第43話 会ってもらいたい人
朝、目が覚めた。
カーテンを開け窓の外を見ると地面が濡れている。
昨夜は雨が降ったようだ。
まだ地面に残る水たまりに朝日が反射してキラキラと煌めいている。
暫しの間、窓の外をぼーっと眺めていた俺だったが、ようやくベッドから出る決意をして床に足を下ろすことにした…。
「ふわぁあ」
大きな欠伸を一回して手を上に上げて身体を伸ばす。
顔を洗いに下に降りていくと、厨房の方から野菜を切る包丁の小気味良い音が聞こえてくる。
井戸で顔を洗った後、食堂の椅子に座っていると厨房からアルフさんが顔を出してきた。
「おはようフミト君。もうすぐ朝食の準備が出来るけどここで待ってるかい?」
「えーと、そうします」
ここで新聞なんかを広げて読んでいたら、寮住まいのサラリーマンの日常だよな。
などと考えていたら、アルフさんが朝食を持って俺の座ってるテーブルに置きに来た。
パンとスープの簡単な朝食を胃に収めた俺は食器を厨房横の台に戻し、自室へ帰るべく二階への階段を上がっていった。
さてと、着替えるか。
寝間着から冒険者姿に変身しようとシャツを着替え、ズボンを履こうとした時にふと窓の外を見たら、宿の下で俺の部屋に向かって手を振っているソフィアの姿が見えた。
苦笑しながら手を振り返し、慌てて着替えて装備を身に着け下に降りていく。
宿を出ると、目の前にソフィアの姿があった。
「何だい? こんな朝早くに」
「ちょっと会ってもらいたい人がいるの」
「会ってもらいたい人?」
「うん、フミトに会ってもらいたい人は我が家の執事なの」
なんでそんな人が俺に会いたいんだろ?
「何でその執事の人が俺に会いたがってるの?」
「それがね、その人の武の実力を知らずしてあたしとフミトを一緒に迷宮に行かせるのはすぐには許可出来ませんって言うのよ。全く、ホント過保護なのよね」
「なるほどね。まあ、ソフィアはこう見えても一応王女だしな。どこの馬の骨ともわからない俺にソフィアを任せてもいいのか心配なんだろう」
「あのねーフミト。こう見えてもは余計なんじゃないの!」
「ごめんソフィア…汗。まあ、それはそれとしてその人に俺が会えばいいのか?」
「うん、だから今からあたしと一緒に来てくれる?」
「仕方ないか、その執事さんの気持も当然わかるしね。じゃあ行こう」
事の成り行きでソフィアお付きの人に会いに行く羽目になった俺。
ソフィアに案内されて、ソフィアが住んでるという家に二人で向かう。
「なあ、ところでその執事はどういう人なんだい?」
「執事のクロードはあたしが子供の頃からの付き人で、それだけでなく剣や魔法を教えてくれた師匠なのよ」
「へー、なら相当強い人なんだね」
「そうね。あたしが強くなった今も執事のクロードには模擬戦で勝てないのよ」
ほう、あのステータスのソフィアでさえクロードという執事にはまだ及ばないのか。こりゃ俺も気を引き締めていかないとな。
この前、ソフィアを送っていって別れた場所から少し先にソフィアの住んでる屋敷があった。
そんなに大きくはないが、門の奥には瀟洒な作りの洋館があり良く手入れされた庭もあって綺麗な花が色とりどりに花壇に咲いている。王女様がお忍びで暮らすには丁度良いバランスの屋敷に感じた。
門の横にある小さな扉を開けて屋敷の敷地の中に入っていくと、庭の花に水をやっていた侍女と覚しき雰囲気の女性が俺達に気づき腰を深く折って挨拶をしてきた。
「お帰りなさいソフィア様」
「ただいま、エミリア。クロードは居る?」
「たぶん、執務室にいらっしゃるかと。ところでソフィア様、失礼ですがそちらの方は?」
「この人はフミトっていうの。あたしの大事なお客様よ」
「これは失礼を致しました。どうぞ中へお入りください」
エミリアさんに案内されて屋敷の中に入る。
応接間に通されソフィアと一緒にソファーに座ってると応接間のドアが開き、一人の男性が姿を現した。
俺とソフィアは立ち上がりその男性を迎える。
背の高さは俺と同じかちょっと高いくらい。
そこには黒いズボンに白いシャツを品よく着こなした、とても素敵なダンディーでナイスミドルなオジサマが立っていた。
このクロードって執事の人、無茶苦茶カッコいいダンディーな人じゃん。エルフ族恐るべし…汗。
「ソフィア様、お帰りになりましたか。で、この方がソフィア様のおっしゃっていた御仁ですかな?」
「ええ、そうよ。この人はフミトっていうの。ねえ、フミト。彼がこの屋敷の執事のクロードよ」
俺は緊張しながらもクロードさんに自分なりに胸に手をやり丁寧な挨拶をする。
「クロードさん、お初にお目にかかります。私は冒険者のフミトと申します。ソフィアさんとは最近知り合いになり懇意にさせて頂いております。どうぞお見知りおきのほどを」
「これはこれは、ご丁寧なご挨拶痛み入ります。私はこの屋敷の執事のクロードと申します」
クロードさんが俺を品定めするように目を細めて見てくる。
そこへさっき会ったエミリアさんが応接間のドアをノックし、失礼しますと言いながらお茶を持って中に入ってきた。
「さあ、フミトもクロードも挨拶も終わったし座って頂戴」
ソフィアに促されソファーに座る。
最初に口を開いたのはクロードさんだ。
「失礼ながらソフィア様、そしてフミト殿。私の鑑定スキルでフミト殿のステータスを調べても宜しいかな?」
その言葉に顔を見合わす俺とソフィア。
まあ、いいか。ステータスは偽装中だし別に見られても構わないしな。
「構いませんよ、どうぞ」
クロードさんが俺を鑑定する。
鑑定が終わった後も、首を捻りながら眉をしかめて何やら思案をしてるようだ。
「失礼ながらソフィア様、はっきり言わせて貰いますと、フミト殿はステータスを見る限り強いとは思われません。ステータスも平凡ですし、なぜソフィア様がここまでフミト殿に拘るのか理解し難い。まあ、フミト殿には何となく不思議な気配を感じますが正直に申しましてソフィア様と行動を共にするには力不足かと……」
「フフ、さすがのクロードでもフミトの実力は見抜けないようね」
「と言いますと、ソフィア様はフミト殿が強いと申されますのか?」
「確かに俺のステータスは平凡です。クロードさんがソフィアと一緒に魔物と戦うかもしれない俺の実力に疑問を持つのは当然だと思います。そこで俺からの提案なんですけど、その不安をなくす為に一度俺と模擬戦形式で戦ってもらえませんか?」
「なるほど、実際に戦ってみてフミト殿の実力を私が判断してくれということですな」
「そうです。それで俺がクロードさんに勝ったらソフィアと一緒に行動するのを許可して欲しいんです」
「わかりました、そういう事なら喜んでお受けしましょう」
こうして俺はクロードさんと一対一で模擬戦形式で戦うことになったのだった。
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