第32話 二つの神の加護持ちになる
孤児院の子供たちに、簡単な読み書きや計算を教える依頼を受けた俺はお互いに自己紹介をして初日は言葉の読み方を教えた。
無事に初日が終わり、孤児院からの帰路に俺は九九の表を作る為に羊皮紙やペン、インクを購入した。
早速、宿に帰って九九の表を作る。
俺が子供の頃に覚えた九九の表をまさか俺自身が作って子供に教えるなんてな…
依頼二日目を迎え、今日も孤児院に教えに行く。
孤児院に着くと子供たちが歓迎してくれる。
子供たちの無邪気な笑顔もなかなかいいものだ。
やんちゃな子もいるので、俺の腰にしがみついたり、体当たりしてくるのはご愛嬌だけどね。孤児を世話するシスターも大変なんだろうな。
「わーい、フミト先生だ!」
「フミト先生今日もよろしくね」
「フミト先生、俺と推理勝負しろよ!」
推理勝負とか、意味がわかりません…
「フミト先生、私があなたの彼女になってあげてもよろしくてよ」
いや、アンジーちゃん、君は何者ナンデスカ?
今日も読み書きの勉強をして、キリの良いところで休憩だ。
子供たちが孤児院内の広場で遊ぼうと俺を誘ってくるので一緒に遊ぶ事にした。
鬼ごっこをしたり、手を繋いでダンスを踊ったり。
子供たちは元気だから俺は振り回され気味だ。
一人の子供に肩車をしてあげたら「ボクもボクも! あたしもあたしも!」と、結局全員を肩車する羽目になってしまった。
アンジーちゃんはそういうのは嫌がるのかなと思ったが、予想に反してノリノリで俺の肩車を喜んでいたよ。
「下僕を従えている気分になりますわ」と言っていたが、本当に君は何者なんですか?
子供たちの遊ぶ声に誘われたのか、門の向こうにはフードを被った女性や近所の奥さんらしい数人のギャラリーの姿があり、俺達の遊ぶ姿を見ていてちょっと恥ずかしかったけどね。
休憩が終わり、また読み書きの勉強を教える。
小さな子供たちは集中力が切れやすいので、一気に詰め込もうとせずに少しずつ教える事にしてる。
まあ、子供は物覚えが凄く早いから今のペースでも大丈夫だろう。
そんなこんなで毎日を過ごし、読み書きはかなり出来るようになった。
休息日の休日を挟んで次の日から足し算引き算、そして九九も教える。
これも子供たちは物覚えが早く、足し算引き算はすぐに覚え、そして九九の表を見ながら
「いんいちがいち、いんにがに、いんさんがさん…ににんがし、にさんがろく…ごごにじゅうご、ごろくさんじゅう」といった具合にどんどん覚えていった。
割り算も掛け算の逆の応用で10個のりんごを2人に均等に分けると1人分はいくつになりますかみたいな感じで教えていく。
シスターと相談して、そろそろ依頼の完了が近い事を告げ、明日いっぱいでこの依頼は終了ということに決まった。
シスターのアンネさんは「子供たちもフミトさんのおかげで一生懸命覚えてくれてとても助かりました」と感謝の言葉をくれる。
「いや、俺のおかげじゃなくて子供たちが優秀なんですよ」
実際、子供たちは結構優秀な子が多かった。
これなら将来は道を外さなければきっと大丈夫だろう。
「フミトさんをこの孤児院に遣わしてくれた事を神様に感謝しますわ!」
さすがシスターだけあって、神様への信仰心が強そうだ。
そういえば、この孤児院の隣には建物があったよな。
孤児院の施設ばかりにずっといたのでそっちの方には行かなかった。
シスターのアンネさんに聞いてみようかな。
「ところでアンネさん、この孤児院の隣にある大きな建物って教会か何かですか?」
「そうですよ、隣の建物は神様に礼拝出来る教会です。フミトさん、もし良かったら神様にお祈りしていきませんか?」
せっかくだから行ってみよう。アーク神様に直接俺の近況を伝えられるしね。
「なら、是非お祈りさせてください」
「わかりました、じゃあ私が案内しますね」
アンネさんの後ろに付いて孤児院を出る。
すぐ隣にある教会の敷地の正門と思われる場所から中に入っていく。
白くて綺麗な建物だ。三角に尖った屋根が特徴的で、周りを木々に囲まれてるせいか静謐な雰囲気が漂う。
シスターに促され、教会の建物の中に入っていく。
両脇にはベンチが並んで置かれ、正面には木製の立派な台が置かれている。
中央の通路を歩いていき、台の前に立ち上を見上げる。
そこには拠点にあったような彫刻の紋章が飾ってあった。
おや、この紋章は三日月のような形のモチーフになってるな。拠点のは太陽のような形だったと記憶してたけど…
腑に落ちないながらも正面に向かって俺はお祈りをした。
『あら? この人、主神様であるアーク様の加護を受けてるわ。暫く隠遁するから後はよろしくって言って引きこもってるはずなのに。もうアーク様ったら…アーク様の加護を受けてるのなら信頼出来る証だし私もあげない訳にはいかないわね』
すると上の方から何やら声が聞こえてきたような気がした。
『そなたに私の加護を与えましょう。いつでも私が見守っていますからね』
続けてこんな言葉も聞こえたような気がしたら、少し身体が暖かくなったような気がして目を開いたら少し身体も光ってた。
条件反射的に周りを見回してみたらシスターも俺の後ろで目を瞑って祈ってる最中だった。
シスターもようやくお祈りが終わり瞑っていた目を開ける。
俺はその場でシスターに問いかける。
「あの、シスター。今更ながらなんですけど…この教会で崇拝されている神様ってどなた様なのですか?」
「あらあら、フミトさんったら真面目な顔してそんなとぼけた冗談を言うなんて」
「………」
「もう、この大陸全体で皆から崇拝されている女神セレネ様に決まってるじゃありませんか」
俺は一瞬、何が何だかわからなくて目眩がしそうになった。
そういえば、さっき声が聞こえて主神がどうたらとか、私も加護がどうたらとか聞こえたような気がするなと思い出し、念の為に自分のステータスを確認してみた。
すると、《加護》のところに【女神セレネの加護】という新しい加護が増えていたのだった。そして新しいユニークスキルも増えていた。
どうやら俺は二つの神の加護持ちになったみたいだ。
思案顔の俺の表情を見てシスターのアンネさんが心配そうに声をかけてくる。
「フミトさん、どうかなさいましたか?」
その声で我に返った俺は慌ててごまかす。
「いや、何でもないですよ。久しぶりにこういう正式な教会でお祈りしたのでちょっと緊張しちゃったのかも…汗」
「なら良かったです。どうかフミトさんに神の加護があらんことを…」
知ってか知らずか、そんなタイムリーなアンネさんの言葉を背に受けながら俺は教会を後にしたのだった。
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