第80話 煉瓦倉庫と東方ドーム
昨晩はぐっすり寝る事が出来たので今朝は気分爽快だ。
俺の普段は結構早起き体質で、時間的には朝の6時くらいには目が覚めてしまう。
まあ、朝早く起きてもこれといってやる事がないので宿の庭でも散策してみるか。
皆を起こさないように手早く着替え、ドアを静かに開けて部屋の外へ出る。
俺が部屋の外へ出て2階まで下ってくると、丁度同じタイミングで階段に出てきたおっさんと出会い頭にぶつかりそうになった。無言のままでも気まずいので、軽く会釈して「おはようございます」と挨拶をすると、向こうも俺に「おはようございます」と言いながら会釈をしてきた。
下の階まで階段で一緒になったのでお互いに軽く自己紹介をすると、おっさんはグラン連邦国から来ている商人だそうだ。
(グラン連邦国の人とは初対面だな)
おっさんは朝から用事があるらしく入口を出て街へ出かけていった。俺はというと、久しぶりにラジオ体操もどきで身体をほぐす。脳内であの音楽を鳴らしながら身体を動かしていたらすっかり身体が軽くなったよ。
体操が終わって部屋に戻ると、クロードさんとエミリアさんが既に起きていてモーニングティーを飲んでいた。「ソフィアは?」と聞くと、ソフィアも起きて部屋で身支度を整えているらしい。
「クロードさん、今日も案内をお願いします」
「承知しました。午前中はレガリアの案内をしますので、それが終わったら午後からは自由行動にしましょうか。私も個人的に行きたい場所がありますからな」
「それで構わないです。俺も午後からは予定があるし」
後ろでドアの開く音が聞こえてソフィアが自分のベッドルームから出てきた。
「みんな、おはよう。あたしもモーニングティーを飲もうっと。フミトも飲むよね」
ソフィアは自分でティーポットから二つのカップにお茶を注ぎ、一つを俺に渡してきた。
「へー、ソフィアも結構気が利くんだな」
「まあね、フミトはあたしの未…の……様だしね」
ソフィアの声が小さくてよく聞こえなかったが、どうせ大した事じゃないだろう。
朝食を済ませて外出用の服に着替えた俺達は、昨日と同じように王都レガリアの街をクロードさんに案内してもらうべく宿から街中へ向けて出発した。
「それでは中央公園に行きましょうか」
王宮とは逆側のレガリアの中心部にその公園はあった。大きな公園で樹々が植えられていて池もある巨大な公園だ。散歩している人もいればベンチに座っている人もいる。鳥のさえずる声も聞こえてきてとても癒やされる。
「この公園は王都民の憩いの場ですな。昼になると露店も出ますし、子供を連れた母親が来て子供を遊ばせながら母親同士で世間話などをしてる光景を見かけます。夜はデートスポットにもなっておりますな。池ではボートにも乗れますぞ。樹々の花が咲く季節はお花見をする人でいっぱいになります」
(こっちの人も公園の楽しみ方は同じなんだな)
「あたしは森の生まれだから、こういう樹々がいっぱい生えている場所に来ると何となく落ち着くわ」
「私もです。鳥のさえずる声に凄く癒やされます」
(ソフィアもエミリアさんもこの公園を気に入ったみたいだな)
公園内を散策して満足した俺達は次の目的地に向かう事にした。
「次は東方文化の面影が残る場所に行きましょう」
次に俺達が向かったのは東方煉瓦倉庫だ。
ここは昔、一時期アンドール王国から派生した一族がこのレガリアを治めていた時期に建てられた煉瓦作りの建物がある地域だ。その当時、物資の集積場として建てられた煉瓦作りの倉庫は今では倉庫としてではなく、内部も改装されて様々な役割を果たしている。王都民にも有料で貸し出されているので、ちょっとしたイベントなんかも開かれているようだ。
「イルキアを始めとする西方諸国には煉瓦作りの建物という文化がなかったのです。まあ、煉瓦で建物を建てるのも生産からなにからかなりの労力が要りますからな。西方諸国にも技術は伝わりましたが、継承はされなかったのですよ」
(赤茶色の煉瓦の建物はアンティークっぽい風情があって良いよな)
「これって長方形の赤っぽい石を積み上げてるのかしら?」
「不思議な石で出来た建物ですね」
「ソフィアもエミリアさんも煉瓦は初めて見るのか」
「あら、フミトだってずっと森に居たって言ってたから初めてじゃないの?」
(あっ、そうだった)
「煉瓦作りの建物は俺も初めて見るよ……す、凄いな…汗」
二人とも疑り深い目で見ないでくれるかな。
「それでは次は東方ドーム聖堂にいってみましょう」
(クロードさんナイス!)
煉瓦倉庫を後にして次なるは東方ドーム聖堂だ。ここから歩いて行ける距離なので、聳え立つドーム状の屋根を持つ建物の外観が既に見えている。四角や三角の屋根ばかりの建物の中でそのドーム状の屋根の形は否が応でも目立っているな。
「これが東方ドーム聖堂です。この丸い形をした独特な形状の屋根が東方建築の聖堂の特徴なんです。崇拝する神様はセレネ様で同じでも、地域や文化によって教会の建物の形は独自の発展を遂げたのですな」
(ところ変われば品変わるじゃないけど、文化や建物もその地域独自の発展をしてるんだな)
ドーム聖堂の下まで来たがこりゃ凄い。大きなドーム型の丸屋根が異彩を放っていて迫力満点だ。観光名所になるのも頷けるね。
「それではフミト殿、建物の中に入りましょう。このドーム聖堂は今は教会としては使用されておらず、芸術博物館として過去の歴史の貴重な遺物や芸術品などを展示しております。まあ、建物自体も一種の貴重な遺物ですからな」
「そうなんですか。面白い有効利用の仕方ですね」
入り口でお金を払って芸術博物館の中に入ると、数々の遺物や芸術品があちこちに展示されていた。壁には人物画や風景画があり、昔の剣や鎧などの武具や防具、工芸品や銅像などもあったりと、芸術博物館の名に恥じない展示物に目を奪われる。
(そうだ、芸術といえばアンジェラに紹介状を貰った事だし、後で暇を見つけてアンジェラの先生や友人を訪問してみようかな)
「エルヴィスにもこんな博物館が欲しいわね」
「色々な物があって圧倒されてしまいます」
館内をゆっくり見学していると時間の経つのも忘れてしまいそうだ。
芸術博物館を堪能した俺達は、名残惜しい気持ちはあったがもうすぐお昼という事で後ろ髪を引かれる思いでそこを後にしたのだった。
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