第120話 一枚の手紙
試作品を受け取り服屋を巡った後、モニター役として頼んでおいたハンスさんにはクローゼットとハンガーのセット。そしてゼルトさんやリーザさん、アンジェラなどにはハンガーを渡して評価を頼んでおいた。
それで暫くの間使用してもらったのだが、ハンスさん夫婦には合格点を貰えた。
だが、ゼルトさんからは少しばかり注文がついた。
理由を聞いてみると…
「俺の身体がデカくて服もデカいから少し小さいんだよな。肩の部分が足りないんだ」
確かに統一規格の標準品だと服の肩の部分の幅が足りないみたいだな。
そこで標準サイズとは別に違うサイズも用意する事にした。
それ以外の他の面々からは概ね好評のようだ。
改善点もわかったし、オツカ木工所とモルガン商会にもその旨を伝えておいたよ。
後は彼らに任せておけば大丈夫だな。
◇◇◇
さて、一連の新商品の件も一段落したある日。
俺の元に一枚の手紙が届けられた。
ふむ、誰からだろう?
封を開けてみると、以前王都で同じ宿に泊まっていてモルガンさんに紹介した商人のアントニオさんからだった。俺の家の所在を知らなかったようなので、とりあえずモルガン商会宛に手紙をよこしたらしい。
そういえば、アントニオさんはモルガン商会のレストランとフランチャイズ契約を結んで俺の食品サンプルを受け取り自分の国に戻って行ったんだよな。
アントニオさん元気にしてるかな?
とりあえず、手紙の中身を読んでみよう。
ふむふむ、あれから自分の国に戻ってレストランを立ち上げたみたいだな。
制服や衛生管理も取り入れて、雇った従業員にも方針が受け入れられてるようだ。
食品サンプルも街の人達に好評で、それだけを見に来る人もいるらしい。
ハハハ、確かにあれは珍しいもんな。
で、店の営業も軌道に乗って上手くいってるので、俺に見物がてらに視察に来ませんかとの誘いだ。直に見て評価してもらいたいと書いてあった。もし、来るのなら旅費も滞在費もアントニオさんが出してくれるらしい。
まあ、出してくれる旅費や滞在費は俺一人分だろうけど、この際だからソフィア達も連れてグラン連邦に観光がてら行ってみるのも面白そうかも。
幸いなことにお金には困っていないし、商売を除けば基金に自動的にお金を供出する以外は散財するタイプではないのでそれなりにお金はある。
まだ見ぬ地方にも興味があるし、招待を受けてもいいかなと俺の気持ちは傾いてるんだ。俺一人で決めるのもなんだしソフィア達に相談してみよう。
ソフィアやクロードさん、エミリアさんに声をかけ応接室に集まってもらおう
そして声掛け後、皆が応接室に入ってきた。
「皆、集まったようだね」
「フミト、いきなり呼び出してどうしたの?」
「フミト殿、私に何か用ですかな?」
「フミトさん、何かあったのですか?」
「とりあえず、話を聞いてくれ。実は王都で泊まっていた宿で知り合いになったグラン連邦の商人から手紙を受け取ったんだ」
「グラン連邦の商人?」
「フミト殿、それはもしかしてモルガン商会のレストランオープンの時にフミト殿と話していた御仁ですかな?」
「そうそう、クロードさんの言うようにレストランオープンの時に俺にモルガンさんを紹介してくれと訪ねて来た人だよ。その人が俺達と同じ宿に泊まっていたアントニオさんなんだ。追加で食品サンプルを作ってたのはその人に渡す分だったのさ」
「フミト殿が言っていたモルガン商会とのフランチャイズ契約の相手ですな」
「さすがクロードさん。その通りです」
「その人からの手紙の内容が私達を集めた議題ですかな?」
「うん、アントニオさんからの手紙には俺をグラン連邦に招待したいと書かれていたんだ。そこで観光がてらソフィア達も俺と一緒にグラン連邦に行ってみないかって訳さ」
「へー、グラン連邦ね。あたしは一度も行った事がないから興味あるわ。最近はちょっと退屈だったし一暴れしたいわね」
「おいおい、ソフィアは暴れに行くつもりかよ」
「いやねー、言葉の綾ってやつよ。まさかあたしが本気で暴れる訳ないでしょ」
「……」
「もう、その沈黙は何なのよ!」
「ハハハ、ゴメンゴメン。何となくソフィアが暴れるのを想像しちゃってさ。じゃあ、皆はグラン連邦へ行くのを承諾って事でいいのかな?」
「あたしは当然フミトに付いていくわ」
「なら、私も付いて行かざるを得ませんな」
「私も行きます!」
「それじゃ、日取りを決めたら皆で行こう」
視察旅行とは名ばかりの観光旅行になりそうだが俺も楽しみだ。
またオルノバの街を留守にするので、親しい知り合いにも伝えとかないとな。
◇◇◇
ゼルトさん達にグラン行きを伝えたら、ゼルトさんのパーティーも同じ時期に仕事を受けていて北の方に向かうらしい。俺達とは逆方向だな。
リーザさんには「お前もこっちの仕事に一緒に来いよ」と言われたけど、「俺の身体は二つないので無理です」と断ったら鬼のような顔になっていた。
リーザさん怖いです。
それで、アンジェラにも伝えにいったんだが…
「フミト、もし良ければ私も連れて行ってくれないか。自分の分の費用は出すから」
「えっ!? アンジェラもグラン連邦に行きたいのか?」
「ああ、グラン連邦は工芸が盛んなんだよ。織物や陶芸品、ガラス細工など美術的価値がある品物を手掛けている人が大勢いるんだ。そういうのを目にすれば何かしらのインスピレーションが湧いてくると思ってね。もし邪魔じゃなければ同行させて欲しいんだ。君達の邪魔にはならないように気をつけるからさ」
「まあ、俺は構わないし邪魔だとは思ってないよ。ただ、一緒に行くメンバーに確認を取らないといけないから返事はそれからでいいかな? もし、駄目だと言われたら諦めてもらうかもしれないが」
「そうなったら仕方ないけど、出来るだけ良い返事を期待してるよ」
まさか、アンジェラが俺達と一緒に同行したいとは…
旅は道連れって言葉を思い出したが一応確認を取らないといけないな。
アンジェラの家を出てモルガン商会に向かう。
暫くオルノバを留守にするのでオツカ木工所の事も頼んでおかないとな。
「フミトさん。今日はどのような御用ですか?」
「アランさん。実は近日中にグラン連邦に行く用事が出来まして、その間の事をモルガン商会さんに頼んでおこうかと思って来たんです。例の品物ですが、あとはモルガン商会さんにお任せして大丈夫ですか?」
「それは大丈夫ですよ。アイデアを頂いて製品化した後の事はお任せ下さい。ところで、グラン連邦に行くとおっしゃいましたが理由を聞いてもよろしいですか?」
「いいですよ。実は王都で知り合ったグラン連邦の商人さんから招待を受けたんですよ。ほら、モルガン商会とフランチャイズ契約を結んだ商人さんです」
「ああ、なるほど。グラン連邦のアントニオさんですね。なら丁度良かった。ついでと言っては何ですが、うちの商会からグラン連邦のアントニオさんの商会へ荷物を運んでくれませんか。マヨネーズの注文があったのですよ。今回は荷馬車ではなく、フミトさんのマジックバッグに入れて運んでもらうという形で。勿論、報酬も出しますよ」
依頼の中身を聞けば、俺達の旅費や向こうでの滞在費用が賄えるだけでなくお釣りが出る程だ。
「荷物を運ぶのは構いませんが、こんなに報酬を貰っていいのですか?」
「フフフ、いいんですよ。滞在費と旅費に使って下さい。フミトさんなら護衛も兼ねてるようなものですからこれ以上の安心はないですよ」
「ありがとうございます。アランさんの好意に甘えさせて頂きます」
見積もっていた俺以外の旅費が丸々チャラになるのは正直嬉しい。
アランさん様々だな。
とりあえず、必要な人達への旅の通知を終えたので家に帰ろう。
アンジェラの件も相談しないといけないからね。
俺はそんな事を考えながら家へ向かって歩いて行くのだった。
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