第59話 鍛冶屋のおっさんに頼み事
観光の街トルニアまでの護衛依頼をレノマさん本人から正式に受ける事が出来た。
レノマさんはとても気さくな人で、男爵だが全然貴族らしくない庶民的な人だった。
レノマさんの屋敷を後にした俺とゼルトさん達は途中で別れ、俺は護衛依頼を受けた事をソフィアに報告しに行く。
ソフィア達にも色々と旅の準備があるし、早め早めに報告しておかないといけないからな。
ぶらぶらと街の中を暫く歩くといつものソフィアの屋敷に到着した。
エミリアさんは庭の隅にある
今日のエミリアさんは薄いオレンジのスカートに白いシャツ姿だ。
「エミリアさん、こんにちは」
俺の挨拶に気がついたエミリアさんが作業の手を止めて俺の方を見る。
「あっ、フミト様。こんにちは」
エミリアさんが門まで来て開けてくれる。
屋敷の中の応接間に通され、暫く待つように言われ椅子に座って待つことにする。
俺が隠密スキルを発動していない時は、たぶんソフィアは謎レーダーで俺が近くに居るのを感覚的に掴んでるはずだが、そこは一応こういう家のお約束なのかすぐには出てこない。
タイミング的にあと30秒くらいだなと予想した俺は脳内時計で時間をカウントして待っていると27秒付近でソフィアが扉を開けて現れた。
惜しい!
「フミト、どうしたの? 何か悔しがってるように見えたけど…」
「いや、そんな事ないよ。たぶんソフィアの気のせいだと思う」
俺は素早く笑顔を作ってごまかす。
「ああ、それよりもトルニア行きが決まったから報告に来たんだ」
「決まったんだ!」
そのタイミングでエミリアさんがお茶とお菓子を持って応接間に入ってきた。
「あっ、そうだ。ねえ、エミリア。あなたもトルニアに行くのだから準備しててね」
「はい、ソフィア様。私も一緒に行けるなんてとても嬉しいです!」
「そうと決まったら新しい水着を買いに行かなくちゃね。エミリアの水着も必要だからエミリアも一緒に買物に行くわよ。今から泳ぐのが楽しみだわ」
一応、護衛依頼なんだけど。
ソフィアの頭の中は既に観光リゾート気分なんだな…
まあ、確かに向こうでの滞在期間は自由にしていて構わないらしいけどさ。
「もしかして俺もソフィアの買い物に付き合うのか?」
「何言ってんのフミト。水着の買い物にまで付き合わせたりしないわよ。それにどんな水着か先に知られるよりも現地でお披露目した方がいいでしょ」
「確かにそうかもしれないな」
実際、付き合わされたら面倒だなと本音では思っていたのでラッキーだ。
そうか、水着か。
俺も買っておいた方がいいか。ソフィア達とは別の店で買おう。
その後、トルニアまでの細かい行程や予定を伝えて羊皮紙にも書いておいた。
「じゃあ、報告も済ませたし俺はそろそろ行くよ。クロードさんによろしくな」
「わかったわ。じゃあ出発当日にまた会いましょうフミト」
ソフィアの屋敷を出て俺も水着を買いに街の洋服屋に行ってみる。
洋服屋の店員に言われたが、男の場合はビキニタイプ、短パンタイプとハーフパンツタイプがあって、海や川などにいる魔物の毛を布に織り込んで水を弾いてるのだそうだ。
「じゃあ、これをください」
男物は色が黒か青しかなかったので青のハーフパンツタイプにした。
洋服屋を出た俺はある事を思いつき、それが売っている店に足を運ぶ事にした。
とりあえず、思いついた物を数店の店を巡りながら買っていく。
「よし、こんなもんかな」
買った物をマジックバックに放り込んで店を後にする。
最後に以前、配達依頼を受けたハーゲン鍛冶屋に頼みたいものがあったので寄ってみる。
久しぶりに訪れるハーゲン鍛冶屋。
今日も工場の中からは『トンテンカン!』と鉄を叩く音が聞こえている。
小さい方の扉を開けて中を覗くと、ドワーフ族の鍛冶職人二人が作業している後ろ姿が見えた。
えーと、ハーゲンさんとマルコさんだったっけ。どっちがどっちなんだろ?
「こんちはー。ハーゲンさんに用があって来たんですけど!」
すると、左側のドワーフのおっさんが作業の手を止めて俺の方を振り向いた。
「おう、わしがハーゲンじゃ。何か用かな?」
「どうも、この前アルベルトさんへの配達依頼で依頼を受けさせて頂いたフミトです」
「ん?…おう! 覚えておるぞ! あの時はご苦労じゃったな。で、今日は何の用じゃな?」
「ええ、こちらで金網って出来ますか? こんな感じのやつなんですけど。出来れば金網の周囲に鉄の枠を付けてくれるとありがたいんですが。それと四角い鉄の入れ物ってあります? なければ丸いやつでもいいです」
俺は羊皮紙に絵を描いてハーゲンさんに説明する。
暫くその絵を眺めていたハーゲンさんだったが…
「うちには無いが、すぐに作ってやるぞ。おい、マルコ。この紙に描かれたような品物を今すぐ作ってくれ」
呼ばれた弟子のマルコさんがこちらに歩いてきて、俺が描いた絵を手に取り眺めた。
「ああ、これなら出来るよ」
そう言ったかと思うとおもむろに材料を棚から取り出して作業を始めた。
「マルコさん、網目は大きくて構いませんから」
「わかったよ、チェーンメイルに比べたら楽な作業だ」
マルコさんを見ると、早速作業に取り掛かりだした。
器用に網目を作っていく。作業をじっと見ていたら謎知識が降りてきて鍛冶スキルを獲得したようだ。嬉しいけど今のところ使いみちが思いつかないぜ。
「おい、おまえさん。名前はフミトと言ったな。前に材料入れとして作っておいた四角い鉄の入れ物があるがどうだ?」
ハーゲンさんが指を指した先には手頃な大きさの四角い鉄の入れ物が置いてあった。
これならいけそうだなと判断した俺はそれを買う事にする。
「いいですね。それも買わせて頂きます」
金串も仕入れる。そして1時間くらい経っただろうか、マルコさんの作業が終わったようだ。
「ほい、出来たぞ。こんなもんでどうだい?」
マルコさんの手には綺麗な網目に織られた金網が握られていた。
「これで充分です、ありがとうございました。代金はいくらですか?」
「親方! 代金はいくらにしときます?」
「出来合いの品物、そして材料費と工賃合わせて金貨一枚ってとこだが大銀貨七枚でいいや」
俺はバッグから大銀貨を取り出してハーゲンさんに渡す。
「また、何か頼み事があればうちに来ればよいぞ」
「仕事中に押しかけて無理を聞いてくれてありがとうございました」
「なーに、気にするでない」
俺はハーゲンさんとマルコさんにお礼を言い、鍛冶屋を後にしたのだった。
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