第42話 損して得とれ
昨晩は宿に帰るとモルガン商会から伝言が来ていた。
なので、今朝の俺は朝イチにモルガン商会に行く準備をしてる。
何の用かな?
たぶん、マヨネーズやタルタルソース関連だろう。
俺は宿を出てモルガン商会に向かって歩いていく。
朝が早い商店はもう店を開けてるとこもあるな。
そんな事を考えながら歩いていたらモルガン商会に着いたよ。
「おはようございます。俺宛に伝言をもらったフミトですけど」
すると、俺の声に反応して中から出てきたのはマテオ君だ。
「あっ、フミトさん。ちょっと待ってください。今、御主人様を呼んできますね」
暫くすると、モルガンさんがやってきた。
「おー、フミトさん。わざわざ店までお越し頂きありがとうございます」
「いえいえ。で、モルガンさん今日は何ですか?」
「あのマヨネーズとタルタルソースですよ。商人ギルドに新商品登録の申請をしてたのですが、類似商品はなく無事に申請が通りましたぞ!」
「おおー、やりましたねモルガンさん!」
俺とモルガンさんはお互いの手に手を取って喜ぶ。
「商人ギルドで調べたところ、この大陸全体に同じようなものはないと認められたので、我がモルガン商会が独占的に商品として売れるようになります。もし、誰かが類似品や偽物を売ったら見つかると処罰が下るので他店は権利が保証されてる10年間は私共の許可がなければ売る事が出来ません。こういうのはその品物を扱う商人が所属する国や貴族、領地の収入にも大きく影響しますので厳しいのですよ。まあ、それでも偽物は出ますけどね」
「良かったですね、モルガンさん。もしかしたら既に同じような物が商品化されて売ってるんじゃないかと、俺もちょっと不安だったので安心しましたよ」
「ええ、でも本当に大変なのはこれからです。売れだしたら原材料の確保、それに工場の増設や従業員も増やさなければいけません。それに、他の街や王都にもモルガン商店の支店を作る事になるかもしれませんからね。ワハハ、私はつい最近までそろそろ隠居でもしようかなと思ってたのですが、嬉しい悲鳴になりそうです」
「そうですよ、まだ隠居するには早いですって」
「それでですね、フミトさん。フミトさんがアランに言っていたという実演試食販売ですが、ただで食べさせるとはどういうことですかな?」
「あー、あれですか。実演試食販売は損して得とれですよ」
「損して得とれとは?」
「例えその場では一時的に損が出ても、将来その損のおかげで大きな利益が返ってくるという意味です」
「ほう」
「ただでお客さん達に食べさせる。これは損ですよね。でも、ただで食べたお客さんがその商品を気に入って次からは常連になってくれたり、友人や知人にその商品の良さを宣伝してくれたら、その商品に興味を示して買ってくれるかもしれないじゃないですか。お客さんにこの調味料を使った食べ方や調理の例を目の前で実演してその場で無料で食べてもらうんです」
「なるほど、面白い考えですな。フミトさんは商人の才能もあるようだ」
「まあ、無理にとは言いませんけどね。でも、俺に商人の才能があるなんて持ち上げ過ぎですよ」
「いやいや、そんなことはないですぞ。それに為になる話を聞かせてもらった。改めて礼を言いますぞ。おっ、そうだ! フミトさんこれを持っていきなさい。実はモルガン商店で試作品を作ってましてな」
モルガンさんはそう言って瓶に詰められ木の蓋がされたマヨネーズの試作品を何個か持ってきた。
「フミトさんの身近な人などに使ってもらってください」
俺はありがたくそれを受け取った。
「では、また何かありましたらお呼びしてもよろしいですかな?」
「俺の都合が付く時ならいつでも大丈夫ですよ」
最後にモルガンさんと握手を交わし、俺はモルガン商会を後にした。
そうか、新商品として登録されたのか。皆が買ってくれるといいな。
モルガン商会での用事を済ました俺は一旦宿に戻る。
アルフさんを見つけ、さっきモルガン商会で貰った試作品マヨネーズの瓶を渡す。
「アルフさん、今度これをモルガン商会で売り出すらしいんですけど、知り合いの縁で貰ってきたので使ってみませんか? 調味料として野菜に付けて食べたり、焼いた肉や揚げた肉にソースとして付けて食べても美味しいらしいですよ。これともう一種類料理に使用出来るソースもモルガン商会から販売されるようなのでよろしくです」
「ほう、フミト君。面白そうだね。後で試してみるよ」
さて、今からじゃ冒険者ギルドに行っても依頼は少ないだろうな。
どうしよっかな……
そうだ、確かDランクに上がると迷宮に入れるようになるんだっけ。
今日はともかく、迷宮がどんなものか冒険者ギルドの資料室に調べに行こうかな。
よし、行ってみるか。
俺はアルフさんに声をかけ銅の帽子亭を出て冒険者ギルドに向かう事にした。
ふと上を見上げると、今にも雨が降り出しそうな空だ。
そういえば、現代社会に暮らしていた俺は雨が降ると傘を差すのが当たり前の感覚だったが、この世界では傘なんてものは差さない。
マントやローブのフードを被るだけなのだ。
ノーガードで雨なんて知ったことか、どんとこい的な人も結構いる。
これはこれでいいのかもしれないなと、傘でも作ろうかなと考えていたけど、この世界に馴染んできたのか俺は最近そう思い始めているのだった。
冒険者ギルドに到着した。
階段で二階に昇り、資料室の受付で手続きをして迷宮について調べ物をする。
ふむふむ、このオルノバの街にある迷宮はダリム迷宮というのか。
資料によると、ダリム迷宮は50階層まであるらしい。
10階層ごとにいるボス部屋の中ボスを倒さないとその下の層には進めない。
最深部の50階層のボス部屋の大ボスを倒すと迷宮は3日間その機能を停止する。
停止中は魔物も宝箱も現れない。
そして3日経過した後、迷宮はリセットされて全ての機能が復活する。
「なるほど、大ボスが倒されて迷宮が踏破されたら機能が停止するのか。あと、踏破しても、踏破者がしらばっくれてれば誰が踏破したのかわからなそうだな。まあ、普通の冒険者なら名誉を求めるだろうから公開するだろうけどさ」
もう少し資料を読んでいく。
迷宮には稀に宝箱が出現する。
隠し部屋だったり、小部屋にいきなり出たり。
中ボスからも宝箱が出る時がある。
大ボスは必ず宝箱が出る。
ボス部屋は1パーティーしか一度に入れない。
1パーティーって事は俺一人だけのソロでも大丈夫なのかな。
迷宮にもランク度があって、このダリム迷宮はAランクらしい。
世界には各地に迷宮が存在し、最高難易度の迷宮はSランクだそうだ。
Sランクの迷宮はまだ踏破されていないところばかりで、高レベルの冒険者達が挑んでるのだそうだ。
「ふー、今日は良い勉強になった。情報はやっぱり大切だもんな」
満足した俺はギルドを後にして宿に戻った。
宿の扉を開けると、俺が帰ってきたのを見つけたアルフさんがすっ飛んできた。
「フミト君、さっき貰ったこれだけどいいねこれ!」
「そうですか、お口に合いましたか?」
「うん、私も自分なりに何に合うのか試してみたんだが、油で揚げたじゃがいもに付けて食べたら美味しかったよ」
「へー、そんな食べ方もあるんですね」
餅は餅屋といったところか。
庶民の間で食べ方のレパートリーが増えていけば、どんどん売れるようになるだろう。
期待に胸を膨らませ、その場を後にした俺はひとっ風呂浴びに鼻歌を歌いながら風呂場へ向かうのだった。
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