第118話 高級品を作るのに必要な素材

 オツカ木工所での親子のトラブルも片付き、俺とアランさんはオツカ親子と仕事の契約と打ち合わせをしていた。


「最初の試作サンプル品ですが、俺が描いたスケッチ図面を元にして何とか作れそうですか?」


「うむ、あんたのスケッチ図面は側面や上面なども丁寧に描かれていて立体的で分かり易い。スケッチの絵に惹き込まれるようで素晴らしいし、素人とは思えない出来栄えじゃ。作る前からこの家具のイメージが湧き出してくるよ。装飾を凝らせば価値の高い物が作れると思う」


「確かにそうだね。親父の言うように俺の目から見ても芸術的な雰囲気を感じる素晴らしいスケッチ図面だ。本職の俺よりも上だと思うよ。シンプルな作りのクローゼットなら材料取りと組み立てもそう難しくなさそうだし量産出来そうだ」


 二人に褒められて嬉しいぞ。


 元の世界の職場での研修で、設計部門の人のレクチャーを受けながら図面に接する機会があったので描き方の初歩を覚えていたんだよね。その経験がこっちの世界でこんな形で役立つなんて思ってなかったよ。


「ありがとうございます。とりあえず試作品としてクローゼットは高級品を二個、試作品なので装飾のデザインはそれぞれ別デザインで。そして量産品の方は数個、ハンガーは数十個程作ってもらえますか? 高級品ですが試作品なので費用は惜しまず作ってください。試作品を見てから適正な値段をどうすべきかなど、コストカットするかどうかを判断します。そして納期の目処や量産品タイプの見積もりも今日教えてもらえるとありがたいんですけど」


「そうだな。高級品の方は装飾を施すのに少し時間が掛かるが、量産品の方はそれほどかからないと思うぞ。ハンガーはうちの職人達に聞いてみないとわからないが、流れ作業や分担作業でやれば仕事も捗るだろう。クミオ、どうだ?」


「ああ、親父の言うようにクローゼットの量産品とハンガーは出来るだけ早く作るつもりだ。量産品といえども、しっかり作るつもりだから安心してくれ」


「では、品物が出来上がりそうになったらモルガン商会まで連絡をしてくれますか? アランさん、お願いしていいですかね?」


「ええ、構わないですよ。私の商会に連絡をくださればフミトさんにもすぐにお知らせします」


 よし、あとは当座のお金を渡しておくだけだな。


「そうだ、ちょっと待っとくれ。ワシが担当する高級品の方だが、一般的に凝った装飾を施すような家具などの高級品は普通の木の素材ではなくて魔物の素材を使うのが定番なんじゃよ。あんたが売り出したいという高級な値打ち物にはより良い素材が必要になるんだ」


 へー、そうなんだ。


「理由を聞いてもいいですか?」


「家具の素材に使う材料は伐採したばかりの木では駄目なんじゃ。上手に乾燥させて水分を抜き、製品にした時に反りや曲がりの出ない素材が必要になる。一般的な家具はこれらがクリアされれば大丈夫でしっかりとした品物が出来上がる。だがそれよりも数段階上の極上品を作るには、ある魔物の素材がうってつけなんじゃよ」


 魔物の素材か…

 それってどんな魔物なんだろう。


「ちなみにその魔物の名前は?」


「依頼主のフミトさんも知ってるかもしれんが、高級素材として必要な魔物はトレントじゃよ」


 なるほど、高級素材とは魔物のトレントだったのか。


「なぜトレントが高級素材なんですか?」


「さっきの話でも少し触れたが、トレントは水分の乾燥具合が最初から丁度よい塩梅なんじゃ。それに素材としても固い割にはすこぶる加工がしやすく、木彫り装飾をする場合も棘や捲れ、ささくれが出ずに表面が艷やかで美しく綺麗に仕上がる。高級品を作るには欠かせない素材じゃ」


「木工加工品には理想の材料って訳ですね」


「うむ、だがオツカ木工所ではその肝心のトレントの材料を切らしていてな。今から材料を発注してもうちに納入されるのがいつになるのかわからんのじゃ。冒険者ギルドに討伐品として収められるトレントの中でも、損傷が少ない物だけが高級素材として認められるからの。しかも、傷が少ない上物はなかなか入ってこないのじゃ」


 そうか、今から発注して上手い具合にどこかで上物の在庫を持っていればいいけど、それさえもなかったらギルドに依頼して冒険者達にトレントを狩って来てもらわないといけないんだな。そうなると、試作品を作り始めるまで時間が掛かってしまうな。


 いや、待てよ。

 トレントとは以前どこかで戦ったような記憶があるんだけど……


 思い出した!


 ずっと前にソフィアと一緒に迷宮を潜っていた時に、ソフィアの弓のお手並みを見る為にトレントを狩ってもらった事があったっけ。確か俺のアイテムボックスに倒したトレントをそのまま放り込んだ覚えがあるぞ。アイテムボックスを確認してみたら結構な量が入ってた。品物を売り出して軌道に乗るようになったらギルドに依頼して冒険者達に狩ってきてもらうつもりだけど、試作品は俺の手持ちの物を使ってもらおう。


「俺がそのトレントの材料を持ってますよ」


「そりゃ本当かい?」


「ええ、どこかに出す場所はありますか?」


「なら、裏に倉庫があるからそこに出してもらえるかな」


 オツカ親子に先導されてアランさんと一緒に歩いていくと、木工所の裏手に材料を保管しておく為の大きな倉庫があった。


 うん、この広さなら大丈夫だな。

 俺は皆に背を向けてアイテムボックスからトレントを取り出した。


『ズシーン!』


 大きなトレントが地響きを立てて倉庫の床に出てくる。

 出てきたトレントは傷もなくて綺麗なままだ。

 てか、改めて出したトレントを見てみると幹も太いし結構大きいな。


「これでどうですか?」


 いきなりトレントが出てきて驚いていたカツサさんとクミオさんがトレントに近づき品定めを始める。


「こりゃ凄い、上物だ」

「傷がなくて最高の素材だ」


 良かった、親子二人に気に入ってもらえたようだ。


「試作品で使う材料はこちらから無料で提供しますよ。これで足りますか?」


「こんな大物なら充分すぎるくらいじゃ。よくこんな上物を上手い具合に持ってたもんだな」


「前に迷宮でトレントを狩ってそのまま収納してたんですよ。ほとんど忘れてましたけどね」


「フミトさんは商人なのに迷宮にも潜るのかい?」


「いや、俺の本業は冒険者で商人は副業みたいなもんなんです。モルガン商会さんと知り合ったおかげで商人にもなったんですよ」


「フミトさんのおかげでモルガン商会は大繁盛させてもらってます」


 アランさんもお世辞が上手いな。

 よし、後は見積もりを出してもらって手付金を渡すだけだ。


「それじゃよろしくお願いします」


「頑張って良い物を作るので期待しておいてくれ」


 契約の手続きを済ませた俺とアランさんはオツカ木工所を後にする。

 最初に遭遇した時の親子間の険悪な雰囲気は既にどこかに消し飛んで、今は親子二人並んで笑顔で俺達を見送ってくれているぞ。


 うん、やっぱりこの方がいいよね。


 帰り際にモルガン商会に寄って、新しく設立したカミノ商会との業務提携契約をしておいた。アランさんの方でカミノ商会担当の従業員を付けてくれるそうだ。


 最後にアランさんに少しだけ頼み事をして俺は帰宅の途についたのだった。

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