第33話 先生冥利に尽きる

 なんと、この世界で二人の神様の加護を受ける事になってしまった俺。

 自分なりに推測してみると、アーク神様が主神様で女神セレネ神はそのアーク神様の属神様のようだ。

 思わぬ展開に一瞬頭に中が真っ白になった俺だが、一人も二人も同じようなものかと無理やり納得する事にしたのだった。


 で、気になったので改めて【アーク神の加護】と、女神セレネ様から頂いた加護、【女神セレネの加護】。この二つを鑑定眼を使って必死に鑑定したら何と驚きの結果だった。


【アーク神の加護】は加護の恩恵によってヒューマンからハイヒューマンに進化する事により、寿命が200年になってステータスも軒並み上昇する。それに加えて【女神セレネの加護】は更に上乗せで寿命が100年長くなるそうで二つ合わせた合計の寿命が300年に伸びるらしい。それに加えてステータス値には現れないが魅力も大幅に上昇するようだ。


 つまり、俺は300年生きる寿命を神様の加護によって与えられた事になるのか。


 いや、マジでびっくりだよ。俺なんかがそんなに生きちゃっていいの?


 まあ、あくまでも寿命なので途中で何らかの不慮の事態で死んじゃう可能性もあるけどね。

 とにかく、ありがたいのは間違いないのでこの先自分なりに生きていこうと決意した。


 さて、今日は孤児院の依頼が完了する日だ。

 報酬はそれなりだが、子供たちにものを教えるというやり甲斐のある依頼で俺は充足感に満たされた毎日を送っていた。

 だが、それも今日が最終日だ。


 孤児院に到着する。

 ドアを開けると子供たちがいつものように飛びついてきた。


 あー、今日でこんなやり取りも終わるんだな。

 寂しさに胸が締め付けられそうだ。


 少し感傷的になった俺だが、気を取り直して子供たちとの最後の授業に向かう。



 ◇◇◇


 そして最後の授業が終了した。

 シスターのアンネさんから子供たちへの説明が始まる


「えー、今日でフミト先生との授業は終了です。皆良く頑張りましたね。それではフミト先生からも皆さんに挨拶がありますのでお行儀よく聞いてくださいね」


 子供たちもそろそろ俺の授業が終わりそうなのを薄々感じていたらしく、黙ったまま俺とシスターの姿を見ている。

 お別れの挨拶を子供達にしないとな。


「皆さん、短い間でしたが俺の授業を受けてくれてありがとう。皆が一生懸命覚えてくれたので毎日が素晴らしい授業になりました。皆さんは親が居ないという理由でこの孤児院で暮らしていますが、そんなハンデをものともせずに皆明るく、そして優しく、そして逞しい子供たちだと先生は思っています。先生が教えた事が将来きっと君達の役に立つと信じています。君達は可能性の大きな塊です。是非とも真っ直ぐな道を進んで幸せになって下さい。先生は皆と会えてとても…とても楽しかったよ」


 俺の挨拶が終わった。

 涙ぐみそうになってくる。


「……………」


 暫く下を向いて無言で黙っていた子供たちが次々に立ち上がり、俺に向かって駆け出し抱きついてきた。

 普段は澄ましているアンジーちゃんも泣いて俺にしがみついている。

 子供たちに揉みくちゃにされながら、先生冥利に尽きるとはこういう事なんだろうなと俺は感動していた。

 子供たちの頭をわしゃわしゃと撫でながらこの依頼を受けて本当に良かったと心から思う俺だった。



 名残惜しいが、いつまでもこうしている訳にもいかない。

 既にシスターにサインを書いてもらった依頼書を持ち、後ろ髪を引かれる思いで俺は孤児院を後にしてギルドに依頼完了の報告に向かう。

 その道のりの途中で、何か孤児院やそこにいる子供たちに出来る事はないかなと考えながら歩いていく…

 ふと、俺はある事を閃いた。


 上手くいけばいいな。


 俺にも可能性の塊が少しあるかもしれないな…


 気分が高揚してきた俺は冒険者ギルドに到着して中に入る。

 ラウラさんの一般受付の列に並び順番が来るのを待つ。


「次の方どうぞー」


「依頼完了の報告に来ました。これが依頼者のサイン済みの依頼書と俺のギルドカードです」


 そう言って依頼書とギルドカードを渡す。


「はい、確かに依頼は完了のようです。フミトさんお疲れさまでした。孤児院の依頼を引き受けて下さったようでありがとうございます。ギルドにも孤児院出身の職員がいるんですよ」


「そうなんですか。その人には是非とも頑張って欲しいですね」


「嬉しいお言葉ありがとうございます。ところで報酬の受け取りはどうします?」


「それじゃ現金でお願いします」


「わかりました。それでは今回の依頼報酬孤児院からの依頼なので領から補助が出て金貨1枚になります」


 お金を受け取り、立ち上がろうとしたが聞きたい事があったのでラウラさんに聞いてみる。


「すみません、依頼とは関係ないのですが、食料品とビネガーや香辛料は市場でまとめて買うのがお得ですか?」


「うーん、そうね。まとめて買うなら市場がお薦めね。でも街中の店もその店独自の物が売ってるわよ」


「ありがとうございます。とても参考になりました!」


 俺はラウラさんに礼を言い、ギルドを後にして買い物に行く。

 まず、市場へ行き必要な食材や調味料を買っていく。

 ついでに街中の店で食器や茶器、茶葉などを買っておいた。


 よし、宿に帰って早速試してみよう。

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