第67話 女子はそういう情報に敏感なのよ
トルニアに到着して二日目の朝を迎えた。
昨日の夜からソフィアとエミリアさんが俺の顔をしきりに伺っているのはなぜなんだろうな? もっと普通に接してきてもいいんだぞ!
警護依頼は昨日で一先ず区切りがついたので、今日から暫くの間は休暇だ。
ここ何日かは晴天が続いており、絶好の休暇日和だね!
今日の俺達の予定は、午前中は街の中を散策する予定だ。
そして、暖かくなる昼頃からは湖で湖水浴を楽しんじゃおうって感じかな。
リーザさん達も昼から俺達と合流して湖水浴の予定。
試しにアーノルドさんとシルベスタさんも誘ってみたら、二人とも非番になるので俺達と一緒に湖水浴をするのが楽しみだと言っていた。
朝食後、宿のラウンジで皆が集まり簡単な今日の予定のおさらいをする。
「朝のうちに宿に頼んでおくと、湖の畔にあるお店に頼んで借りる予定のコテージにデッキチェアと飲み物を運んでくれるから必要な人は私に言っておいてくれ」
トランさんはこういう事をやらせると抜かりがないというか、細かいところによく気がつくのでマネージャータイプの人だと思う。
冒険者を引退後は自分の宿を開きたいという目標があるから、何かと頼れる存在だもんな。
「湖畔のコテージを借りたんだってさ」
「そうね、今日はよく晴れて暑くなりそうだから泳いだ後は日陰に居たいのでコテージは嬉しいわ」
「私もソフィア…さんと同意見です」
確かに今日は暑くなりそうだ。
「じゃあ、俺は人数分のデッキチェアと適当な飲み物を頼んでくるよ」
トランさんに伝える。そして集合場所は予約をした湖畔のコテージに決まった。
「いやあ、フミト殿。私は久しぶりの水泳が楽しみですな」
クロードさんは泳ぐのが楽しみそうだ。
きっと泳ぎ方も優雅でダンディーなんだろうな…
さて、泳ぐ前に街中を歩いたりして近所を散策してみよう。
クロードさんは昼からの湖水浴までの間、ラウンジで優雅に過ごしていたいとの事で、散策に行くのは俺とソフィアとエミリアさんの三人だ。
宿を出てメインストリートがある場所まで歩いていく。
トルニアのメインストリートには軽食の食べ物屋さんやアクセサリー屋さん、お土産物屋さんやお洒落なカフェが店を並べていて、観光客があちこちの店を覗いたり、夫婦やカップルと見受けられる人達が小洒落たカフェで談笑中だ。
この世界は紅茶などの原料になる茶葉だけでなくコーヒー豆もあるからね。
「お洒落な雰囲気の店がいっぱいあって、さすが観光地って感じだな」
「本当ね、思わず財布の紐が緩みそうになるわ」
「男女のカップルがいっぱい居ますね」
確かにここへ来る前にソフィアが言っていたようにトルニアの街を歩いてたり、カフェで談笑中の観光客はカップル率が高い。
家族連れや女子だけのグループも見かけるが、男同士のグループはまず見かけない。そんな街を平凡な俺が超可愛い女の子を連れて歩いてるなんて夢のようだ。
今更ながら、この街は奥さんや彼女の居ない男にとっては敷居の高い街なのだなと再認識する俺だった。
俺だってパーティーを組んでなければ、確実にぼっちの可能性が高かったからね。リーザさん達と会わなければ、最初の街オルノバに行かなかったかもしれないし、オルノバの街に行かなかったらソフィア達とも出会ってなかったかもしれない。こうしてソフィア達と知り合ったのもラッキーというか運命だったのかも…
そんな事を考えていたら、ソフィアが真面目な顔をしてモジモジしながら俺に質問してきた。
「そういえばさ、フミト…昨日の夜お風呂場であたし達の話し声聞こえたよね?」
うわっ、どうしようかな。ソフィアだけじゃなくてエミリアさんもモジモジしながら不安気な顔で俺を見てくるし。全然聞こえなかったって言うのも白々しいから当たり障りのなさそうなところだけ聞こえた事にしとくか…汗
「えー、確かに少し聞こえたかな…色がピンクとか綺麗とかどうとか…」
俺の答えにソフィアもエミリアさんも顔を真っ赤にして胸を押さえながら恥ずかしがってるんだが?
ほら桜色の肌とか肌が綺麗とかの表現もあるし、ピンクと綺麗は比較的無難なところを言ったはずなのに何か気まずいぞ。
まずい、ここは強引に話題を変えた方がいいかもな。
「な、なあ…二人…とも何か欲しいものはないか? 俺が何か買ってあげるよ?」
「えっ、フミトがあたしに買ってくれるの?」
「フミト…さんが買ってくれるなら何でも欲しいです」
おっ、二人とも顔は真っ赤なままだが話題変更に食いついてきたな。
二人を連れてアクセサリー屋さんやお土産物屋さんを回っていく。
部屋で使えるような小物入れを買ってあげた。
ついでにティーカップを買ってあげたのだが、なぜか二人ともペアのティーカップを欲しがったので俺がペアのティーカップを二人に選ばされた。
二人とも一個は俺が持ってろって?
それじゃ二つでセットのを買った意味がないんじゃないかな。
そう思ったけど、二人からの圧力が凄くて断れませんでした…
お洒落なカフェに入って皆でお茶を飲む。
こういう観光地のカフェで女子と飲むお茶はとびきり美味しいね。
ケーキでも頼むかって言ったら「泳ぐ前だし、水着になるから…ごにょごにょ」と言って食べ物はいらないそうだ。
カフェでまったりとした時間を過ごしながら店内を眺めると、どこどこのお貴族様がこの店を訪れましたとか、有名な冒険者がこの店を褒めてくれましたとか、訪れた人のサインが書かれた紙が壁に貼り付けてあった。
こういう宣伝方法は異世界も元の世界とあんまり変わらないんだな。
そういえば、店の前にもどこどこで紹介されましたって看板があったような…
「ねえ、ソフィアがカフェに入る時にこの店を選んだけどそれってたまたまの偶然?」
「偶然じゃないわ。この店は結構有名な店なの。オルノバでも知ってる人がいるわ」
「ええ、私もこの店は聞いた事があります」
「そうなんだ。俺はそういう情報に疎くてさ」
「女子はそういう情報に敏感なのよ」
「そうですよフミトさん。女子はそういう情報に敏感なのです」
なんだかなー、俺ちょっと複雑な気分だよ…
まあ、そんなこんなで散策や買い物、カフェでのお洒落で優雅な時間も終わり、俺達は一旦宿に戻ってきたのだった。
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