第35話 ただの通りすがりの遊び人
モルガン商会を後にした俺は、冒険者ギルドに寄ってみることにした。
今から依頼を受けるかどうかは別にして、どんな依頼があるのか確かめて見ようと思ったからだ。
そういえば、この前ハンスさんの宿、銅の口髭亭にちょっと顔を出したらゼルトさんのパーティーは新しい護衛依頼の仕事を受けたそうで既に宿を出かけた後だった。
少し顔だけでも見たかったが、俺も孤児院の依頼で忙しかったし、すれ違いも仕方ない。
さて、冒険者ギルドに着き扉を開けて中に入る。
奥の食堂兼酒場を見ると、まだ昼前なのに酒を飲んでる人もいる。
この人達はどんだけ酒好きなんだよ…汗
うん、でも夜間の依頼がさっき終わった可能性もあるから決めつけはよくないな。
気を取り直して、依頼書が貼られている掲示板の前に行く。
Eランクの掲示板の前で残ってる依頼書を眺めていると、後ろの方から話しながら歩いて来る数人の気配がした。
「依頼とかめんどくせーな」
「まあ、見るだけでも見よーや」
「なんてったって俺達の本業は別だしな」
その数人はそんな話をしながら、一人がよそ見でもしながら歩いていたのか俺の背中に軽くぶつかってきた。
まあ、俺の方はステータス的に全然痛くないし、振り向いて確認したら短くした毛髪を逆立てた髪型の冒険者が二人とローブ姿の三白眼の目をした魔法使い一人の合計三人がいた。
二人は真っ赤な鞘の剣を持っている。
三白眼の魔法使いが雰囲気的にリーダーぽい。
「邪魔だ、さっさとあっちに行け」
俺は一瞬驚いたが、こういう輩と関わり合いになるとトラブルの元だ。
それに、ここで相手すると俺も目立っちゃうしな。
一先ず、その場を離れて食堂の方に歩いていく。
すると食堂にいた冒険者達が小声で話しているのが聞こえてきた。
「ちっ、あいつらまた来てるぜ」
「あいつら、別の街から流れてきた奴らだろ」
「何でもよ、前の街でも暴れてトラブルばかり起こしてたらしいぜ」
「噂では裏で商店を脅して金を巻き上げてるらしいぜ」
「実力はあるようだが、ギルドの審査に通らなくて上に昇格出来ずにCランク止まりらしいと聞いたぜ」
なるほど、前に査定所のおじさんから聞いた話が俺の記憶から蘇る。
──無謀で力だけがある冒険者はギルドの審査で弾かれてBランクには上がれないんだっけ。
向こうの方から3人の声が聞こえてくる
「相変わらずしけた依頼ばかりだな」
「なら、今日はアレで稼いじまうか?」
「あー、俺は憂さ晴らしがしてーな」
食堂に居た冒険者達の噂話ではBランクの実力があるような話しぶりだったけど…
さっきこっそり俺の鑑定眼で彼ら3人のステータスを確かめたが、彼ら3人が束になって俺に掛かってきてもまるで俺の敵にはならないだろう。
てか、たぶん俺の方が他の人に比べておかしいくらいの強さなんだよな…。
自分で言うのもなんだけど、俺って何者なんでしょうか。
俺はそいつらを横目で見ながら、何となく胸騒ぎというか、何かが起こる予感がしていた。
◇◇◇
次の日、冒険者ギルドに行ってみると…
食堂兼酒場で冒険者達が何やらヒソヒソと話してるのが聞こえてきた。
「何だかよ、昨日の夜にシリム商店に押し込み強盗が入ったらしい」
「家族は縛られて、店主のシリムと従業員は大怪我を負ったそうじゃねーか」
「噂じゃ犯人は最近この街に来た3人組じゃないかって…」
冒険者達の噂話をまとめると
覆面姿の男達がシリム商店に押し入り、店主を脅して金庫を開けさせ店にあった大金貨3枚を奪ったそうだ。
すぐに衛兵を呼ばれないように、抵抗した人には暴行して気絶させ家族を縛り猿ぐつわをかまして逃げたらしい。
犯人たちの顔は覆面でわからない。
これだとあの3人組が疑わしくても決定的な証拠がないな。
俺は簡単な依頼をこなしながらその日から三日経った。
夕方のギルドの食堂にあの3人組がいるのを確認。
周りはその3人組を恐れて近づかないでいる。
それとなく死角になる位置に隠密スキルを発動して俺は座りその3人組の話を聞いていると…
「今日の夜あたり、またやるか」
「この前はしけてやがったしな」
「ふん、今度はもっと儲けられるだろう」
そんな会話が聞こえてきた。
──この口ぶりだとこの前の事件もやっぱりこいつらなのかな?
俺はそっとその場所を離れて何気なくギルドを出ていくのだった。
そしてマルチマップにその3人組を登録して常時追跡にしておいた。
その日の夜になった。
既にマルチマップで3人組はロックオンしている。
俺は3人組に気付かれないようにマント姿でフードを被り、隠密スキルを使い尾行している。
すると3人組は目星を付けた商店の前で立ち止まり、懐から覆面を出して被りまだ鍵がかかっていない商店のドアを開け中に入っていった。
俺は素早く店の脇の物陰に行き、聞き耳を立てて中の様子を伺う。
暫くすると、店の中からリーダー格らしい男の押し殺した声が聞こえてきた。
「おい、騒ぐなよ。騒いだらどうなるかわかってんだろうな。有り金を全部出せ」
やっぱりあの3人組が強盗だったのか。
店主の「ど、どうか命だけは」という震え声が聞こえてくる。
「おっ、たんまりと貯め込んでるじゃねーか」
「おう、じゃあさっさと家族をふん縛ってずらかろうぜ」
店の中の方でガサガサと音がして人のうめき声もする。
少し経つと店の中から覆面姿の3人組が出てきた。
「フハハ、上手くいったな。これだから押し込み強盗は止められねぇ」
俺はそれを確認して物陰から3人組の前に姿を現し声をかける。
「強盗は駄目ですよ。どうです自首しませんか?」
いきなり現れた俺に3人組はギョッとして立ち止まる。
「誰だおめーは?」
「誰って聞かれても…ただの通りすがりの遊び人ですよ?」
「ちっ! ふざけた野郎だな。おいお前らやっちまえ!」
その掛け声を合図に俺達の間に戦闘が始まる。
だが、俺は時間をかける気はない。
一瞬で3人組の前に移動して《格闘術》スキルを使いそれぞれの鳩尾に拳で強い打撃を加える!
目にも留まらぬ速さで出された突きの三連打だ。
白目を向いてその場に崩れ落ちていく3人組。
たぶん、暫くは目を覚まさないだろう。
念の為に魔力ロープで手と足を縛っておき手持ちの布で猿ぐつわをかましておく。
俺は店の中に入り、縛られて猿ぐつわをかまされた人達を開放していく。
「大丈夫ですか? たまたま外を通りかかったら覆面姿で三人組の男達が押し込み強盗が上手くいったみたいな話をしていたので、問い詰めたら開き直って俺に向かってきたので退治しておきました。押し込み強盗の犯人は外で気絶させて手足を縛ってあります。今のうちに衛兵を呼んで来て下さい」
俺の言葉を聞き、店の外へ出て確かめる店主らしき人。
「本当だ、どなたか知りませんがありがとうございます。おい、フロル。衛兵を呼んできておくれ」
「はい、わかりました」
従業員か息子なのか、若い男が駆け出していく。
それを見て俺は店主らしき男に告げる。
「俺はたまたま覆面姿の押し込み強盗の現場に偶然出くわしただけなんでそろそろ行きます。気絶して暫く起きないはずなので衛兵が来たら事情を話してこいつらを突き出してください」
「そんな! 是非あなたのお名前を!」
「いや、俺は名乗るほどの者じゃありません。ただの通りすがりの遊び人ですから…」
俺は踵を返して夜の街に向かってマントを翻しながら駆け出していく…
今日は旨いエールが飲めそうだ。
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