第34話 モルガン商会への提案
朝が来た。
昨日試した事は上手くいった。
たぶん、現時点でこの世界にはないものが出来たと思う。
市場でも街の店でもなかったしな。
あとはこれをどうやって上手く活用させるかだな。
羊皮紙に計画表を書く。
あとは直接の交渉次第だ。
どうなるかわからないがやるだけやってみよう。
俺は材料や完成品をマジックバッグに詰め込んで宿を出た。
目的地はモルガン商会だ。
モルガンさんとは今日会う約束はしてないので飛び込みで行く事になる。あの時、困った事があったらいつでもこれを持ってきなさいと名刺を渡されたけど大丈夫かな。
暫く歩くと見覚えのあるモルガン商会が見えてきた。
さあ、これから商人との戦いだ!
商会の裏手に回る。
丁度、従業員と思われる人が掃除中だったので尋ねてみる。
「すみません、冒険者のフミトと言いますが商会主のモルガンさんはいらっしゃいますでしょうか?」
「冒険者のフミトさんですか? モルガン様とのお約束はありますでしょうか?」
「いえ、約束はしていないのですが…」
「それだと難しいかもですね。モルガン様はお忙しい身ですので」
「やっぱり約束がないと難しいか」
従業員とそんなやり取りをしていると、その声を聞きつけたのか俺と同い年くらいの青年が店の中から出てきた。
「おや、誰かお客様かい?」
その声を聞き、おれはすかさず答える。
「約束はしてないのですが、どうしてもモルガンさんにお会いしたいと思いやってきました冒険者のフミトと言います」
それと一緒にモルガンさんから渡されたサイン入りの名刺を青年に見せる。
「おや、その名刺は…親父のサインも書かれているようですね。ちょっとその名刺を見せて頂けますか?」
俺から受け取った名刺を確認していた青年は俺に向かい話しかけてきた。
「失礼致しました。親父が自分のサイン入りの名刺を渡した人はいつでも歓迎致します。どうか店の中にお入り下さい」
そう言って俺に名刺を返してきた。
青年に続いてモルガン商会の店の中に入っていく。
応接室と思われる部屋に案内され、座って暫くここで待つように言われた。
座り心地のよいソファーに座りながら、このソファーはお値段以上なのかなと考えて暫らく待ってると、応接室のドアが開きモルガンさんがさっきの青年と共に姿を見せた。
俺はソファーから立ち上がってモルガンさん達を迎え入れる。
「おー、あなたはあの時私達一行を助けてくれたフミトさんではありませんか。今日はまたどうしましたかな?」
「覚えて下さっていましたか。はい、あの時のフミトです。今日はモルガンさんにお願いと交渉事があって参りました」
「ほう、お願い、そして交渉事ですか。詳しい話を聞きましょう。その前に私の息子を紹介しませんとな。こちらに居るのが我がモルガン商会で番頭を務めている息子のアランです」
「父より紹介されましたモルガン商会の番頭を務めさせて頂いておりますアランと申します。父を助けて頂いて本当にありがとうございます。私からもお礼を言わせて頂きます」
「そうじゃアランよ、店の誰かに言ってお茶と菓子を持ってきてもらえ」
「わかりました父上。おーい誰かいるか?」
その声を聞き、若い従業員が駆けつけてくる。
「お茶と菓子を三人分頼む」
「承りました」
「いやあ、フミトさん。あれ以来ですがこの街はどうですかの? 気に入りましたか?」
「はい、気に入りました。この街では不便なく過ごさせて頂いてます」
「そうですか、それは良かった。フミトさんも元気そうで何よりですな。それでお願いというのは…」
そこで、さっきの従業員がお茶と菓子を持って部屋に入ってきたので話を中断する。
「はい、出来ればこの部屋の人達のみで話したいのですが…」
「ほう、私と息子のアランとフミトさんですか。よろしいでしょう。アラン、この部屋の鍵を閉めなさい」
アランさんが部屋の鍵を閉める。
それを確認して俺はマジックバッグの中から昨日作った完成品と材料をテーブルの上に置いた。
「おや、フミトさんもマジックバッグ持ちですか?」
「はい、死んだ爺さんの形見なのです」
「なるほど、そんな大事なものなら是非大切に使ってください。そうすればお爺様も喜びますぞ」
「ありがとうございます。で、今日のお願いなのですが、俺が持ってきた新しい調味料をモルガン商会独占で売り出してもらいたいと思って交渉にやってきました。俺が森で爺さんと暮らしてる時に偶然出来たものです。まず、このテーブルの上に出した入れ物に入ってる調味料の味見と評価をしていただけませんか?」
俺がテーブルの上に置いた調味料とはマヨネーズとタルタルソースだ。
実はこの世界で何を作ろうか最初は迷ったが、色々と考えた末に断腸の思いであえて平凡な俺に合わせて定番モノのマヨネーズにした。マヨネーズを作ったのでついでにタルタルソースも作った。他にも食品系の候補はあるが、それは機会があったら出していきたい。
簡単に作れる日用品とかも候補にあったのだが、まだこの世界の生活スタイルや文化、流通事情などを把握しきれていないので、工夫次第で誰もが考えつきやすい食品系の物ならばすんなりと疑われずに受け入れられるだろうと考えたからだ。森から出てきたばかりの設定の俺が工業製品などを作り目立つのもあれだしね。
あとはマヨネーズやタルタルソースの類似商品がこの世界にまだ存在してなければ上手くいくはずだ。
「この調味料はマヨネーズとタルタルソース言います。経費がそれほどかからず儲けも確実だと思われます。とりあえず味見をしてください」
そう言いながら、俺はバッグの中から茹でた野菜やスティック状に切ったきゅうりとニンジンを出す。
モルガンさんとアランさんは興味深そうに小さいヘラで俺が作ったマヨネーズを掬い指の上に落として味見を始めた。
「おお! これは面白い味ですな! 私も各地を旅してきましたが今まで巡り合ったことがない味だ」
「少々酸っぱいが病みつきになりそうな味です!」
おっ! 掴みはオッケーかな。
では、次にそのマヨネーズをこの茹でた葉野菜や棒状に切ったきゅうりやニンジンにつけて食べて下さい。
アランさんが応接間の食器入れからフォークを持ってくる。
ヘラで器の中にある葉野菜や棒状のきゅうりやニンジンにマヨネーズをかけていく。
モルガンさんと一緒に食べ始めると二人共に夢中で食べていく。
「これは美味しいですなぁ」
「うん、旨い! これなら売れる!」
「鶏肉をマヨネーズと塩胡椒で漬け込んで焼いて食べても美味しいですし、油で揚げた揚げ物にマヨネーズをかけて食べるのも美味しいです。あとは茹でた海老やや蟹につけて食べても美味しいはずです。ここにマヨネーズを置いていきますので後で試して下さい。あと、タルタルソースもパンの具にしても良いですし、油で揚げた揚げ物にも合うと思います」
「うむ、これは色々な食材に合いそうですな」
「お二人にちょっと聞きたいのですが、こういう新しい商品は開発した人やお店の品物に対する権利が保護されたりするのですか?」
「うむ、商品として新しいと思われるものを開発したら商人ギルドに出願して権利を保護してもらうことも出来ます。そして新しいものと認められたら商人ギルドに登録されて権利が10年保護される。今回のケースですとレシピと商品としての登録になりますな」
「そこで相談です。このマヨネーズとタルタルソースを製品化してモルガン商会で新商品として出願登録してくれませんか?」
「それは大いに結構な話だが、そうするとフミトさんの取り分は?」
「商人ギルドのような公的なところの登録はモルガン商会の名で全てお任せして、俺はモルガン商会とマヨネーズとタルタルソースのレシピの貸与という形で商会との個人的な契約だけを結びたいんです。そうすれば表向き俺の名前は出ませんしね。この場で契約してもらえればレシピを教えます」
「なるほど、上手く考えましたな」
「それで、お互いの利益配分ですけど純利益の三割を俺の取り分って事でどうですか?」
「純利益の三割ですか? そうなると我がモルガン商会がアイデアも出さずに濡れ手に粟で純利益の七割も儲けさせてもらう事になりますがそれでフミトさんは宜しいのですか?」
「別にそれで構いません。設備投資をして人を雇って生産販売するのはモルガン商会ですからね。あと1つ条件があって、俺の取り分の三割のうち二割は俺の取り分で残りの一割をモルガン商会の名前で孤児院や恵まれない子供の為に役立ててやってもらえませんか? 子供基金を作ってくれるのでも良いし、それならモルガン商会は富だけでなく篤志家としての名誉も得られると思いますがどうでしょう?」
「おお! 素晴らしい! フミトさんはそこまでお考えか。なら私達も純利益の一割を出して寄付に充てましょう。そうすれば全部で純利益の二割分が寄付や基金になる」
「モルガンさん、俺の提案を受け入れてくれてありがとうございます」
「いやいや、フミトさんのアイデアは素晴らしい。では早速モルガン商会とフミトさんとの契約を交わしましょう」
契約書はお互いに一通ずつ作り保管する、契約書には魔法陣が書かれていて改ざんは出来ず、契約内容の公式な証明になるそうだ。
「よし、これで契約は完了ですな。あとはモルガン商会が商人ギルドに出願登録しておきます」
俺の提案はモルガンさんに受け入れられ、無事に契約も交わす事が出来た。
あとは商売のプロに任せておけば大丈夫だろう。
どのくらいの利益が得られるかまだわからないが、少しでも孤児や恵まれない子供たちの役に立てれば俺がこの世界に来た意味があるだろうからね。
そして俺はモルガンさん、そしてアランさんと握手を交わしモルガン商会を後にしたのだった。
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