グラン連邦編
第121話 川べりの街へ
王都で知り合った商人アントニオさんからグラン連邦への招待を受けた俺。
なんやかんやで芸術家のアンジェラも一緒に行きたいと言い出した。
ソフィア達に相談したらあっさり「いいよ」という返事が帰って来た。
「本当にいいの?」と聞くと…「うん、フミトが芸術に目覚めるきっかけを作った人なら面白そうだしね」だってさ。
そういう訳で、本日はグラン連邦への出発当日の日だ。
空は快晴、空気は澄んでいて昇ったばかりのお日様が眩しい。
旅の準備を済ませてソフィアの屋敷前で待っていると、向こうの方からカジュアルな装いに身を包んだアンジェラが手を振りながら歩いてくるのが見えた。
「おーい、フミト!」
「こっちだアンジェラ!」
俺もアンジェラに向かって手を振る。
「フミト殿、アンジェラ殿も来たみたいですな」
旅の前に一度、ソフィア達にアンジェラを紹介してあるからソフィアやクロードさん、そしてエミリアさんも既に顔馴染みになっている。
「フミト、ごめんよ。皆を待たせてしまったかい?」
「いや、俺達も今さっき外に出てきたばかりだよ。だから謝らなくていいって」
「ようこそアンジェラ殿」
「そうよアンジェラ。あたし達は全然待っていないから気にしなくていいのよ」
「そうですよアンジェラさん。ソフィアさんの支度が遅れたので私達もさっき出てきたばかりですから」
「もう、エミリアったら! そんな事は言わなくていいの!」
あっ、一応アンジェラの前でエミリアさんはソフィアを様付けじゃなくてさん付けで呼ぶように打ち合わせ済みだ。王都に行った時と同じだね。
「相変わらず君達は面白いね。私も君達に余計な気を遣わなくて済むから楽だよ」
一見して、アンジェラは芸術家肌で気難しそうに見えるけど、実際に話してみるとその綺麗な外見とは裏腹に気兼ねがいらないんだよね。
「さて、アンジェラ。この前会って打ち合わせした時にも説明したけど出発前にもう一度おさらいしてみようか。それじゃこの旅の行程の管理を受け持つクロードさん、説明をよろしくお願いします」
「わかりました。この私めが今回の旅の予定を簡単に紹介致しますぞ」
「クロード、頼んだわよ」
「お任せあれフミト殿、ソフィア殿。では、今回グラン連邦へ行くにあたっての道中行程ですが順を追って説明致しましょう。まず、初日の本日ですがオルノバの街を出て暫く南下します。すると、夕方前にはドルナ大陸の中央山地を源にして南方の海に向かって流れる大河ダナウの川べりの船着き場がある街ハンブレに着きます。ここで一泊して船に乗り川を下り、途中寄港地のある街で泊まりながら船を乗り継ぎ南のアドニア海を目指します。アドニア海に出る寸前の河口付近にある大きな街がグラン連邦の都市ビネツワで、ここで船を降ります。後は陸路を街道を使って進みアントニオ氏の住む街ミラニオに行く予定ですな」
そう、今回の旅は船に乗るのだ。
ドルナ大陸を流れる大河ダナウ。川幅が広く大きな船が行き交い都市間の交通には需要な川でもある。優雅にゆっくりと流れ水量も豊富なので、北の穀物を南に運び、南の鉱物を北に運んだりと物流にも貢献しているのだ。
無論、人々の交通の足としても船は大いに役立っていて、欠かせない交通手段となっている。
こちらの世界に来てそんな船旅をする機会があるとは思っていなかったので、俺も密かに楽しみにしてるんだよね。海ではなくて川なら急流でもない限り波もそんなにないので揺れないだろう。
念の為に聞いてみたら、このダナウ川は河口まで水量豊かなままゆったりと流れているらしい。一安心だな。
「船旅ってロマンがあるわよねー」
「船から眺める景色を見ると私の芸術意欲も高まりそうだよ」
「船のデッキから眺める夕日が楽しみです!」
ソフィアもアンジェラも船旅を楽しみにしてたからね。
客室も奮発して道中の船は全て一等船室を予約しておいた。
俺とクロードさんが男同士の同室で、ソフィアとエミリアさんとアンジェラが女同士の同室の組分けだ。
「よし、皆揃ったようだしそろそろ出発するか」
「楽しい旅の始まりね!」
「「「おー!」」」
まず、街の馬車乗り場へ向かい川べりの街ハンブレを目指す。
馬車は貸し切りで予約済みだから停車場で俺達を待ってるはずだ。
停車場に着いて、何台か停まっている馬車の中に貸し切りハンブレ行きの看板を掲げた一台の馬車が停まっている。どうやら俺達が予約した馬車のようだな。
馬車の前に立っている御者さんに話しかけてみよう。
「ハンブレ行きの馬車を予約したフミトと言います。この馬車がそうですよね?」
すると、俺と同年代くらいの御者さんが顔をこちらに向けて笑顔で頷いた。
「そうです、あなたがフミトさんですか? 馬車の準備は出来てますからどうぞ乗ってください」
この馬車で合っていたようだね。
早速、俺達は馬車に乗り込み席に座っていく…のだが、片側三人掛けで向かい合って座るベンチシートなのだが、両端にソフィアとアンジェラ、向かいの席にエミリアさん、そして俺はソフィアとアンジェラに挟まれて座ることになった。クロードさんはエミリアさんの隣だな。
でも、何で俺はソフィアとアンジェラに挟まれてるんだろう?
席の割り振りは女性陣が決めてるので文句は言えませんけどね。
クロードさんが小声で「フミト殿は両手に花でモテモテですな」と言ってるけど、席順は俺が決めたんじゃないですよー。
俺達が座ったのを確認して、御者さんが馬車を出発させてグラン連邦へ向けての旅が始まった。とりあえず今日の目的地は川べりの港町ハンブレだ。そこで一泊して次の日の早朝に船に乗り河口付近の街までの船旅だ。
馬車の中では既にソフィアとアンジェラが俺を挟んでお喋りを始めたけどさ。
真ん中に挟まってる俺って会話の邪魔じゃないの?
しかも、ソフィアは俺の手を握りながら喋ってるし、アンジェラは俺の肩に手を置きながら喋ってる。エミリアさんも会話の仲間に加わって賑やかだ。
「俺が君達の間に居ると会話の邪魔みたいだから席を替わろうか?」と提案したのに、ソフィアもアンジェラも二人共に「邪魔じゃないしフミトはそのままでいいよ」と口を揃えて言ってる。
俺的には意味がわからないけど、二人がそれでいいのなら仕方ない。
途中、馬を休ませる為に街道沿いの広場で一旦停止。
ソフィアが「お菓子タイムよ!」と言いながら用意してきたお菓子を取り出すと、阿吽の呼吸でエミリアさんがティーセットを取り出す。アンジェラが旅に持っていく茶葉の選定担当だったらしく、上品な香りのする茶葉を取り出してエミリアさんにサッと渡す。お湯を注いで皆にそれぞれカップが行き渡る。
おいおい、君達息の合った見事なチームワークじゃないか。
「アンジェラとお喋りしてたら時間が過ぎるのもあっという間ねぇ」
「そうだね、私もソフィアと話してると時間が経つのが早く感じるよ」
ソフィア達はずっと話してたもんな。
よく話題が尽きないもんだ。
ソフィアとアンジェラは気が合うようで俺も嬉しい。
たまに俺やクロードさんにも話を振ってくるから俺も暇つぶしになったよ。
休憩を終えてまた馬車が走り出す。
街道を暫く走ってまた広場で停車して軽い昼食を取り、また走るのを繰り返して日が傾きかけた頃にようやく今日の目的地ハンブレに到着した。
街の向こうの方に目を向けるとダナウ川にかけられた桟橋に停泊してる船が見えてるな。意外と大きな船なので乗り心地も心配なさそうだ。
「フミト殿、とりあえず今日の宿に向かいましょう。今日はこの街に泊まって明日からは船旅ですからな」
「そうですね。明日からの船旅に備えて宿で体を休めましょう」
俺達は明日からの船旅を控え、宿で休んで英気を養うのだった。
今日から始まる平凡な俺の異世界生活 野良 乃人 @noranohito
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