第41話 おんぶしながら歩き出す
成り行きでハンスさんの宿にソフィアを連れて向かう事になった俺。
隣のソフィアはウキウキしながら歩いている。
「ねえ、もうすぐ着くの?」
「ああ、あと少しだよ」
そして俺達はハンスさんの宿に到着。
宿の扉を開けて顔だけ出して中の様子を見る。
食堂には二人の宿泊客がのんびりと座っているだけだ。
「ソフィアはここでちょっと待ってて。俺は中に入って聞いてくるから」
「うん、わかったよ。待ってる」
俺は宿の中に入り、食堂で寛いでる人達に軽く会釈をしながら厨房に向かい呼びかける。
「すみませーん、ハンスさんはいらっしゃいますか? フミトです」
俺の呼びかけに厨房の中から返答がくる。
「おう、いるぞ! フミトの兄ちゃんかい。今日は何の用だい?」
「ゼルトさん達はいますか?」
「おう、あいつらなら宿に帰って来てるぞ」
そしてハンスさんは厨房から出てきて階段下まで行き、二階に向かって呼びかける。
「おーい、ゼルト! トラン! フミトが来てるぞー!」
ゼルトさん達が降りて来るまでの間、俺はマジックバッグから桃を10個取り出しハンスさんに渡す。
「これ、依頼のついでに貰ったんでハンスさんにもお裾分けです」
「おー、マジか! これ桃じゃねーかよ! フミト本当に貰っていいのか?」
俺が頷くと、ハンスさんは大喜びで厨房に引っ込んでいった。
丁度、そのタイミングで二階からゼルトさんとトランさんがお互いにリーザさんとポーラさんを連れて降りてきた。
「よおー、フミトじゃねーか!」
「おや、フミト君。今日はどうしたんだい?」
「おほほほ、フミト君元気そうね」
「フミト! 久しぶり!」
皆、元気そうだ。
そうだ、ソフィアを外に待たしてたっけ。
「ちょっと待ってて下さい。今日は俺の知り合いがもう一人ここに来てるんで呼んできます」
宿の外へ出てソフィアを呼ぶ。
「ソフィア、いいよ宿の中に入って」
「入っていいの?」
宿の中に入り、皆にソフィアを紹介する。
「この子は最近知り合いになった冒険者のソフィアです」
「あたしはソフィアと言います。皆さんよろしくね」
ゼルトさんとトランさんは微笑ましげにソフィアを見てる。
ポーラさんも同様だ。
あっ、一人だけ違う反応の人がいるんだが……
そう、リーザさんは腰に両手を当てて、まるで弟が連れてきた彼女を品定めするようにソフィアを睨みつけてる。
リーザさん怖いんですけど…
「ふん! フミトはあたしの弟分だ。あんたがフミトに相応しいか、あたしがしっかり吟味してやるよ」
ヤバい、雰囲気を変えなくちゃ。
「あー、あー、そういえば俺Dランクに昇格したんです。だから今日はその報告も兼ねてここに来たんですよ」
「おー、フミトやったなおめでとう」
「フミト君ならすぐに昇格すると思ってたよ」
「おほほ、甥っ子が昇格するみたいで嬉しいわ」
「すげーなフミト! さすがあたしの弟分だ!」
「皆さん、ありがとうございます。あと、皆さんにお裾分けがあります」
そう言ってバッグから桃を取り出し両夫婦に10個ずつ渡す。
「桃なんて暫く食ってないから嬉しいぜ」
「ポーラ、後で部屋で食べよう」
「それと、ゼルトさん夫婦はマジックバッグを持ってますか?」
「いや、持ってねえ。トランさんが持ってるから荷物の持ち運びはいつも頼んでるんだ」
「なら、ゼルトさんこれを使って下さい」
俺は泥棒からの戦利品のマジックバッグを出しゼルトさんに渡す。
「おい、どうしたんだよフミト。こんな高価な物を俺達にくれるっていうのか?」
「実はですね、依頼で果樹園の警備をしてたのですが、果樹園に侵入した泥棒がマジックバッグ持ちで、その泥棒を俺が捕らえて戦利品を貰える権利のおかげで俺の物になったんですよ。俺は既に爺さんの形見のマジックバッグを持ってるんで、出来ればゼルトさん達に使って欲しいなと…」
「おお、本当かよ! 本当に俺達が貰っていいのか?」
「ええ、本当ですよ。どうぞ使って下さい」
「フミトありがとうな。恩に着る」
「いえいえ、気にしなくていいっすよ。じゃあ、依頼と戦利品で予想以上に収入があったので今日も俺が奢りますよ。皆さん飲んでください」
「「「「「おおお!!!」」」」」
皆、飲みだすと陽気になる。
冒険者ならたまにはこういう息抜きも大切だよな。
いつもは渋いおっさんのトランさんも酒を飲んでる時は嬉しそうな顔になる
ゼルトさんは豪快に飲んでるな。
ポーラさんはお酒よりも食べる方がメインのようだ。
で、リーザさんなのだが…
なぜかソフィアと意気投合して仲良くなって二人で話しながら飲んでるぞ。
まさかこういう展開になるとはな…
話してる内容が聞こえてくるのだが、リーザさんがソフィアに男の落とし方がどうたらこうたらとか教えてる…リーザさん何話してんの!?
「男は女に頼られると嬉しくなるし女の涙に弱いんだ。男を落とすには女の武器を最大限に活かすのがコツさ」
ソフィアも真剣に聞いちゃ駄目ですよ!
そうだ、そろそろソフィアを帰さないとな。あまり遅くなってもあれだし。
「あの、そろそろソフィアを家まで送って行きたいので俺とソフィアは帰ります」
すると、トランさんが「うん、そうした方がいいね。後は俺達で飲もう」
さすが出来る上司。暴走しないよな。
皆に挨拶をしてハンスさんの宿を出る。
飲み始めたのが早い時間だったので、まだ夜はそれほど更けてない。
「じゃあ、ソフィア。君の家の近くまで送っていくよ」
「ありがと、フミト」
暫く二人で歩いてると…
「ねえ、フミト。あたし少し酔っちゃったみたい。おんぶして」
フラフラとした足取りのソフィアが俺に甘えるように寄りかかってきた。
「うーん、仕方ないな。わかったよ」
俺はソフィアをおんぶしながら歩き出す。
ムニムニとした二つの感触が俺の背中に押し付けられている。うん、出るとこも意外に出てるようだ。
ちなみに俺は精神値がやたらと高いので普段はいつも賢者モードみたいなもんなんだよね。性欲は意識しなけりゃ表には出てこない。まあ、その気になればたぶん狼になっちゃうだろうけど…汗
「どっちに行けばいいんだ?」
「あそこの角を右に曲がって」
そうやって歩いていたら、俺はふとある事に気がついた。
俺、全状態異常耐性があるからほとんど酔わないんだよな。
そういえば、ソフィアにもあったような記憶が…
まあ、いいか。
角を曲がるとソフィアが俺に降ろしてくれと言ってきた。
どうやらソフィアの住んでる場所はこの近くのようだ。
「ここでいいのか? なら気をつけて帰れよ。じゃあ、またな」
「うん、ありがと。フミトまたね」
手を振って俺は後ろを振り向き自分の宿に向かって歩く。
気分良く夜空の星を眺めながら…
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