
「ははは、そうですね。ところで、王都支店開設ではフミトさんには大変お世話になりました。父から手紙で連絡を受けましたが順調に行ってるようです。それはそうと、フミトさんはいつオルノバに戻って来たのですか?」
「つい先日です。それで今日はアランさんに相談があって来たんですよ。時間はありますか?」
「フミトさんの為なら他に用事があっても最優先で聞きますよ」
「それで、今日モルガン商会に伺ったのはある物を考えたのでその相談が目的です」
「おお! フミトさんが考えた物ならば期待大じゃないですか。それである物と言いますがそれはどんな物なんですか?」
「アランさん。まず、これを見てください」
マジックバッグから昨日描いたスケッチを取り出してテーブルの上に並べる。
「ほう、この箱のような物は家具に見えますが、三角形の物の方は何なのか見当がつきません」
「ええ、箱型の物はアランさんの想像通り家具の一種です。こちらの三角形の形状の物は簡単に説明すると衣服を皺にならないように掛けておく為の道具です。三角形の物はハンガー、家具の方はクローゼットと名付けました」
「なるほど、衣服を掛けておく道具なのですか。誰もが考えつきそうですが意外と今までなかった物ですね」
「はい、ハンガーに取り付けられた金具をフックにかけたり、こちらのクローゼットの中にある突っ張り棒に引っ掛けてぶら下げて収納するんです。皺になりにくいのと服の全体像が目に見える形で吊り下げておけるので探す手間も省けます。構造も複雑ではないですし、今までの道具や家具と同じように作れるでしょう。ただ、俺としては一般庶民用のシンプルな普及品とは別に、手間暇をかけた高級志向の物も少量生産や限定生産で作りたいので、その為には腕の良い職人さんも必要なんですよね」
「確かにこれは大きな需要がありそうですね。難しい工程も必要なさそうだし、同じ物でも高級品と普及品で分けて作るのも、プレミア的な要素が付いて人とは違った物を欲しがる貴族や裕福な人にはウケがいいでしょうね」
「そこで俺はこれを機会に、今までの商人ギルドへの個人名登録から一歩進んで商会に移行しようと思ってるんです。その方が個人名登録のブローカー的なものよりも信用度が上がりそうなのでね。ただ、今までと同じように大まかなことはモルガン商会に委託してお任せしようかなと」
「フミトさんの商会は企画やアイデアを提供する商会という立場で、私共の商会が販売などを引き受けるという構図ですね。よろしいですよ、私共にも十分なメリットがありますからね」
「アランさん、ありがとうございます。そこで早速ですがモルガン商会のツテや情報網で腕の良い職人さんがいて数もこなせそうな木工所をご存じないですか?」
「うーん、一応心当たりはありますが、確実性を増す為に商人ギルドに紹介してもらうという方法もありますね。もし良ければ私も一緒に行きますよ」
「なるほど、商人ギルドか。アランさんに一緒に商人ギルドに行ってもらえるのは心強い。お願いします」
「なら、善は急げですね。商人ギルドへ行きましょうフミトさん」
俺はアランさんと一緒に商人ギルドに向かう。
前に特許と俺の商人資格の登録の時に訪問して以来だな。
二人で歩いていくと前方に見覚えのある建物が見えてきた。
「フミトさん、ギルドに着きましたよ。相談窓口に行ってみましょう」
アランさんの案内で、相談窓口と書かれたプレートが置いてある窓口に向かっていく。窓口の対面には担当らしきおっさんが椅子に腰掛けていた。アランさんがそのおっさんに話しかける。
「ブリットさん、モルガン商会のアランです。今日はこちらのフミトさんの用事で来ました。フミトさんの相談に乗って頂けませんか?」
「やあ、アランさん。アランさんではなくそちらの方の相談ですか……どんな相談でしょう?」
「どうも、俺はフミトと言います。今日、お伺いしたのは評判が良くて腕の良い職人が居る木工所を商人ギルドに紹介してもらう為に来ました。数もこなせれば尚良いのですが、そんな虫の良い条件に当て嵌まるような木工所なんてありますか?」
「ハハハ、フミトさんがご自分で虫の良い条件と言うくらいですからね。さすがにそんな好条件の木工所なんて……と言いたいところですが、あるにはありますよ」
「やっぱりないですよね……って、あるんですか!?」
「ええ、そこの木工所は腕の良い親父さんと息子さんの他にも職人が居ますから数もこなせると思いますよ。商人ギルドで紹介状を書きますから訪問してみてはどうですか。木工所との交渉はフミトさん次第ですがね」
「ありがとうございます。その木工所への紹介状をお願いします」
良かった。アランさんの言うように商人ギルドを訪問したのは正解だったな。
「出来ましたよ。この紹介状を持っていけば邪険に扱われる事もないはずですよ」
俺はブリッドさんが書いてくれた紹介状を受け取る。
その木工所の名前は『オツカ木工所』というのだそうだ。
「フミトさん、私も一緒にその木工所に行きますよ。もし契約出来たら販売担当の私共の商会も関わる事になりますからね」
「わかりました。アランさん引き続きよろしくです」
ついでと言ってはなんだが、俺の商会を設立登録しておいた。
商会名は『カミノ商会』だ。
俺の元の世界での名字の漢字「上野」の読み方を変化させた商会名にした。
そしてハンガーとクローゼットの新規登録申請も忘れずにやっておいた。
登録が済んだので俺とアランさんは商人ギルドを出て紹介された木工所を訪問しに二人並んで歩いていく。
「この先にある角を曲がったところかな」
そして、角を曲がると間口の大きい結構大きな建物が姿を現した。
「どうやらここのようですね。フミトさん建物の中に入っていきましょう」
そして、俺とアランさんがその建物の中に入っていくと……予想外の出来事が俺達を待ち構えていた。
「親父の商売のやり方は古いんだよ!」
「何を言うか! お前のやり方ではお得意様を失うぞ!」
なんと、建物の中では人が争う怒声が飛び交っていたのだった。
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